『プロローグ:裂界の記憶と、底辺高校生の裏の顔』
俺TUEE系のものなので気軽に読んでください。若干ハーレム要素も入っています。
初心者なので設定が変になってても大目に見てください
空が割れた日のことを、今でも鮮明に語れる人間は少ない。
十年前のあの日、世界中の空に突如として無数の亀裂が走った。まるで巨大な硝子板にひびが入るように、青空にも、曇天にも、夜空にも等しく亀裂は走り、そしてそこから「門」が生まれた。
人々はそれを『ゲート』と呼んだ。
ゲートの向こうには、この世界のものではない生態系があった。禍々しい牙を持つ獣、鱗に覆われた巨躯、意思を持たない粘体、そして時に、人型をした何か。「モンスター」という呼び名は、瞬く間に世界共通の言葉になった。
最初の数年は、地獄だった。
軍隊も警察も、まともに対抗できなかった。銃弾がまるで意味をなさない個体がいた。戦車の装甲を紙のように引き裂く爪があった。人類は、圧倒的な暴力の前に、なすすべもなく人口の何割かを失った。
だが、絶望の中で人類は「力」を得た。
ゲートに触れた者、あるいはゲートの奥深くで生き延びた者の一部に、明らかに人智を超えた力が芽生えたのだ。なぜ人智を超えた力が芽生えたのかはわからないままだ。
のちに力を得た者は「ハンター」と呼ばれるようになった。
ハンターには「職業」が与えられる。剣士、魔法使い、盗賊、聖職者、召喚士――ファンタジー小説さながらの名称が、現実のものとして人々の肩書きになった。そして職業には格付けがなされた。
F・E・D・C・B・A・S・SS――これがハンターと職業双方に共通する階級だ。S・SSは人類でも数えるほどしか存在せず、国家戦力そのものとして扱われる。
武器にも同様の格付けがある。こちらはさらに上があり、F〜SSSの十一段階。SSSランクの武器は、現存が確認されているものが世界にわずか数本という、伝説の域にある代物だ。
そしてもう一つ、この十年で人類の生活を根底から支えることになった存在がある。「魔石」だ。
モンスターを討伐すると、その体内から必ずと言っていいほど魔石と呼ばれる結晶が採取できる。魔石の等級は、討伐したモンスターの階級と同じF〜SSで格付けされ、ランクが高いほど内包されるエネルギー量も桁違いに大きくなる。
F・E ランクの魔石は、家庭用の電力供給や小型機器の動力源として広く流通し、今や電気やガスと並ぶ生活インフラの一部になっている。D・C・Bランク以上になれば、大型施設の稼働や医療技術、武器・防具の強化素材としても重宝され、A・S・SSランクともなれば、国家予算が動くほどの価値がつくこともある。
つまり魔石は、ハンターたちの命懸けの活動を、ただの「怪物退治」で終わらせない経済の血液でもあった。ゲートの脅威と共存する社会は、皮肉にもこの魔石という恵みによって支えられている。
職業制度が整備されるにつれ、いくつかの興味深い事実もわかってきた。
まず、ある条件――多くは特定のモンスターの討伐数、特殊な地形の踏破、あるいは一定のレベルへの到達――を満たすことで、下位職から上位職へと「転職」できる者がいるということ。
さらに、通常のリストには存在しない「隠し職業」なるものの存在も、協会によって正式に確認されている。その存在自体は今や一般常識として広く知れ渡っているが、発現条件や実態については依然としてほとんど解明されていない。
そしてもう一つ。極めて稀に、二つの職業を同時に持つ者が現れる。「ダブルホルダー」と呼ばれるこの存在は、現在確認されているだけで世界にわずか十人。日本にはたった二人しかいないとされている。
ダブルホルダーの一人一人が、単独で小国の軍を退けるほどの戦力になり得ると言われている。
人類がゲートとの共存に慣れ始めてから、十年が経とうとしていた。
日本国内には、ハンターを統括する巨大な互助組織として「八大ギルド」が存在する。それぞれが独自の理念と戦力を持ち、時に協力し、時に競合しながら、この国のゲート対策の中核を担っている。
八大ギルドのトップ、通称「ギルドマスター」は総勢八名。そのうち六名が女性であるという事実は、旧時代の価値観からすればいささか意外に映るかもしれない。だが、この十年で証明されたのは、力の前に性別も年齢も、大した意味を持たないという単純な事実だった。
この物語は、そんな世界の片隅――ごくありふれた高校の、ごくありふれた教室から始まる。
