(11)尋問
程無くして、後ろ手に拘束された黒のジャケットを着た人物が、フェルナンド中尉と海兵隊員2名とともに現れた。
「3人ともご苦労様。さて、まずは名乗ってもらおうかしら?」
不機嫌そうな表情の男は、フランチェスカを睨むと言った。
「まずはそちらから名乗るのが礼儀ではないのか?」
「これは失礼。私は第106遊撃艦隊、艦隊幕僚のジナステラ少佐です。臨検の為この艦にお邪魔させてもらっています。あなたは?」
「フョンデ食品株式会社、輸入部外事担当のジェームズ・ヤングだ。弁護士を呼んでもらおうか?」
「乗員名簿には、貴方の名前は記載されていないわね。密航は星間犯罪よ。星間法にのっとり、規定の質問には答えてもらうわ。拒否はできません」
「ならばもっと地位の高い人間にしてもらおうか。お嬢さんには荷が重かろう?」
挑発的に笑う態度に、カチンときたフランチェスカだったが、ここでキレては相手の思うつぼだと思い直し、慇懃に言い返した。
「あら、タイロンでは外見で判断するような、程度の低い教育しか受けられないのかしら?」
「なんだと!」
「先ほども言いましたが、私は艦隊幕僚であり、序列2位です。捜査権は艦隊司令、及びこの艦の艦長からも委任を受けています。質問には答えてもらうわ」
フェルナンド中尉がびっくりしたような表情をしたが、一応嘘ではなかった。
フランチェスカの肩書は戦闘副官という事にはなっているが、通常艦隊でそんな役職は無い。艦隊組織図上、艦隊司令官の直属となっているため序列2位と言えないこともないが、これは戦闘時に艦隊司令の采配に直言できるように、そうなっているのであって、通常業務上はどの担当部所も持たない、艦隊司令副官となる為、慣例的に他の幕僚幹部の中でも末席になる。
強引ではあるが、今は海兵隊も指揮しているのだから、戦闘時と言う解釈もまかり通ると思ったのだった。
もちろん、リッカルド艦隊司令の指示を受けているので、輸送艦ガミーロにいる間は、捜査権も付与されていると考えても良かった。
「ふん、ならば仕方がない。何が聞きたいんだ?」
「まず、密航の動機は? 与圧区画の中にある民間コンテナ。あなたの会社のものでしょう? 中に人が潜んでいた痕跡が残っていたわ。あのコンテナの中に潜んでいたのでしょう?」
「コンテナに貴重な品を積んでいるからだ。その管理の為、荷物と一緒にこの船に乗り込んだ」
「正規の手順を踏まずに、コンテナに隠れていた理由は?」
「コンテナに私が隠れていたとする証拠は?」
「監視カメラの映像が残っているわ」
これはブラフだった。まだそれは確認していない。
「ほう、なら、その映像を見せてもらおうか?」
フランチェスカは部屋の入り口でヴァイオラ艦長を見た。だが、艦長は無言で頭を左右に振った。カメラではとらえてないという事らしい。
他に何か証拠となるものがすぐには思いつかなかった、食べ残しの食糧パックか、もしくはコンテナ内に毛髪でも残っていれば、DNA解析で特定できるだろうが今すぐにはできない。
「証拠物件として保全してあるから、今は見せられないわ」
「では、私ではなく、別の人間かもしれんな」
「そんな言い逃れが通用すると思っているの? なら今まであなたはどこに隠れていたの? この船は出航から丸4日は経っているのよ。その間の食事は? 生理現象は? 別に宇宙へ放り出してもいいのよ。そんな人物は乗っていなかったと報告すればいいのだから」
フランチェスカはそういって、後ろに控えていた海兵隊の二人に視線を送った。
「わ、わかった。それは認めよう。確かにコンテナに隠れていたよ。それでいいか?」
「最初から素直にそういえばいいのよ。では次の質問。密航先の正確な目的地は?」
「コンテナと同じだ」
「正確な最終目的地は?」
「…………」
「答えられないのかしら?」
フランチェスカは男に口頭での回答を求めた。
恐らく男はコンテナの積み込み前から潜んでいて、扉をロックした状態で、仲間が発送手続きをしたはずなのだ。だから、自分の目的地とコンテナの目的地が一致しているとは、限らない可能性がある。
「△△へ行けるように手配してくれ」と指示したとしても、最終目的地をごまかすために、コンテナは中間地点を経由する可能性があるからだ。
そして中継点からまた別の目的地、つまり男の指示した最終目的地へ別の仲間が発送手続きをする。
密輸や密航などでは良く使われる手段だ。場合によってはコンテナすら別のものにすり替えられることがある。
