表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/67

第6話 トリア城襲撃2

 この場での戦闘は決したようだ。

 トリア伯側の兵がほとんど息を引き取っている。

 一人のトリア兵が致命傷を受け、息も絶え絶えで苦痛にうめいている。

 ガルドはその兵に近づき、止めを刺そうとした。


「よい、そのままにしておけ。どうせ助からん」


「は、ですが……」


「投降者が出てると連絡があった。その者達との差をつけてやらねばならん。抵抗した者は苦しませておけ」


 シュタナートはそれなりに投降者には配慮してやりたいと思っている。

 今回は皆殺しが決定しているので、可能な限り苦痛無き死だ。


「かしこまりました。口答えご容赦ください」


 ガルドはそう言うと剣を収め、その場を離れる。


「しかしトリア伯の紋章も不死鳥とは奇遇ですな」


 館に付いている紋章を眺めながら、シュタナートのすぐ横にいる服装等から高位であると思われる、

 50歳ぐらいで上品で魔術師らしく理知的そうな男が話しかけてきた。

 彼はダレス・アグニス導師長、この襲撃に加わった者の中ではシュタナートに次ぐ地位である。

 上級幹部である導師長の位階の中でも筆頭格に位置する。

 そしてシュタナートを庇って死亡したフィーネの実の父親でもある。

 彼はシュタナートに対して複雑な思い、おそらくは恨みも抱いているだろう。


「まあ不死鳥を紋章にしているところは少なくないしな」


 不死鳥は知名度が高い上、強く、美しく、そして不滅である。

 それにあやかって紋章としている組織は結構ある。


 そのような会話をしていると突然、シュタナート達の一団の後ろの部屋の扉が開き、クロスボウを持った兵士が飛び出して着て、間髪を入れずにに矢を放った。

 シュタナート達は周囲を魔術で索敵していたが、それを掻い潜られたようだ。

 矢は非常に素早い射撃動作ながら、驚くほど正確にシュタナートに向かって来た。

 周囲を守る兵たちも咄嗟のことに反応が出来なかった。

 

 しかし矢がシュタナートのほんの手前のところで、まるで目に見えない壁にでも当たったように、弾かれ、そして地面に落下した。

 クロスボウを撃った男は、矢を放ったすぐ後にはシュタナートたちがいる方向とは反対の通路を走り逃走を開始していたが、その様子見て「チッ」と悔しそうに舌打ちをした。

 逃走中の男に対して魔術師たちは魔術の詠唱を開始したが、その動きをシュタナートは手で制すると、全身の魔力を杖先に集めるように集中しつつ、魔術言語を片手の指の数をゆっくり数える程度の時間詠唱し、魔術を発動させる。


 男は走って廊下の曲がり角を曲がるというところで、急に苦悶の表情を浮かべたと思うと、すぐ床に倒れこんで痙攣し、動かなくなった。


「《即死》の魔術ですかな? 危険な魔術ですな」


 ダレスはこの魔術を使う事にあまり関心しない様子である。


「そうだ。人を一人殺すのに一番効率の良い魔術だと私は思う」


 魔術は非常に便利な力だが失敗して危険に晒される時もある。

 相手にかけるはずが、自分に対してかかってしまう場合もある。

 シュタナートの実父である先代の首領も魔術の致命的な失敗で命を落としている。


 《即死》の魔術は比較的に低い魔力量で死に至らせる事が出来るが、その危険性は他の魔術に比して高い。

 さすがにシュタナートのような極めて技量が高い魔術師には万が一にも満たない確率であるが、最愛の娘が命を賭してまで守った男には使用して欲しくはないだろう。


 床に落ちた矢をシュタナートは拾って、眺めた。

 よく見ると魔術文字が刻まれており、矢じりは魔術が付与されてるであろう特殊な輝きを放っていた。


「やはり、この矢は3日前に私を狙撃し、フィーネと部下達を殺した物と同じ様だな」


 襲撃を受けた時にシュタナートは自身の体に刺さっていた矢を抜き、調べてみると、魔術による防御をある程度無効化出来る魔力付与がなされている物であった。


 その事を踏まえて、今現在は《遠距離武器防御》の魔術に加え、シュタナート自身の狭い範囲には、かなり強固な防御が出来る、《防壁》の魔術が展開されている。

 この魔術は本来、自身の周りに見えない壁を作成するような者で、自身も近くのものに触れないし、周りの者に触れる程近寄れないので、かなり融通が利かなく、不便であるが、シュタナート自身から近づく場合であれば《防壁》が作用しないように改良してある。


