女奴隷を買いに行きます
御前会議というのが終わると、俺の世話役を皇帝に押し付けられた、魔法兵のエストリアが近づいてきた。
そして彼女は(以下、前回からの引用)
>エストリア「あんたの世話役なんて冗談じゃないわ!」
>エストリア「ペテンを暴いて、あんたを処刑場に送って終わりにするわよ!」
エストリア「まあ、でも、バカでも皇帝の命令だから、まずは、その世話役をやるわね。」
皇帝に対してバカとか言って良いのか? 所長も言ってたが。
エストリア「それで、あなたの貴族邸と奴隷商、どっちを先に行く?」
俺「貴族邸?」
エストリア「ぜんぜん聞いて無かったのね。貴族としての屋敷よ。貴族には各々に屋敷が与えられてるの。あなたは失脚したマリネランの邸宅を引き継ぐ事になるわ。」
俺「じゃあ、まず奴隷商かな。そのあと、奴隷さんと一緒に屋敷に行く・・で。」
エストリア「そうね。道順としてもそれが正しいわ。
じゃあ、そこの廊下で少し待っていて。書類をもらってくるわ。」
と言われて、1時間は待たされた。少しかよ!
ようやく戻ってきたエストリアは肩から下げた鞄を叩きながら。
エストリア「準備できたわ。」
俺「ずいぶん、かかったなぁ」
エストリア「悪かったわね。ちょっと調べものをしていたのよ。」
俺「ところで、おまえの呼び方だけど、エストリアで良いのか?」
エストリア「いいわよ。私もヒロタンと呼ぶから。」
エストリアについて城の前の繁華街を歩く。まさに城下町という感じだ。
途中で奴隷商らしい看板の店があったのだが、エストリアはさっさと先に行ってしまう。
目的の奴隷商は城から歩いて15分ほどの所にあった。エストリアの話しでは帝国と取り引きのある奴隷商との事。
途中のは違ったのかな?
店に入ると、すぐに店の主と思われる男が現れた。
エストリアが、城から持ってきた書類を見せて何か話している。
入ってすぐの所に4人の奴隷がいる。男女二人づつ。その中の一人の若い女性が、こちらをみて。
「エストリア?」
エストリアが、声に振り返り女性を見て凍りつく。
俺「知り合い?」
エストリア「い、いえ。知らない人」
いや、絶対に知ってる顔だね。
声をかけた奴隷は、下を向いてしまった。あきらかに落胆している感じ。泣いているかもしれない。
その女性も気になるが、隣に、とってもかわいくて綺麗な娘が!こんな娘がいるなら期待できるかも。
エストリアは店の主人について、店の奥へ歩き始めた。俺もついて行く。
エストリアが小さい声で「急いで調べて良かった。でもお金が・・」
俺「えっ?」
エストリア「あなたには関係無い事よ」
奴隷商「お話しからすると、勇者様の、身の回りのお世話ができるような女性がよろしいでしょうか?」
俺「はい。そんな感じで。」
エストリア「なるべく、凶悪な罪じゃない人にして。」
奴隷商「分かっております。でも、今、残っている奴隷ですと、あまり良い女性がいないのですが。」
ずんずんと奥へ進んで行く。
奴隷商「帝国手形で100万ゴールドも頂けるとの事ですので、とっておきを、ご紹介させて頂きます。」
すこし、ドキドキだぞ。
だいぶ奥へ進んだところで奴隷商が一人の女性を
奴隷商「こちらの女性はいかがでしょうか?」
入り口の男女より良い服を着ている。その時点で、良い商品と店が考えているのは分かる。20代半ばで、確かに美人だし悪く無い・・のかな?
でも入り口にいた娘のが、かわいかったよね。エストリアに声をかけた女性の隣にいた娘。
エストリア「この奴隷は、どういった罪を犯したか教えてもらえる?」
エストリアは何を気にしているのかな?どうも良く分からないが。
奴隷商「窃盗ですが、それほど凶悪ではありません。ただ盗んだ金額が大きかったので奴隷となっております。」
奴隷商「家事一般に長けており、ご覧のように気立ても良く、勇者様には一番のお勧めかと。」
エストリア「どう?」
俺「悪く無い、、けど。」
だが、入り口の、。
俺「ひとつ聞いて良いかな?」
奴隷商「なんなりと」
俺「参考までに聞きたいのだけど、この人が100万ゴールドとして、入り口近くにいた4人はいくらかな?」
奴隷商「はい?」
奴隷商「あ、あのあたりは、勇者様にお勧めできるような。」
俺「だから参考までに、、ね」
奴隷商「そうですか?」
少しためらっているようだが、
奴隷商「当店では、入荷時に一番奥に並び、売れ残るに従って入口近くに並びます。」
入口近くはワゴンセールか!
