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エックス・ワールド〜コマンドで戦うVRMMORPG〜  作者: 名無之権兵衛
第1章「エックス・ワールドのはじまりはじまり」

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episode19「人間ごっこ」

「いっけえええええ!!」


 無我夢中だった。|while_train《無限列車》が不発に終われば僕のメモリは0になる。スーもムーブさんもキャットさんも満身創痍だ。この攻撃の是非が、戦いの勝敗を決することになるとわかっていた。だから、頭の中に0.001秒ごとに流れ込んでくるメイクDの場所に指を向け続けた。


 メイクDは最初の方こそcdコマンドで避けていたが、オプションaの効果を把握していなかったようだ。


「むぅ!」


 直撃はせずとも半径5メートル以内にいれば、強制乗車させられる。彼は暴走機関車に連れられて壁に激突。間髪入れずにSLが猛攻を仕掛ける。


 メイクDはcdコマンドで逃げようとするが、再びオプションaの列車に捕まる。壁に打ち付けられる。SLに押しつぶされる。


 ついに、彼の姿は機関車に埋もれて見えなくなってしまった。


 悲鳴やうめき声は聞こえなかった。ただ大量のSLが彼のいる場所に激突し、洞窟が鳴動する音だけが響いていた。


 やがて、|while_train《無限列車》は発動を停止した。メイクDのメモリが0になったからだ。


 何百台もの蒸気機関車が穿った場所には土煙が立っている。その隙間を縫うように、うっすらと青白いログアウトを示す光が漏れるのが見えた。




   …………勝ったんだ。




「ヤッッッッタァ!!」


 後ろから柔らかい感触に抱きつかれる。ムーブ先輩は満面の笑みを浮かべながら、汗ばんだ体を僕に押し付けてきた。思わぬ出来事に僕は体勢を崩し、先輩と一緒に倒れ込む。


「よくやったよ〜、ポッポくん。さすがあたしが見込んだ後輩だ!」


 彼女は僕を押し倒したまま、僕の髪の毛をクシャクシャに撫で回した。僕は恥ずかしさを覚えながらも、素直に受け入れた。体は熱かったけど、それがbootエリアの地面によるものか、はたまた別の要因かはわからない。


 先輩に弄ばれていると、キャットさんがやってきた。


「まだ戦いは終わってないにゃよ」


 キャットさんは体にいくつもの擦過傷を抱えていたが、顔には笑みが浮かんでいた。


「そうです。まだ敵は残っています」


 スーも合流する。彼女の赫い瞳の先には、

 ムーブ先輩の双子の姉、コピーがいた。




   * * *




 想定外の事態にコピーは動けなかった。


 メイクD(副総統)の敗北。


(まさか、副総統がやられるなんて……

 どうする? このまま戦う?


 敵は4人でこちらは1人。

 でも、あっちは全員満身創痍だ。”本気”を出せば勝てるかもしれない。


 撤退するわけにはいかない。ここで撤退したらbootエリアが……)


『コピーくん、撤退しよう』


 ディスコードから声が聞こえた。”総統”の声だとすぐにわかった。

 鼓動が早くなる。


『し、しかし、それではbootエリアを放棄することになります。我が軍の損失は……』

『今の局面でメイクDに加えて君を失うのは心苦しい。それに……』


 ”彼”は一拍おいた。


『新規エリア獲得戦が終わろうとしている。このままジリ貧に続けると、敵が新規戦力を投入してくるだろう。そうなれば、我々の損害は想定以上になりかねない』


 コピーは時計を確認した。新規エリアが開放されてから1時間が経とうとしていた。総統の言うことはもっともだ。反論の余地がないことはコピー自身もわかっていた。


 けれども…………


 前を見る。ここ数日、顔を合わせていない”もう一人の自分”がこちらを見つめている。


(あぁ、むかつく————)


 こっちが1ヶ月かけてやることを、彼女は1時間でこなしてみせる。天才肌。


(さっきの戦闘だって、私の苦手なディレクトリ計算を彼女は息をするかのようにしていた。

 ————あぁ、本当に腹が立つ)


 言葉にできない思いが”腹が立つ”という言葉に凝縮されて、ヘドロのように湧き上がってくる。


 全てをぶち撒けたい衝動に駆られたが、


『コピーくん、わかったね』

 総統の言葉が思いとどまらせる。


「ふん」


 コピーは踵を返すと、もう一度振り返って妹のことを見た。ボロボロの彼女は、姉に笑みを向けている。


(こっちの気持ちなんて知らない善良な人間を気取った笑顔。私は、その笑顔が大っ嫌いなのよ)


 こうして、コピーはbootエリアから撤退した。




   * * *




「勝った……の……?」


 誰もいなくなった溶岩洞窟を見つめて呟く。目の前には流れるマグマと、戦闘の激しさを物語る崩落した岩石や敵のポッドの残骸。


 人影は、見当たらなかった。


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