第7話 トリア城襲撃3
シュタナートは《通話》の魔術を使い、他の分かれて行動してる者たちから、状況の把握を行った。
それによると館での戦闘はほぼ終結し、多数の投降者を捕らえた事、味方の死者は出ておらず、完勝である事だ。
シュタナートは投降者をある一室に閉じ込める事を命じ、自らもそこに赴いた。
投降者が閉じ込めらた部屋は倉庫だった。
窓は無く、出入り口は一か所だけ、中はかなりの広さで、移動できる物は外に出したが、投降者の数が多かったため、かなり人口密度になっているとの事だ。
投降者は武装した兵士よりも、使用人などの方が多かった。
女中などの女の数も少なくなく、年少の者もいた。
「折角、投降してくれた者たちだ。なるべく苦痛無く始末したい。では準備が出来次第やってくれ」
シュタナートは大半が自身への暗殺に関与していない、ただトリア伯に仕えてていただけの無抵抗の人間を皆殺しにするのはまったく抵抗が無いというわけではない。
だが完全な敵対行為には報復を苛烈にすることで、魔術師団の恐ろしさを喧伝し、抑止力にしたいと考えている。
魔術師団の最高幹部会議である大導師会でもそう決議されていた。
「しかし、勿体無いですな。あれだけいれば魔術の実験体に当分困る事は無いのに」
とダレスが言った。
魔術の実験体はその非人道な扱いから重罪人等でなければ魔術師団内部からも批判が起きるので、それなりに貴重であった。
扉の近くには魔術師団の2人の兵士と一人の魔術師、兵士の一人は手のひら程度の大きさの革袋を持っている。
3人とも口と鼻が隠れるように布を巻いている。
その他の魔術師団の者は扉から距離を取っている。
「これから扉を開けるが、扉からは出来るだけ離れていろ。扉付近にいた者は殺す」
中の投降者に扉から遠ざかるように大きな声で脅し、しばらくその移動を待った後、一人の魔術師団の兵士が扉を開け、もう一人が中に皮袋を投げ入れ、部屋の中に粉が舞ったかと思うとすぐに扉が閉められた。
兵士2人が扉を抑えていると、魔術師から扉へちょっとやそっとでは扉が開かなくなる《重施錠》の魔術が掛けられた。
閉じ込められた部屋の中から恐慌した声や叫びが伝わってくる。
しかしそれもしばらくすると、徐々に少なくなっていき、ついには完全に静かになった。
「ほう大した威力はですな」
ダレス導師長は感心したように言った。
投げ込んだ物は《深睡眠》の魔術を付与した粉末だ。
少量でも口や鼻から吸い込めばたちまち意識を失う。
密閉された倉庫では逃げ場はないだろう。
「空気に触れて時間が経つと効果を失うようになっているので、これくらい時間が経てばおそらく中に入っても大丈夫でしょう」
しばらく時間が経ってから、粉末を制作した魔術師が言った。
《重施錠》を解除する詠唱を行った後、口と鼻に布を巻いた兵士がゆっくり扉を開け中に入って様子を調べる。
そして中に入っても問題ないこと、中にいた投降者全員が意識を失って寝ている事を伝える。
「さて息の根を止めに行くとするか。少々しんどいだろうが」
武装している者中では最も地位の高い導師が促すように言った。
「そうだな。さっさとやるか」
と言うとシュタナートは手に持った杖を鞘に収まった剣を抜くように分離させると、刃が出てきた。
仕込み杖であった。
その様子に魔術師団の者がざわついた。
「まさか総大導師もされるおつもりですか。その様な汚れ仕事をなさらなくても」
「私の意志で実行された事だ。自ら手くらいは汚さなくては」
周りの部下達からは、その行動に感心する声が漏れる。
永遠たる係累魔術師団は強大な組織だ。
その首領たるシュタナートは王や大貴族の当主に相当する立場である。
その様な者が自ら捕虜の処刑を行うなどまず無い事である。
「普段から武器を扱っていない者は加わらなくていいぞ。怪我でもされたら魔術師団の損害だし、魔術を使用する程のことでも無い。では行くか」
そう言うとシュタナートは扉を超え、意識を失った投降者たちが横たわる部屋に入って行った。
魔術師団の武装した者が、それに続いて行った。
「やはり気の滅入る仕事だったな。手を汚してくれた者には別途手当をだそう」
汚れ仕事を終え、ローブが返り血で汚れたシュタナートが部屋から出てきて言った。
「《生命探知》の魔術にも引っ掛かりませんし、これでこの館での仕事は大方終わりですかな。しかしトリア伯には美しいと評判の娘のエレイアとその幼い妹がいたとの事ですが、それらしい者はおりませんでしたね。あらかじめ城の外に逃がしていたのでしょうか」
情報収集を担当していた魔術師が言った。
念のためシュタナートも《生命探知》を詠唱する。
確かに人らしい反応は無かったが、少し違和感を感じる場所があった。
「少し調べたい場所があるので何人かついてきてほしい。残りの者は戦利品の収集でもしててくれ」
「おそらくこの部屋のこの方角のはずだが、しかし何も無いな。そこの本棚を調べてくれ」
シュタナートが10人ばかりの人数を率いてきた来た部屋は書庫だった。
そして違和感を感じる場所は本棚の少し先の場所であった。
部下達が調べると本棚は隠し扉であることがすぐにわかった。
まだ敵の生き残りがいる可能性が高いので、一旦臨戦態勢をとらせて、慎重に隠し扉を開いた。
開いた先には通路があり、その先には部屋があった。
そして部屋の中に入ってみると、何かの物体に掛けて盛り上がっている広い布があった。
シュタナートの感じた違和感の原因はあの布ようだ。
おそらく魔術を阻害する物なのだろう。
見ると布を掛けた物体は少し動きがある。
布の盛り上がった形からして人が隠れているのは濃厚だ。
警戒させながらその布を剥ぎ取ると、中から若い女が幼い少女を守るように抱いて隠れていた。
「おお」
周りにいる部下達から感嘆の声が漏れた。
「ほう、これは良い手向けの花だな。しかも2輪も」
シュタナートは残虐な笑みを浮かべた。




