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人見知り冒険奇譚  作者: ふぁくとりー
初めてのVRMMO
20/40

激動の三日間②

テーナーが動くよ!紅さんが凄いよ!って話。


主人公弱気注意。すっごいヘタれる。

目が覚めて、照菜が『色々ありすぎてアレだから、明日学校でね(^^)』というメールをよこしたのを見てベッドにダイブする。


まだ起きたくない気分だ。

そうも言ってられないがな!


「おはようございますなっちゃん大好へぶし!」

私の蹴りがその人物に炸裂するが、口でへぶしと言っただけで実際は防いでいる。


我が母の千夏(ちか)、体に満遍なく無駄のない筋肉がついた、断崖絶壁(すとーんぺたーん)な体系である。

身長だけは似たいくらい高めだが。


「おはよう母さん」

「あらあら?なっちゃん今日具合悪いの?」

悪いわけじゃないんだけど、確かにムカムカはした。


「ゲームでちょっとやなことがあったけど、もうすぐ照菜のおかげで解決する」

「あらあらまあまあてっちゃんが!」


どうでもいいけど音がなんとなくアレだから、娘の親友をそのあだ名で呼ばないでほしい。

そう言ったら「でも他の呼び方はなっちゃんしか思いつかないし…」と言われた。

るの消失事件だ。


「昨日は山場、今日は調整」

「そう?私も手伝ったほうがいいかしら?」

「母さんが関わると相手の神経を全損するくらいじわじわ痛めつけるからやめて」

「あらあらまあまあ。別にいいけどね。お父さんが道場の方で待ってるって言ってたわよ」

「わかったすぐ行く」


ちなみに両親と照菜含めた友人の前では普通に喋れるんだなこれが。

自分のダメさにちょっぴり落ち込んだ気持ちを無理やり引きずり起こしながら、道着をまとった。


ちなみに我が母の仕事は格闘評論家。なまじかじった人間より断然強い。仕事の方もすごくよくできるが、いかんせん家事の方は壊滅的という他ない。


せめて洗濯機回すときは、タオルとそれ以外を分けて入れてくれ。あとポケットから物は出して。

ポケットティッシュは惨状を引き起こすから。


「…来たか」

「はい。本日もよろしくお願い申し上げます、師匠」


道場の中では、父を父と呼んではならない。

まるで修行僧のようだが、父さんなどと呼んだ暁には攻撃がヘロヘロになるので、強くなるためには意味がない。


さて、本日もこの広い道場を磨き上げたら、私は何十回と床に転がされて、ようやく朝の稽古を終えた。




照菜から聞いたのは、紅さんが情報を掴んだ時の話だった。


「紅、BL一冊で手を打ってくれたわ。それで、どうやってやったかっていうとまず、初心者の装備を着て暗殺スキルの『変装』で髪の色を変えてね、それでそのまま大通りを歩き始めたわ」


なんとど直球で行ったらしい。すごいなこの人。

しかし変装ね?それはクウガが使ってたやつかもしれない。


「それで、不安げにキョロキョロして黒ずくめに駆け寄って、『ここどこですかぁ!』と叫んだわ」

美人に泣きつかれて悪い気のする男なんていないものね、と照菜が笑った。


照菜も割と整った顔立ちだけど、その怒ったらものすごくイイ笑顔になるのはやめたほうがいいと思う。

理由は若干特撮の悪役女幹部風に見えるからだ。はまり役だが、普通に笑うとものすごく可愛いのだ。


「それで相手はまごまごしてたんだけど、装備すごいとか強そうとか褒めたら、一瞬で陥落したそうよ」

うん、中身はどうであれ顔がいいってそれだけでアドバンテージだよね。個人レストランではかなりの確率で店員さんに「ちょっぴりサービス」をもらえるらしい。(紅さん談)


