剛剣を倒せ
「うわああっ! ニナあああっ!」
俺は真っ二つになったハルバードを見て、絶望の叫びを上げた。
「すまない。ニナ。俺がふがいないばかりに、おまえを犠牲にしてしまった」
がくっと跪くと、斧槍の切れ端に手を添えた。
「短い間だったけど、ありがとう」
『……あの、勝手に殺さないでもらえますか』
「うおおっ! おまえ生きてたのか」
ハルバートはバラバラになり、俺が持っているのは柄の部分だけだ。
もしも、人間ならヤバい状態だが。
『私は、こんなことではやられません』
「そうなの? やっぱおまえは凄いな。不死身なのか」
ホラー小説の怪物みたいだ。
『とりあえず、次の手を考えましょう』
「ああ……って、うおいっ!」
当たり前だが、今は戦いの最中だ。
敵は待ってくれない。
大剣の刃が、俺の肩口まで迫っている。
「縮地!」
俺は咄嗟に後ろへ回避した。
今ので『縮地』を使ったのは何度目だろうか。
あんまり見せると、サンダルトならタイミングを合わせて来そうだ。
「Pブレイクだ。サンダルトを倒すにはPブレイクで押し切るしかない」
『はい。私もそう思いますが……』
「なんだ。何か問題があるのか」
『私が壊れてるので、撃てませんよ』
「だよな。そうだと思った」
俺が持ってるのは、棒の部分だ。
普通に考えても、これでダメージを与えることはできないだろう。
『マスター。私の破片を拾ってください』
俺はサンダルトの攻撃をなんとか掻い潜り、ハルバードの破片を全て拾いあげる。
「よし、拾ったぞ。それで、どうすればいい」
『私が修復するので、マスターは時間を稼いでもらえますか』
自己修復機能って、本当に怪物染みてるな。
まあ、その話は今はいい。
「どのくらい稼げばいいんだ」
『3分です。それだけあれば、完璧に治してみせます』
そんな短い時間で治せるのなら大したものだが。
問題は俺がサンダルトから3分を稼げるかどうかだ。
「はあああっ!」
サンダルトの攻撃が俺の鼻先を掠める。
回数を重ねるごとに、攻撃が鋭くなっていく。
次の攻撃をかわす自信もないのだが……。
『死ねっ! 死ねっ! ラルフ死ねえええっ!』
大剣の騒がしい声が響いて、考えがまとまらない。
「……いや、待てよ」
今の俺ではサンダルトの剣を弾くことはできないし、壊すこともできない。
だが、声を聞くことはできる。
前に試したので、話しかけられることも分かっている。
どうせ嫌われているのだ。
だったら、その感情を利用してやればいいんじゃないのか。
「……すう」
俺は呼吸を整えると、声を張り上げた。
「おいっ! 下手くそ!」
大剣がカチっと反応した。
「さっきから単調な攻撃の繰り返しで、まるで怖くない。でかいだけで頭の中は空っぽだな。このデクの棒」
必死に考えた悪口だ。
もちろんサンダルトはこんな挑発に乗らない。
だが、大剣の方は別だろう。
『な、なんですってえええっ! もう一回言ってみなさいよっ! カス野郎っ!』
案の定、乗って来た。
俺はできるだけ小馬鹿にするように、言葉を続けた。
「攻撃がトロいって言ってんだよ。俺をやりたいなら、もっと本気で狙えよ」
大剣がカタカタと揺れた。
『……トロ……トロ……』
遅いことがコンプレックスだったのか。
こいつチョロいな。
『うるさいいぃぃっ! 死ねえええぇぇっ!』
サンダルトが剣を振り下ろすが、俺は右に避ける。
乱れが出てきた。
振りにも荒々しさがある。
それはわずかな変化だったが、今の俺にとっては充分だ。
これで時間が稼げる。
『マスター、修復が終わりました』
「よし」
俺はハルバートに触れるが、本当に完璧に治っている。
レベル 8
マナ 1680/2000
念のために、ステータスを確認する。
マナの量は、今までで最大の値だ。問題ない。
さて、最初に何か撃っとくか。
いや、やめておこう。
次に破壊されたら、きっと立ち直れないだろうからな。
ニナは平気でも、俺には耐えられない。
小細工は無用。
最初から必殺技だ。
「Pブレイク!!」
キィィィィン!
ハルバードの全体が赤く輝いた。
力がみなぎる。
「……ふっ」
サンダルトが笑った。
「この俺に力押しとはな。面白い奴だ」
斧槍を構えて、縦に振り下ろした。
「ヘルクラッシュ!」
サンダルトの大剣に、バチバチと稲妻が走った。
向こうも、全力で迎え撃つ気か。
望むところだ。
「はああああっ!」
「だりゃあああっ!」
ガッキイイイィっ!
お互いの刃がぶつかり合う。
金属音が響き渡り、火花が散る。
さすがに強いな。少しずつ押されて行ってる。
仕方ない。
ズルみたいで気が引けるが……。
俺は叫んだ。
「このノロマ女が――――ッ!!」
――ズルっ!
大剣がぐらついたことで、サンダルトが態勢を崩した。
「……今だ」
ニナの力を信じ、そして俺自身の力を信じ。
俺は渾身の力を込めて、前に進んでいく。
「……くっ」
パアアンっと弾けて、武器が吹き飛んだ。
大剣が地面に転がった。
勝ったのは、俺の方だった。