奴隷商「ですので、彼らは売れ残りであり値段的にも最低です。」
エストリア「それって期限が近いって事?」
奴隷商「はい。たいへん不本意なのですが、あの4人は、あと2日ですね。」
エストリアの顔がひどく青い。何?
気になるので少し小声でエストリア聞いてみた。
俺「期限ってなんだ?」
エストリア「処分よ。」
俺「処分?」
エストリア「売れ残りの奴隷は処分・・殺されるの」
俺「何だよ?!?!それっ・・」
奴隷制度も酷いと思うが、売れ残りが殺されるなんて!理不尽にもほどがあるだろ!
酷すぎないか?どういう国だよ!
でも、それで、エストリアが青くなっている理由が分かった。
エストリアの知り合いが殺されてしまう・・という事なんだろう。
それに、あのかわいい娘も! なんて事だ! まったくどうかしている!
もう一度、奴隷商に向かって
俺「それで、入口の奴隷は、いくらなんだい?」
奴隷商「まあ、最低と言っても、奴隷化 瑠璃の経費もありますので、5万は頂かないと。」
俺「5万ゴールド・・か。」
奴隷商「はい。」
しぶしぶ認めたような。
奴隷商「いずれにしろ、
入口近くの奴隷は問題があるゆえ売れ残っている者ばかりです。そうした者を勇者様にお売りするわけにはまいりません。」
うん。100万の商売のチャンスに5万は無いよね。商売人としての気持ちは分かるぞ。
逆に言えば、相応の利益があれば、この主人は納得する、、かな。
そして、エストリアには恩を売るチャンスかもしれない。エストリアが、エストリアに声をかけた女性の事を気にかけているのは確実だ。
俺はとにかく、あの美少女タン!!!!
よし!
俺「人数が多いってのも良いと思うんだ!?」
そして思い切って
俺「入口の4人を4人とも買うというのは、どうだろう? それでも合計20万ゴールドだろ?
それに少し追加して払うと言う事で、奴隷商さんも満足してもらえないだろうか?」
だが、あきれたようにエストリアが
エストリア「はあ? 何を言ってるの? 私たちは現金を持っているわけじゃないのよ。ここにあるのは帝国の書類だけ。」
へ? 取り引きの形態が俺には分からんぞ。
奴隷商「はい。お持ち頂いた書類には、帝国手形100万で相応の女奴隷を購入、となっております。
私どもとしては帝国に対する信用が絶対です。書類の記述以外の事はできかねます。」
なるほど、帝国側としては変な事にお金が使われないように文書化しているわけか。割としっかりしているな。
う~ん、でも、そうなると、ここの取り引き習慣が分からん俺には、どうして良いやら・・
とか考えていると、エストリアが、大きく深呼吸した。
そして、決意したように。
エストリア「先に、女奴隷一人を100万ゴールドで売る契約書を作って頂けないかしら?」
奴隷商「・・。何をされるおつもりで?」
エストリア「私がその契約書をお城に持って行って、現金に換えてくるわ。契約書があれば、お城で現金を前受けする事が可能なはずよ。
その中から、現金で50万をお支払いするので、入り口の4人を売ってちょうだい。それで、あなたは30万のプラス利益よ。
あとは、最初の契約書にサインをもらえればOKよ。」
奴隷商「・・。当店は帝国から奴隷を仕入れています。ですから、先ほども申し上げたように、帝国への信用を無くすような事は断じて。」
エストリア「奴隷の値段を決めるのは、帝国じゃなくてあなたでしょ?
100万ゴールドで奴隷1名を売る契約書類を作って頂ければ十分と言ってるのよ。」
奴隷商「・・・。」
絶対だと言っていたくせに、考え込んでる。
奴隷商「50万では無く現金で60万をお支払い頂くという事で如何ですか?追加の利益は40万づつの折半です。」
エストリア「そうねぇ。・・」
少し考えてから、
エストリア「4人に今、着ている服では無く、こちらの100万の奴隷程度の良い服を付けてくれるかしら。」
奴隷商「承知しました。」
エストリア「商談成立ね!」
おまえら悪いやつらだなぁ!
奴隷商「おまちください。契約書を作ってまいります。」
エストリアが城まで往復して、重そうな現金の袋を持ってきた。いいのか?ほんとにいいのか?