 時折、シュタナートに近寄った者が《防壁》にぶつかり面食らう。


 シュタナートは何かの魔術に掛けられている感覚に陥るが、この感覚が《通話》の魔術であることを認識するとすぐに受け入れた。

 頭の中に情報が流れ込んでくる。

 トリア伯らを発見し、その部屋を包囲していることと、その場所の情報だ。


「ほう、そうか」


 朗報を受け取り、嬉しそうに呟いた。

 シュタナートの方も《通話》の魔術を詠唱し、


『よくやった。私が到着するまでそのままにしてくれ。逃亡を試みて阻止が難しそうだったり、何らかの理由でそちら側に大きな損害が出そうなら始末しても構わないが』


 との指示を伝えた。

 そのやり取りを部下達は注意深く、見守っていた。


「どうやらトリア伯を発見し、包囲しているようだ。私達もすぐに赴く。付いてきてくれ」

 

 シュタナートはそう言うと、部下達は頷き、一行は教えられた場所に移動を開始した。


 

 しばらく城内を移動した後、シュタナート達は伝えられた場所に着いた。

 その場にいたものと自身がつれてきた者で二十人を超える人数になった。


「ここがトリア伯の立てこもってる部屋か?」


 館のある部屋の前で、シュタナートは《通話》の魔術で自分に情報を送ったと思われる魔術師に確認をとった。

 城の一番奥にある部屋で、おそらくトリア伯の私室だろう。


「はい、左様でございます。部屋の中は……」


「よい、自分の目で確認を行う」


 シュタナートは部屋の中の状況を説明しようとした魔術師を制して、《透視》の魔術を詠唱し、部屋の中を見てみた。

 中には、扉側に武装した兵士が十数名程。

 後方には一人の魔術師と20歳くらいの青年である嫡男とトリア伯の奥方、そして40代くらいの男であるトリア伯本人がいた。

 3人はシュタナートにはそれなりに知っている人物だ。

 貴族らしく上等な服装を着て品があり、奥方と嫡男は美しく、トリア伯は威厳があり精悍な姿をしている。


「魔術師が一人いる。私が《対魔術盾》を展開しよう」


 シュタナートは部屋の状況を部下達に説明し、準備が出来次第、突入するように命じた。


 入念な準備の後、ガルドを先頭に扉を破り、突入を行った。

 何人かの兵が中に入ると、それをめがけて《火球》が飛んでくる。

 しかしその《火球》は当たって炸裂する直前で、消滅する。

 シュタナートの展開した《対魔術盾》の所為である。

 それを目にしたトリア伯側の魔術師は味方を支援する魔術の詠唱を始める。

 中位魔術に位置する《火球》を取得しているあたり、なかなかの魔術師のようだ。


 そしてお互いの兵士たちの白兵戦闘が開始された。

 トリア伯側は士気も高く、激しい抵抗をしたが、

 質量ともに凌駕する魔術支援を受けた魔術師団側が次第に圧倒していった。


「降伏だ! 私の命は差し出す。だから他の者は助けてやってくれ! 捕虜も解放しよう!」


 観念したのか覚悟を決めた表情でトリア伯は降伏を申し出た。

 フィーネと共に襲撃を受けた時に生存していた者数名がこの城に囚われていた。

 しかし先程、別動隊が奪回したとの報告も先程受けていた。

 シュタナートはその申し出の返答に魔術を詠唱を開始した。


「なにをするつもりだ! やめてくれ!」


 その様子を見て察したのかトリア伯はやめるように懇願した。

 シュタナートの《即死》の魔術が発動される。

 たちまちトリア伯の奥方と嫡男が絶命し、床に崩れ落ちる。

 それ見てトリア伯は怒りと絶望で、自ら剣を抜いて攻撃に加わり、劣勢だったトリア伯側の兵士達も決死の覚悟で反撃を試みた。

