第6章 インサイダー疑惑(6-1)
ファイナンスニュース速報。
《ミサラギメディカルが急落。同社は本日十三時、かねてから取り組んできた新型マクロファージ活性化制御剤の開発を断念したと発表。これにより提携先のヴィアトメディクスからのマイルストーン受領が行われないことが確定したものの、第三四半期決算に及ぼす影響は軽微であるとしている。前場では決算への期待から底堅い動きが見られた反動もあり、後場に一気に投げ売りを誘った格好となった。証券筋では市場の反応は過剰であるとの観測が優勢のようだ》
株式掲示板・SNSの反応。
《ジェットコースターだね》
《釣り上げて落とす》
《エグいね》
《怪しい動き》
《パニックを誘ってたな》
《逃げましたw》
《大口が情報つかんでたのか》
《インサイダー?》
《誰か通報しろ》
◇
翠が仕事に出た後、自宅でメール処理や決裁事項の確認をおこなっていた蒼也のスマホが午後に入った途端、鳴り止まなくなった。
さばききれないメッセージをいったん脇に置いて財務責任者からの電話に出る。
彼は元々ミサラギグループの社員で、幸之助の下で経験を積んだ信頼できるベテランだ。
「何があったんですか?」
「決算情報の開示がきっかけで株価が急落しています」
すぐに手元のタブレット画面に株式情報を表示させる。
――ストップ安?
一日あたりの最大限度まで下落して捌ききれない売り注文が積み上がっている。
モニターの赤い点滅が鼓動を追い立てる。
「マイルストーンの件は想定の範囲内なのに、過剰な反応ですよね」
「不適切な情報流出があったのではないかと噂が流れているせいで、トラブルを恐れた個人投資家がパニック売りを出しているようです」
「もちろん、噂されるような事実はありませんよね」
「通常のルールに則った開示ですし、決算への影響が軽微なのも事実です」
「なら静観するしかありませんね」
電話を切ってもメッセージがひっきりなしに流れてくる。
市場は市場に任せるのが原則だ。
自社の株価の動きに関して声明を出すのは誘導になって、かえって不適切だ。
その後も、取引終了時刻までにいくつかの国内投資家から確認の問い合わせはあったものの、蒼也が明快に疑惑を否定したことでそれ以上の抗議はなかった。
しかし、SNSではミサラギメディカルのトピックがランク入りしていた。
《カリスマSが動いてるらしい》
《スガキ?》
《ヤツら何をつかんでるんだ?》
《第二弾あるかも》
《早く逃げろw》
時間外取引でも買い手がいないまま十パーセント以上の下落を記録している。
《空売り祭りじゃん》
《明日も荒れるな》
《倒産?》
《さすがにそれはないっしょ》
――意図的な株価操作?
海外の取引が始まる前に対応を協議する必要があるな。
タブレットをカバンに放り込んで、財務責任者に電話をかける。
「とりあえず、今からそっちへ行きます。幹部を招集してください」
書き置きを残して蒼也はオフィスに急いだ。