もっとも、その教室の片隅に座る一人の少年が、実のところこの国で、いや、世界でもトップクラスの実力者であるということを、周囲のクラスメイトのほとんどは知らない。ただし、ごく一部の人間だけが、その正体をすでに知っている。
「相楽ぁ、また忘れ物かよ。ほんっと使えねーな」
教室に響く嘲笑に、相楽蒼(さがら あおい)はへらりと情けない笑みを浮かべて頭を掻いた。
「あはは……ごめんごめん、次から気をつける」
軽薄そうな連中が机を蹴飛ばし、笑いながら去っていく。蒼はその背を見送りながら、内心でため息をついた。
(今日はプリント一枚で済んだか。上出来だな)
窓際の一番後ろの席。目立たず、騒がず、成績も中の下。運動神経は人並み以下を演じ、体育の授業ではわざと転んでみせる。休み時間は大抵一人で、机に突っ伏しているか、スマホをいじっているふりをしている。
これが相楽蒼という高校二年生の、表向きの姿だった。
ほとんど知らない。この冴えない少年が、ゲート内部での討伐実績において、国内のいや世界のどんな有名ハンターよりも突出した戦果を叩き出していることを。
ほとんど知らない。彼が単独で、これまで発見された最大級のゲート――通称「深淵」クラスのダンジョンを、たった一人で攻略した経験を持つことを。
ほとんど知らない。彼の名を騙るなりすましが海外で摘発されたほど、その通り名――「無冠の竜帝」が、世界のごく一部のハンター上位層の間では畏怖と共に語られていることを。
彼はどのギルドにも属していない。協会には最低限の登録こそしているが、正式な階級認定を意図的に避け続けている。理由は単純だ。目立ちたくないからだ。
昼休み、蒼は誰もいない校舎裏でようやく人心地ついていた。
弁当を広げようとしたところで、制服のポケットに入れていたスマートフォンが震える。画面を見た瞬間、蒼の表情が露骨に曇った。
【星宮 優花(ほしみや ゆうか)(アイドル俳優/協会特別顧問)】 『蒼くん、今度の休み暇? ドラマの撮影が入ったんだけど現場に遊びに来ない? SSS武器の展示もあるから見せてあげる♡』
【八大ギルド「白薔薇」総帥】 『相楽くん、この間の報告書まだ? ……というのは建前で、今度お茶しない? あなたの好きな和菓子屋、新作出たみたいよ』
【ハンター協会会長】 『君、また単独で未報告の深部攻略したでしょう。データが不自然すぎる。……とりあえず今度飯おごるから詳しく聞かせて』
【綾瀬 玲奈(あやせ れな)(女優/現役高校生ハンター・階級A)】 『相楽くん今日ヒマ? 学校終わったら会いたいんだけど。仕事の話……半分は本当、半分は口実』
仕事の依頼らしきメッセージは、全体の一割にも満たない。残りは大抵、こういう類のものだ。からかい、お茶の誘い、デートの打診、あるいは単なる「元気にしてる?」という一言。
相楽蒼の連絡先には、日本のハンター業界における文字通りの「大物」たちがずらりと名を連ねている。彼らのほとんどが、蒼の本当の実力と正体を知る、数少ない人間たちだった。
蒼はスマホをテーブルに伏せ、深く息を吐いた。
「……なんでこう、みんな距離感がバグってるんだろうな」
誰に言うともなく呟いたその声に応えるように、頭の中に涼やかな声が響く。
『あら、蒼のことが好きだからに決まってるじゃない』
もう一つ、続く声。
『わたしたちも、蒼のこと大好きだしね』
声は蒼の影から滲み出るように現れた、四つの人型――正確には、人型を取った四体の竜だった。紅の髪をなびかせる焔、涼しげな水色の髪の澪、緑がかった銀髪の風花、そして漆黒の髪を持つ冥夜。
彼女たちこそ、蒼が最初に、そしてこれまでずっと唯一持ち続けてきた職業――「竜使い」の証だった。
「お前らな……人がいる時に出てくるなって、何度言えば」
「大丈夫、今は誰もいないもの」焔がくすくすと笑う。「それに、蒼が竜使いだってことは、もうバレているじゃない 少なくとも学校の連中には」
「そうだけど…」
蒼は苦い顔で返した。竜が人の言葉を話し、美しい女性の姿になれること自体は、彼の周囲のごく一部――昔からの顔見知りである大物たちには知られている。竜たちが声を発すれば、その場にいる人間には普通に聞こえてしまうからだ。隠しようがない。
だが、それだけならまだいい。問題は、その竜使いという職業を持つ「相楽蒼」が、なぜここまで異常な戦力を持つのか、という部分だ。