奴隷商「念のため、もう一度、確認しますが、あの4人は売れ残りで・・」
エストリア「かまわないわ。説明は不要よ。勇者様は、たいへんお強いので大丈夫。」
奴隷商「・・・。さすが勇者様ですな。」
え?何?どういう意味?
まあ、しかし、これで、あのかわいい美少女をGETだ!
もう、なんでもいいぞ! この世界に来て初めて異世界物の定番ハッピーイベントだよ!
奴隷商「勇者様。では奴隷主人の瑠璃を埋め込みますので腕を出してください。」
なんだろう? 識別用のICチップ?
小さいな宝石みたいな物が太い注射器で俺の手に埋めこまれた。予めアルコールで消毒しているし、医療技術はそれになりにありそう。
奴隷商「書類はこちらになります。女性二人、男性二人。」
書類はエストリアが受け取った。
頭の中に4つのイメージの対象みたいなのが、できてるのが分かった。どういう原理なんだろう?
奴隷商「奴隷化の瑠璃についてはご存知ですか?」
俺「まったく分からん。」
奴隷商「主人と奴隷の双方に、各々の機能を持った瑠璃を埋め込みます。それによって、奴隷との通信が可能になります。」
おぉ。便利だな!
奴隷商「あとは、主人は奴隷に痛みを与える事ができます。」
お仕置きも可、、なのか!
奴隷商「やり方は・・」
エストリア「後で私が彼に説明しておくわ。」
奴隷商「・・。承知しました。」
奴隷商「毎度、ありがとうございました。ちなみに、ヒロタン様は、こうした売れ残り奴隷に、ご興味がおありだったりしますか?」
俺「へ?」
奴隷商「いえ、そういう事であれば、売れ残りが出た際にご連絡させて頂こうかと。私どもとしても期限切れは、たいへん不本意な事です。」
俺「はぁ」
奴隷商「もちろん、今回の買い物を気に入って頂けたら、という事で結構です。
ぜひ、今後ともご贔屓にお願いもうしあげます。」
入口近くに戻ってくると、既に4人が待っていた。
女性が二人。一人はエストリアに声をかけた、エストリアと同じ20才と少しぐらいの女性。眼鏡にソバカスの図書委員風で暗い感じだが、まじめそうで悪い印象はない。
なぜ、売れ残りなのかな?
もう一人の女性が、例の美少女タン!18ぐらいかな?肌が白くて、銀髪。小さい顔に大きな目。
全てが整っている。まるで人形のようだ。
この娘もなぜ、売れ残りなのかさっぱりだ。
男二人は売れ残った理由が分からなくも無い。
一人は、汚い悪ガキって感じだし。もうひとりは、片腕を吊っているやさぐれた若い男。ついでに買っただけだし、どうでも良い。なんなら、解放して捨ててしまおう!
エストリア「一応、断っておくけど、奴隷を開放するのは重罪よ」
俺「え?」
もしかして心を読まれた?魔法兵って、そんな事ができるの?
エストリア「知らないの?奴隷に落とされるのは刑罰なのよ。だから逃がしてはいけないの。」
俺「じゃ、この4人と一緒にいないといけない?」
エストリア「当然ね。あんたには管理責任があるわ」
もしかして、この国の奴隷とは、刑務所の代わりに罪人の管理を個人にぶん投げる制度!?
それを先に言えよ!
エストリア「あなたは、とっても危険な事をしたのよ。」
・・・。先に十分に説明しなかったのは、おまえの計略じゃねか?!
エストリア「そして、、、私もね。」
ん? まあ、お金を横領してるしな。
エストリアと俺と奴隷4人で店を出る。
店主が奴隷とは思えない良い服を用意してくれたので、4人とも普通に街を歩いて問題無さそう。
店を出て、少し歩いたところで、突然、、エストリアが最初に声をかけた女性を抱きしめた!
エストリア「ごめんね。ルナ!さっきは知らない、とか言って!」
ルナリス「・・。こうして助けてくれたのだし。あやまる事なんてないわ!」
俺「やっぱり知り合いか」
エストリア「そうね。ルナリスは学生時代からの友人よ。あなたには礼を言うわ。」
抱きしめられたルナリスという女性は少し泣いている。
エストリア「皆で屋敷に行きましょうか!ルナ、あなたの家よ!」
俺「はぁ?」
ルナリス「なにを言ってるの?」
エストリア「この勇者さん、ヒロタンは新しく貴族になるのよ。
失脚した、あなたのご両親の代わりよ。」
う~ん。いろいろ分からん。何がどうなっているんだ!
