■第四章 Dreamers Again
■第四章 Dreamers Again
昼間仮眠を取った体は千佳の心配も重なってなかなか眠れなかった。ナースセンターに行って相談したが、睡眠薬は医師の処方箋なしには出せないそうだ。まあ、そうだよね。
番長だけどまだ未成年だからこっそり抜け出して酒とかを買う訳にもいかないし(年齢確認がある事ぐらい俺だって知っている)、俺は悶々とした夜を過ごしていた。だがそんな時に、病室のドアをノックする者が現れたのである。
「どうぞ。どなた?」
「キョオちゃん! 心配したよぉ!」
現れたのはなんと千佳だった。なんでこんな時間に、こんな場所に?
「いつまで待っても電話くれないんだもん。電話したら電源入ってないっていうし、メールしても返事来ないし。私心配で泣いちゃって、気がついたらここにいたの。ここ、また夢の中なの? これはキョオちゃんの夢?」
そうか……もしかすると、そういうことか。俺たちはどうやら夢を共有する奇妙な体質になっちまったらしい。
今夜も俺たちは知らず知らず眠って、同じ夢をみているんだ。あの臨死体験がきっかけだったんだろうか?
俺は手短に検査入院のことを伝え、音信不通になったことを詫び、俺たちが陥ってしまった夢を共有するという妙な体質について告げた。
「それは何とかしなくちゃ、だね。私だってキョオちゃんに見られたくない夢はあるもん」
「とはいえ夢の中まで意思でコントロールできないよなぁ。夢は無意識だし」
「集合的無意識を共有してる?」
「そういうことになる。ゲームじゃあるまいしな」
「おぉ、なるへそ」
夢の共有なんて超常現象が起きてるんだ。何があっても不思議じゃない。だが何かあるとしたら俺の方だろう。千佳は普通の人間だ。元・能力者の俺とは違う。
「すまんな、千佳。俺のゴタゴタに巻き込んじまったみたいだ」
「私とキョオちゃんは一心同体。運命共同体。どんな苦難も共に乗り越える覚悟」
「ありがとう。それじゃ、一緒に考えてくれ。俺たちに何が起きたのかを」
「うん!」
超常の知識に関してなら俺たちはエキスパートだ。元・能力者とアニメオタクのコンビネーションを舐めたら痛い目を見るぜ。しかも、超常が現実になってしまった(のかもしれない)となれば、久々に俺の中に熱いものが滾ったとしても無理はない。
そして俺たちはあーでもないこーでもないと考証を巡らせた。
あの臨死体験がキッカケならあの時の人影が鍵なのか? だとしたらそいつも超常の存在に違いない。夢の共有なんていう超常現象を人為的に起こしているのだから。
そいつのメッセージ「世話を焼かすな」とはどういう意味だ? まるで俺を監視しているみたいだったが……?
臨死体験で助けられたということは俺の生殺与奪を握っていて、なおかつ俺を生かしておきたいということになる。何の為に?
目的が分からない。情報が足りない。とりあえず害意はないとしても……用心はしておいた方が良いだろう。それが俺たちの到達した結論だった。
「仕掛けてくるとしたら夢の中。これからも同じ夢を見て警戒する」
「いや、こうして同じ夢を見せることが目的を果たす為に必要なんじゃないか?」
「でも、見ちゃう。ならばそれを見越した対応をすべき」
「千佳、意外とリアリストだな」
「キョオちゃんこそドリーマー」
「ごめんな。幻滅したか?」
「ううん、悪い意味じゃない。それにキョオちゃん恰好良さ3割増し」
「それは多分アレだ、補償的心像って奴が投影されてるんだ」
「そうなの? 確かに夢の中のキョオちゃん、いつもより恰好良い。私もそう見える?」
「夢の中でも千佳は可愛いよ。現実も夢も素敵だ」
「あは、またキザったらしいこと言ってる」
「これは俺のセリフだからな。アニムスが言ってるんじゃないぞ?」
そして朝が来て、俺たちは夢から醒めた。夢の中で聞き出した千佳のスマホ番号を急いでメモし、公衆電話から掛ける。これで繋がれば同じ夢を見た証拠だ。
――トゥルルルル、トゥルルルル、ガチャ!