そしてフランチェスカは何か予感めいたものを感じていた。
男が顔を少し伏せ、こちらをうかがう姿。何となく似ている気がするのだ。
トリポリで憲兵隊のバウマン大佐に見せられたテロの容疑者リスト。そのうちの一人に。
そして同時に、バウマン大佐から受けたアドバイスのことも思い出していた。
フランチェスカに手近に置いてあったラップトップ型の端末を開くと、男からは画面が見えない様にしてキーを叩いた。もちろん、何の意味もない行為で画面には何も表示されてはいない。
「先日、トリポリで大規模なテロがあったわ」
「そうらしいですな。おお、そう言えばお嬢ちゃんは確か、トリポリの“小さな”英雄 によく似ていらっしゃいますなあ」
「本人よ。つまり、私は当事者であるので、事件の詳細も承知している」
“お嬢ちゃん”などと見くびられているばかりではないと、フランチェスカはソファの背によりかかるようにして座り直し足を組んで膝に頬杖をついた。そして殊更に、偉ぶって見せた。
男の後ろに控えていたフェルナンド中尉は、微妙な顔をしていたが。
「ほぉ、それで? 何かご教授でもしてくださるのかな?」
「タイロンは、ガリエスタ条約を守る気が無いみたいね」
「さぁ? 一介の商人には、わからないことですな」
「ごまかしても無駄よ。あなたのIDカード、偽造の痕跡があるわね」
もちろん、これもフランチェスカのハッタリだった。
男のIDカードはさっき取り上げたばかりで、解析になんて回していない。
「これは異な事を、こんな短時間でそんなことがわかる筈がない」
フランチェスカは不敵な笑顔を浮かべながら、内心では舌打ちをしていた。
もう少しうまいハッタリをかまさなければと、頭をフル回転させた。
「テロ事件の首謀者が他にいることを私たちは掴んでいるの、正規発行されているカードには、数日前に認証システムのサーバーにタグを打っているのよ。あなたのIDカードは、それが紐付けされていない」
もちろんそんな事実はなかった。
「そんなバカなことは無い。昨日この船の認証システムでデータを更新したばかり……」
男は言い終わらないうちに、しまったという顔をした。
「艦長! 今すぐ通信システムのデータ記録を保全して! 艦隊経由でトリポリの航宙管理センターに、IDカードの照会申請を出して頂戴!」
「あいよ!」
フランチェスカは即座に指示を飛ばした。同時に自分の作戦が功を奏したと思った。
男は密航の事実を隠すために、目的地へ着く前にこの艦のシステムを使って、IDカードの渡航記録を改竄したに違いないのだ。改竄できるチャンスは、トリポリ航宙管理センターと通信が可能な範囲に限られる。
この船は3日前にはトリポリ星系の物流センターとの通信範囲を出た筈だから、改竄記録がキャッシュに残っているはずだった。それを調べれば、男の素性を探る手掛かりになる。トリポリ憲兵隊のバウマン大佐に依頼すれば、事件との関連性を明らかにできる筈だ。
IDカードには男の行動記録が記録される。星系間を移動する商人ならば、ことある毎にIDカードを使うからだ。カードは本人を証明するだけでなく、あらゆる星系間でも通用する銀行のキャッシュカード機能があり、支払にはそれが使われるのだ。もちろんその機能を使って公共交通機関の使用料決済も行われる。そしてそのデータは、概ね半月程度はどこかのシステムには残っているのだ。
トリポリでのテロ事件からまだ半月は経っていない。男が事件の間どこでどんなことをしていたか、今直ぐにデータキャッシュの保存申請を軍が発効すれば、この男の行動記録の概要を、再現できるはずなのだった。
男は下を向いて苦笑すると、言った。
「これは少々、貴女を見くびっていたようだ」
「テロ事件の関係者であることを認めるのね?」
「はは、そうは言っていない。密輸の事実がばれそうになってるとだけ、回答しよう」
「いつまでシラを切り続けられるかしらね。艦長、この艦には、男を拘束しておける部屋とか無いかしら?」
「そんな部屋は無いけど……。例のコンテナに放り込んでおけばいいんじゃないかい? 外からロックしておけば、中からは絶対に開けられないさね」
「中尉、よろしくね」
フランチェスカは、男を拘束していた海兵隊員の一人に頷いて指示を出した。
誤字報告ありがとうございます。この章も終盤にかかっています。次の章の構想がまだですが、最低でも週一の更新は欠かさないようにしたいと思います。