俺「つまり、ルナリス・・、で良いのかな?」
ルナリス「はい」
俺「うん。ルナリスは、少し前まで貴族だった家の娘で、、。それがなんで奴隷?
しかも、売れ残り?」
ルナリス「それは・・」
エストリア「ここでは止めましょう。屋敷についてからよ。」
まあ、いろいろたいへんそうだけど。
とにかく、美少女たんがいる。もう、それだけで嬉しいぞ!
屋敷までは歩いて行くには遠いようだった。お金があるので、エストリアが馬車を買う事を提案してきた。
近くの店で、中古なら馬付き2000ゴールドもあれば買えるらしい。奴隷は高いのね。
エストリア「この中に御者をできる人がいるかしら。」
やさぐれた男が伏目がちに「馬車は戦車戦のために習ったからな。できるぞ」
エストリア「けっこう。名前は?」
男「ストリュ」
エストリア「って、いいけど、あんた片腕が動かないのじゃない?それで、御者ができるの?」
ストリュ「戦車戦といったぞ。片手で武器、片手で手綱は当然の技量だ。」
エストリア「そ、そうなの?じゃあ、頼むわね。
道はルナ。あなたが案内して。」
どうでも良いけど主人はオレじゃないのか?なんで仕切ってるのだ?
ストリュとルナリスが馬車の前に座る。
俺は馬車の後ろで美少女たんの横に座れた!うん、最高だ!
俺「君は、かわいいよねぇ。名前は?」
かわいすぎて、てれるので、前を向いたまま言ったら。
反対側に座った悪ガキっぽいのが「オレはクラムな!ストリュの兄貴の次に強いぜ!」
俺は”かわいい”と言ったぞ!おまえはどうみても違うだろ!
俺「あ、クラム君ね。うん。分かった。」
俺「それで、キミなんだが。」
今度は、絶対に誤解されないように、美少女たんに向かって・・。
と、斜め前に座ってるエストリアが
エストリア「その子に目をつけたわけね。」
俺「な、なんだよ。」
エストリア「バカね」
俺「かわいいじゃないか!ひがんでるのか?」
エストリア「まさか」
くそっ!せっかく美少女たんと話そうとしているのに邪魔が多いぞ!
エストリア!おまえが勝ってるのは胸のサイズだけだよ!
俺「それで~、。きみ、名前はなんて言うの?」
今度こそ!
美少女「サミアス・・です」
表情が無くて冷たい感じもするが、美少女はそれぐらいが良いよね。
ガラス細工のようだ。冷たく光ってる感じだよ。
俺「うんうん。サミアスちゃんね。俺が、その、。君を買った人、だからね。」
サミアス「はい。買っていただいてありがとうございます。」
ぐっと来るセリフだ! これだけで、ごはん3杯は行ける!!
相変わらず冷たい感じだけど・・。
エストリア「まあ、いいわ。あんたのバカのおかげで、ルナが救われたわけだし」
いちいち、やなヤツだ。
エストリア「じゃあ、奴隷化の瑠璃の機能を説明しておくわね。」
エストリア「クラム! ヒロタンに瑠璃で話しかけてみて。」
クラム「いいぜ!」
クラム<分かるか? 俺だぜ!>
頭の中のイメージの一つから声がする。こういう物なんだ。
エストリア「聞こえてるみたいね。それに向かって返事をするのよ。」
俺「聞こえるぞっと」
エストリア「声に出さなくて良いのよ。」
俺「う~ん。」
俺<聞こえたぞ!?どうだ?>
クラム「うん。ばっちりだ!」
エストリア「大丈夫そうね。今度は、じゃあ、サミアス。あなたよ。」
サミアス<聞こえますか?>
俺<おぉ! 聞こえるぞ! かわいいサミアスの声だ!>
俺「大丈夫だ!」
エストリアが、御者台の方に乗り出して、
エストリア「ルナリス、ストリュ、あなたたちも、ヒロタンに瑠璃で話しかけて」
ルナリス<よろしくお願いします。>
ストリュ<うるさくするなよ>
俺「こういうのって、奴隷以外でも使えそうだな。」
エストリア「帝国軍では部隊内で通信用の瑠璃を使ってるけど。
ただ、距離が限られるのよ。
この町の中だけと思った方が良いわね。」
俺「俺とエストリアでも出来るのか?」
エストリア「通信用の瑠璃を買って埋め込めば出来るけど。
絶対にイ、ヤ、ヨ!」
とか、やっているうちに、結構、立派なお屋敷に着いた。
すみません。誤字とかをなおしました(10/09) エスタリアとエストリアがごっちゃになっていたのを修正しました。(10/13)