 しかし魔術師団側の優位は動かず、一人また一人と戦闘不能に追い込まれていく。


 トリア伯側の兵士全てが戦闘不能に追い込まれ、トリア伯は捕らえられて手と足を縄で縛らせた。

 魔術でも拘束することは可能だが、簡単な魔術でも少ないながらも危険性はあるので、完全に代用出来るなら使用しない方が無難である。


 シュタナートはトリア伯に対して、魔術を用いた尋問を行い、更なる背後関係を調べようか今の今まで迷っていたが、それは行わないようにした。

 更なる敵対者の名を出されると、これ以上の復讐行為に傾倒し、魔術師団全体を危険を晒してしまう可能性があるためだ。

 フィーネを殺害に与した者に対してシュタナートは冷静さを保つ事は簡単ではないだろう。

 トリア伯の主君であり、黒幕であろうイスカリア国王が退位する事、トリア伯への復讐を容認及びトリア伯領の割譲で話はついている。

 領土の割譲と国王退位はかなり譲歩だろう。

 シュタナート及び、永遠たる係累魔術師団が恐れられているという事もあるが、魔術の力そのものを過大に恐れてしまった結果なのかもしれない。

 だがその過大な恐れ故にシュタナートの暗殺という性急な手段を取ってしまったのかもしれない。

 

 だがその恐れ故に排除したいと思う勢力は少なくない。

 強力な勢力のほとんどが君主制国家で、その多くが政略結婚によりなんらかの血縁関係を結んでいるが、国家に匹敵する程の力を持つ異質な魔術師団は邪魔な存在である。


「ダレス導師長、自らの手で復讐を行いたいか?」


「よろしければ、是非とも」


「とはいえ私は相手を攻撃出来る魔術も取得してませんので、今まで碌に握ったことも無い剣でやらせていただきます」

 

 近くの兵から剣を借り受けて斬りかかろうとする。


「イスカリア王国はそこまで王権が強い国では無い。私たちへの襲撃をトリア伯が断る事も可能だったはずだ。出来るだけ苦痛を長く味わわせて、絶望のうちに殺すのだ」


 その言葉を聞いてダレスはすぐに殺さぬように、少しずつトリア伯を斬り刻んでいった。

 なおもトリア伯は斬り刻まれながらも他に者の助命の嘆願を行った。


「この館にいる者は一人残らず皆殺しにしてくれる。特にお前の血縁者は必ずな。死後の世界とやらで悔いろ!」


 シュタナートはこの館の者全てを皆殺しする方針を変えるつもりは無く、絶望を与えるためトリア伯に宣言した。

 しばらくすると慣れない剣を振るったダレスはかなり疲労し、トリア伯の方は虫の息になっている。


「私は人を殺せるような魔術を習得していないのですが、どうせなら魔術で止めを刺したいですな」

 

 ダレスは優秀な魔術師だが、ほとんど攻撃する魔術を取得していない。

 人一人を殺害する魔術はそう簡単でもないうえに、武器で代用可能なので、取得をしない魔術師は多い。


 ダレスは魔術師団の者から油を借り、それをトリア伯の体にかけ、周囲の者を遠ざけ、自身もすこし離れたところから魔術の詠唱を行った。

 するとトリア伯の体に火が付き、すぐに全身に火が回る。

 《発火》の魔術を使用したのだった。

 トリア伯はしばらく苦悶の声を上げながら、石材の床の上をのたうち回った後、動かなくなった。


「いい殺し方だ。焼き殺されるのもなかなか苦痛らしいからな」

 

 火刑は処刑の中でも特に重罪な者に処される。

 その光景を見て、シュタナートとダレスは少し溜飲を下げた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