episode20「TWILIGHT」
「勝った……の……?」
誰もいなくなった溶岩洞窟を見つめて呟く。目の前には流れるマグマと、戦闘の激しさを物語る崩落した岩石や敵のポッドの残骸。
人影は、見当たらなかった。
「なんとか、なったようですね……」
スーの言葉を聞いて、僕はヘナヘナと座り込んだ。初めての戦闘で敵のナンバー2と戦って、勝つことができた……。我ながら、いま考えてもよくやったなって思う。
もちろん、いくつかの偶然が重なったことはいうまでもない。
キャットさんが来てくれたこと。ムーブ先輩がコピーをからかってくれたこと。メイクDが僕の存在を忘れてくれたこと。スーが一緒に来てくれたこと。敵が僕のコマンドを把握していなかったこと。僕のメモリが少しだけ余裕があったこと。
再び戦うことがあれば勝てるか分からない。むしろ負けるだろう。
そんな弱音を吐くと、スーは
「それでも、私たちが勝ちました」
と言った。過程はどうあれ、今の結果がある。結果を素直に受け止めることも必要なんだと言われた気がした。
bootエリアの最奥、祭壇のような場所にペンギンを置くスペースはあった。僕たちがデビアンマークの帽子をかぶったタックスを置くと、エリア全体にアナウンスが流れる。
『bootエリアはデビアンのものとなりました。チームに所属していないプレイヤーは今後1時間、bootエリアへの立ち入りが禁止されます。繰り返します……』
こうして僕の初陣は幕を閉じた。
デビアンは今回の作戦で2つのエリアを新規に獲得、1つのエリアを奪取したことで、レッドハットとのスコアは10対8。逆転することに成功した。この逆転劇に僕らの活躍があったことは言うまでもないが、僕ら以外にも功労者がいたことを忘れてはいけない。
獲得できなかった新規エリアには噂に聞く”赤帽さん”がいたという。勝つことが不可能と言われる彼に対して、一歩も引かずに時間を稼いでくれたメンバーがいた。彼らが即撤退を選択していたら、戦況は大きく変わったかもしれない。
『この勝利はみんなで掴んだものだ』
反省会兼祝賀会でデビアンのリーダー、エプトさんは言った。
『勝った人も負けた人も、アタッカーもサポーターも、誰もが自分ができるベストを尽くした。その上でつかみ取った今日の勝利を、俺は一生忘れないだろう。みんな、本当によく頑張ってくれた』
「ありがとうございました。車掌さん」
セントラル・パークでリーダーの演説を見ていると、スーが口を開いた。
僕は隣に立つ彼女のことを見た。制服姿に戻った青髪の少女に、僕は疲れた頬骨を上げる。
「ただできることをやっただけだよ」
このとき日本時間は午前9時半。1日は始まったばかりだったが、徹夜した僕は今すぐベッドに入りたい気分だった。
ヘトヘトの僕を見てスーは口元を緩めた。
「それでもいいんです。私は、あなたに助けてもらえて、本当によかった」
彼女の言葉が嘘偽りのない本心からのものであると感じられた。エビデンスを、と言われると提示できないけど……論理的に証明することはこの上なく難しいけれども、
一人ぼっちで生まれて消えてゆくことに意味を見出そうとするように、
そう感じたんだ。
嬉しかったんだ。
— — —
エックス・ワールドを始めて1週間。
この7日間で、僕は学校にいた頃よりも多くの出会いを経験し、多くのことを学んだ。
西向きの小さな部屋で始めたエックス・ワールド。
僕は、このゲームに出会えたことを心から感謝し、誰に見せるわけでもない無題のホームページにこの興奮を書き留めておこうと思う。
2045年6月9日
豊田輝
* * *
新規エリア争奪戦の翌日、リーダーのエプトさんから全体チャットにこんなメッセージが届いた。
『日本に住んでいる方、今度オフ会を開きませんか?』
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