竜使いは本来、最弱職の代名詞のような扱いを受けている。竜という存在自体は、この世界にたしかに存在する。だが歴代の竜使いたちの記録を紐解けば、その誰一人として、竜を満足に使役できた者はいなかった。竜はあまりにも高位の存在であり、契約者側の器がそれに追いつかない限り、その力の大半は発揮されないまま封じられてしまう。せいぜいが意思の疎通すらままならない従魔紛いの扱いで終わるのが常であり、多くの攻略サイトで「絶対に選んではいけない職業ランキング」の常連だった。
それなのに、蒼は強い。理不尽なほどに。
理由は、彼自身にもまだ完全には説明できないものだった。ただ一つ確かなのは、彼の目にだけ映る、あの奇妙な半透明のウィンドウ――「システム」と呼ぶしかない何かが、常人には到底測れない成長曲線を、彼にもたらし続けているということだった。
本来、たった一体の竜と契約を結ぶことさえ困難を極めるというのに、蒼は四体もの竜を同時に従えている。その大部分は、システムが彼の器そのものを常識外れに拡張し続けているおかげであることは、蒼自身も薄々勘付いていた。
だが、それだけが理由のすべてではない。焔たちは、口を揃えてこう言うのだ。
『システムがどうであれ、あなたを選んだことに後悔なんて欠片もないわ』
器を用意したのはシステムだとしても、その器に宿ることを最終的に決めたのは、他でもない竜たち自身だった。ほんの僅かでも納得できなければ、いくら器が広がろうと契約など結びはしない。四体の竜たちが今、心から満足げに蒼のそばにいるという事実こそが、何よりの証だった。
もっとも、その割合について蒼が本人たちに問い質しても、答えはいつもはぐらかされてしまうのだが。
弁当を食べ終え、蒼はスマホを開き直す。溜まった通知の中から、渋々仕事の依頼らしき一件だけに返信をし、残りは全て既読無視を決め込んだ。
午後の授業開始を告げるチャイムが鳴る。
教室に戻る蒼の足取りは、傍から見ればどこまでも冴えない、平凡な男子生徒のそれだった。
だが、この平穏もそう長くは続かない。
その日の放課後、彼のスマホに、これまでに一回しか見たことのない一件の通知が届く。差出人は、誰でもない。
【システム】 『条件達成を確認。第三の職業――未知――が解放されます』
蒼が眉をひそめてその文字列を見つめた。竜使いに次いで二つ目の職業を得たのは、二、三ヶ月ほど前のことだ。それがまさか、こんなに早く三つ目へと繋がるとは思っていなかった。
名前すら表示されない、その職業の正体を確かめる間もなく――事態はその直後に動いた。
ポケットの中でスマホが再び震える。今度は協会からの緊急一斉配信だった。
【ハンター協会緊急速報】 『市内北部・第七区画にて未確認ゲートの拡大現象を確認。周辺への避難勧告発令。近隣ハンターは至急協会本部へ連絡を』
窓の外を見れば、遠く北の空に、見慣れない歪みが走っているのが見えた。空気そのものが軋むような、あの独特の圧迫感。
「……未確認、ね」
蒼の口元から、演技ではない笑みがこぼれる。学生鞄を放り出し、非常階段へと駆け出す背中を、影の中から焔たちの声が追いかけた。
『行くの、蒼?』
「行くに決まってるだろ。それに――」
校舎の屋上から飛び出した瞬間、蒼の輪郭が景色から掻き消える。次に彼の姿があったのは、既に崩れかけた第七区画、拡大を続けるゲートの前だった。
本来であれば規制線が張られ、一般人はおろか低ランクのハンターすら近づけないはずの領域。だが今は、避難と対応に追われる協会関係者の目も、この一角にまでは行き届いていない。
「――お邪魔します、っと」
蒼は誰に断るでもなく、渦を巻く裂け目の中へと躊躇なく足を踏み入れた。
外界とは明らかに異なる重い空気、肌を刺すような瘴気。ゲートの内部は、まるで別の惑星に迷い込んだかのような、赤黒い岩肌と淀んだ空に覆われていた。
目の前には、体長五メートルはあろうかという、漆黒の甲殻に覆われた異形。複眼がぎょろりと蒼を捉え、腹の奥から轟くような唸り声を上げる。
「――新しい職業とやらの、お披露目にはちょうどいい」
蒼が地を蹴った瞬間、異形の前脚が唸りを上げて振り下ろされる。
ゲート内部の岩盤が爆散し、砂塵が視界を覆う。
その中心で、蒼はまだ、笑っていた。
主人公は極力目立ちたくないのは作者である自分も同じですね!!
面白かったらまた読んでください次回も楽しみにしてください。
平日の6時以降に投稿する予定です。投稿してなかったらごめんなさい
面白かったらコメントもしてください、どういうところが面白かったかやこうしたら面白そうという意見でも構いません




