■断章五 狂愛のクピド
■断章五 狂愛のクピド
ふむ、ヒトの親とは子供のこととなると我を忘れてしまうものなのだな。
遥けき過去、私の素体を産み育みし親もそうだったのであろうか……?
もはや詮無きことなれば答えのないひとり問答はせぬこととせん。
我もまた親ならず、ひとり黄金の領域への歩みを進めし者なれば、親心を知らぬは宿命なる業なり。親なれば、家族を持つ者なれば、越え得ぬ試練にてその身を惜しむものなるべし。
故に我知らず親の心。我知らず守るため我を忘るる心持ち。
されど我は我。我思う故に我あり。我、我たらんと欲し我たるを知る者なり。
我は我なり。我が道を往くものなり。
業も因果もすべて我が我なる故。我が身のうちに天包む自己なり。
おお、チカよ、チカよ。我が愛しのチカよ。その小さな胸は千々《ちぢ》に乱れ、不安に苛まれているのだな。よかろう、私がチカとキョオの心を継ぐ橋をかけよう。
キョオと結ばれることこそチカの幸せであり、我が望みだからだ。
キョオよ、汝もまた無力さに打ちひしがれているな。それもまた愛あればこそ。愛ぞすべてと語った賢者は崇拝者に討たれ、その言葉は永遠となり真実となった。
それは全宇宙と全時空を貫く理なり。
善きかな、善きかな。恋するふたりに、我が祝福を授けよう。
夢魔よ来たれ。その翼にチカの夢をのせて羽ばたけ。キョオの夢へと縁を刻め。
我が望みなればこそ。我が望みなればこそ。
そして我が願いぞ叶う時よ疾く来たれ。キョオよ、夢の種子は汝の心を蝕めり。
汝の内に狂気ぞ宿れかし。汝の内に虚ぞ宿れかし。
因果の蔦は汝を絡め取る。因果の刃は汝を苛む。
されど逃れるすべはなし。我が術中に汝はあり。
我が宿りよ、疾く来たれ! 我と汝の宿命ぞここに刻まん!