「それから、Knight of Nightのクランメンバーだって判明してね。集まってきた全員がそうだって言ってたわ」

ちなみに外でレベリングに挑みながらポーションを使っていたのはそこだけだったようだ。これはテーナーたちが体を張って調べてくれたという。


歯がゆいと伝えたところ、「あんたに今できるのは、部屋の中でポーション作ることだけよ」とバッサリ行かれてしまった。

今下手に動くと事がうまくいかなくなるから、とがっつり釘を刺された。


なんというか、こうあっけないにもほどがある。テーナーたちに頼るのは心苦しいが、なんとかアクセサリー類でお礼をすべきだろう。ゲームで。


「それで、どうもポーション使用組を守りながら、不使用の人を捨て石にしてるっぽいのよねームカつくわぁ」


Knight of Nightは通称KoN、コンとも言われる。ちょっとダサい。

KoNはβではかなり活躍していたトップ集団らしく、攻略組の七割を占める人数だったそうだ。


クランとしても個人の技量よりは連携に振り、いかにボスと戦うために下の者が上の攻略メンバーを支えるかが主軸だったようで、今回もその方針を貫いているらしい。


そんなクラン入る方も入る方だが、人のことを言えないので放置。ブーメランである。


んで、ポーションのことを何回か尋ねられたこともあったようだが、彼ら自身は決して口を割らなかったという。

一パーティーだけだが、その装備しているものもプレイヤーメイドの蛇装備だったという。


…蛇は今の所私しか狩れない(テーナー談)らしいんだけどなぁ?初回に会った時売ってボルボさんが一時間で仕上げると鼻息を荒くしつつ引っ込んだの覚えてるけどなぁ?


降って湧いたのかなー?


何はともあれ怪しさ爆進のクランであるというのがテーナーの見解だった。

私はすべて聴き終えるとふうっとため息をついて、わずかに冷めかけている水筒の中の玄米茶を飲む。


「照菜、私からも昨日の報告をするね」


屋上で風に吹かれつつ、私はご飯をもしゃもしゃ食べながら昨日の概要について話す。

照菜の表情が、イイ笑顔になったと言えばわかりますねハイ。


そういうわけで、今回ログインに際して白蛇装備の相談の名目で全員を明日に呼ぶことにした。

早い方が被害は少なく済む。


今日には照菜が蛇装備とポーション使用パーティー名を聞き出せると言うので、疑われないよう昨日製作したポーション改をカーマインに納品するようにテーナーに言われた。


元値がただだからといって惜しくないわけじゃない。時間もかかっているし、何より腹がたつ。

けど、ここで全てをおじゃんにして、カーマインを一発殴る権利をなくす方がよっぽど惜しい。


私はログインすると、椅子から立ち上がってふうっと息を吐き出した。

とりあえず、全員にチャットを送っておく。


『明日、白蛇の素材の用途について相談したいことがあります。今日は用事があるので明日のリアルで九時以降には時間が取れるので、了承してもらえるとありがたいです』

返信が来たのは全員からで、今日は用事があるという事にして、とっととログアウトする。


今日ログインできたんだから、今日それについて話しちゃおうぜ!というのをなくしておくためだ。


目覚めると、机の上に置かれた端末が光るのを見て、機体を外してベッドの上に置く。新着メールが照菜から来ていた。


「……テーナーは、パーティーの特定を終えたのか……早っ」

外部のインターネットに中から接続して、私にPCのメールアドレスで連絡して来た。うん、そんな方法あったのね。

説明書だけはちゃんと読んでおこう。


『蛇パーティー名は、『GLORY』、もう一個のポーション改組は『HEROS』だよ。英雄に栄光なんて頭がトチ狂ったとしか思えないわーwww

そんなんならそのポーションよこして欲しい(涙目)』

そりゃあまた洒落というか皮肉がきいていると言うべきか。


「……私は、照菜に頼りっぱなしだなぁ……」


ベッドに転がりながら、私は惨めったらしく丸くなっていた。待つことしか今はできない。


ちょっぴり、そうほんのちょっぴりだけ泣いて、寝付けたのは十二時を過ぎたくらいだった。

立ち上がれフィーちゃん!

話が山場なのに主人公がグダグダだ!

どうしよう!

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