「キョオちゃん? 夢だけど夢じゃなかった!」
……千佳よ、ここでソレ持ってくるか? アニメオタクの業は深いようだ。
「まあ、確かに夢だけど夢じゃなかったな。いよいよリアルが超常の侵食を受けてるってことだ。覚悟しろよ、ここからはマジでヤバイぞ」
「夢でも言ったとおり、私とキョオちゃんは一心同体。どんな苦難も共に乗り越える覚悟」
「頼もしいな。それでこそ邪鬼王瞳の使い手だ」
「当然。今日はまっすぐその病院に行く。学校はブッチ」
「不許可。というか、今日は学校の様子を探ってきてくれ。俺たち以外に同じ夢を見てる奴がいるとすると、話がまた変わってくる」
「了解。学校が終わったら病院に行く。待ってて」
「今日は一日検査だから、いなかったらごめんな」
「むぅ、その時はその時」
「俺がドジ踏んだせいで迷惑かける。本当にすまん」
千佳の甘い声が受話器越しに聞こえた。つい頬が緩むが、超常事態のさなかだということを思い出して気を引き締める。
「明日検査結果が出れば退院して動けるようになるはずだ。それまで外回りを頼む。千佳だけが頼りだ」
「うん、任せて。キョオちゃんの役に立ちたいもん。あ、ママが起こしに来た。じゃね」
「ああ、じゃあな」
――あんた今日からお弁当作るって言ってたでしょ? という千佳の母親の声が聞こえたところで電話が切れた。そういえば弁当作ってくれるって話だったな。病院に持ってくるのだろうか。病室で食えるといいが。
CTだかMRIだかのキャンセル待ちをして検査が終わったときにはもう夕刻前の時間だった。千佳は俺がいない病室でひとり待ちくたびれて、ベッドにもたれて居眠りをしている。
もちろん俺は眠っていないから千佳の夢は窺い知れない。眠る時間をずらせば別の夢を見るということだろうか。これはヒントかもしれない。
初めて見る千佳の寝顔はやはりとても愛らしかった。起こすのが忍びなくて、付き添い用の椅子に腰掛けて千佳を見つめる。愛らしくて、綺麗で、素敵だ。俺の知る最高のひとだ……。
――ドガッシャーン!
無遠慮な音を立てて建て付けの悪いドアがいきなり開いた。何やってんだお袋! 千佳が起きちゃったじゃないか!
「キョオ君起きてる? ……あら?」
「あらじゃねえよ、お袋」
「おっ、えっ、おふ?、おばさま?」
あ~あ、すっかりパニクって。
「何、お見舞い? 彼女?」
「そうだよ! 彼女だよ!」
「初めましておばさま! キョオちゃんの彼女の小日向千佳です!」
「あらあら、本当に彼女!? 良かったわねキョオ君。小日向さんよろしくね」
「はひっ、おばさまっ!」
「いいだろお袋! 何しに来たんだよ」
「何って勤務明けに様子を見に来たのよ」
「あ……おばさま看護師ってこの病院だったの、です、か」
「そうよ。ウチは何にしても病院ならここよ。キョオ君を産んだのもここなの」
「へえ……」
「それじゃ顔見たし、お邪魔虫は帰りま~す」
――ガシャン! と音を立てて扉が閉まる。いいのかお袋? 学校公認のイチャラブバカップルだぞ?
「ごめんな、騒々しいお袋で」
「突然でびっくりした。あれがキョオちゃんのおばさま……挨拶しちゃった」
「うん、まあ、そうだな。そりゃ驚くわな。俺もそのうち千佳の御両親に挨拶にいくよ。それより学校の方はどうだった? 異常はなかったか?」
「特に異常なし。一見して平和そのもの。ただしプールはもう禁止! だって」
「ああ……そうか。そりゃそうだな。暑いのにすまんな、俺のせいだ」
「やはり敵が仕掛けてくるなら夢の中。学校よりここに来て一緒に眠るべき」
「慌てるな、敵と決まったわけじゃない。それに明日になったら検査結果聞いて退院だ。その後から対策しても遅くはない。それより千佳、今どんな夢見てた?」
「今? あぅ、びっくりして忘れた」
「忘れたけど見てたんだな? ひとりで眠ればひとりだけの夢が見られる。これは事態を把握する鍵かもしれない」
「おぉ、なるほど。敢えて同じ夢を見ないことが突破口! ……でもせっかくだからもう少し同じ夢を見たい」
「それもそうだな。また同じ夢をまた見られるかどうか、まだ確証はないし。確証を得るためにも今夜は小細工せずに素直に寝てみるか」
「今夜同じ夢が見れたら今度こそガチ」
ふんす、と千佳は鼻息を荒げた。まるで確実に同じ夢を見られることを確信しているかのようだ。確かにその方が世界は面白いな。
そして夜の電話で話せない分しゃべったあと(しゃべっただけ。本当だよ!)、病院特有の早い夕メシの時間になってしまった。面会時間ももう終わりだ。俺も名残り惜しかったが千佳を帰らせることにした。夢でも会えるし、夢がダメでも明日の朝電話する、と千佳を言い含めたのである。
結論から言えばその夜俺たちはふたりとも夢を見なかった。そして次の日、俺は夢であって欲しかった『悪夢のような現実』に直面したのである。




