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シュタナートと神帝ミュラ

 宇宙の寿命でさえ一瞬に感じる程の超遠未来、それは存在した。


 その存在は不定形で女、鳥、劫火、竜の様な獣などの様々なものに、ゆらゆらと絶えずその姿を不確定に変えている。

 その姿は禍々しく巨大な混沌の塊ような印象を受けるも、非常に美しかった。

 しかしこの存在を一瞬でさえ視覚することが出来る者は、恐るべき力を持っている者だけである。

 見る事はおろか、この存在と同じ時間に居るだけでその身に終わりがもたらされる。

 永遠不滅にして無限の成長力を持った者が途方もない年月を経て、完全全能と言える力を持つに至ったのがこの存在であり、三神帝の一角である神帝ミュラという存在であった。

 他の時間軸では他の神帝の力があるで完全に意向どうりにはならずに打ち消し合うか、交じり合ったものとなるが、この時間軸はミュラの領域であるので完全に思いのままだ。

 もし仮に神帝が一柱だけであったなら全ての時間、全ての世界はその意向に完全に塗りつぶされてしまうだろう。


 この時間軸での最終戦争を経て、全宇宙の究極集合である”無限の終わり”をも内包する”全て”は神帝ミュラによって完全に消滅されられている。

 時の果てのミュラによる”全て”の消滅、それは”全て”は寿命を迎えたとも言い換えることが出来る。

 こうして破壊の期間である壊劫が終わり、空無の状態である空劫の期間を迎えているのであった。

 

 ミュラの周囲は何も無い様に見える虚空が永遠と広がっている様に見えるが、その虚空もミュラの一部である。

 だが一見すると何も無い様な虚空であるが、よく見ると虚空全体に薄っすらと(もや)が掛かっているように見える。

 その靄をさらによく見ると、多種多様な姿をした無数の存在であることがわかる。

 それらは過去の時間軸からミュラを打倒し、”全て”の消滅を阻止するためにやって来た存在であった。

 それらはミュラと同じ時間に存在出来るだけあって、超高次元に位置する極大の力を持った神々である。

 しかし完全全能である神帝に戦いを挑むのは無謀で絶望であることがそれ程の力を持つものにとってはわかりきっているため、敢えて挑むのは極めて稀な存在ではあるが、”全て”から来訪するため、その数は無限となる。

 それらは一瞬ごとに無限に現れ、ミュラに一度だけ攻撃することが許されては、そしてその次の瞬間には全員に例外無くこの時間だけでなく、過去も含めた全ての時間軸で死を賜られる。

 ある程度の力持った存在は今現在殺したとしても、過去や未来から復活を試みたりするので、全ての時間軸で殺すのが、上位者間での戦いで基本である。

 ミュラの前には如何なるものを完全に破壊する攻撃も傷どころから僅かな干渉すら許されず、逆にその存在たちの絶対と思われてた防御や不死性も完全に無効化された。

 ミュラが攻撃をわざわざ受けるのは、折角ここまで来たのだから、という慈悲であり、自らを打倒したいと思い攻撃を仕掛けてくるものがこの時間軸に侵入を許しているのもミュラの意向であり、それは単に己の破壊欲を満たすためなのと、それ迄の力を得たものたちに対して、一度きりとはいえ攻撃を許し、自らの手で死を賜るという褒美でもあったし、死と破壊で彩るという目的もあった。

 なお配下や分体では侵入出来ず、本体が直接が攻撃に赴かなければならず、自殺を目的にするものもミュラの意向と相違するため、侵入することは出来ない。

 攻撃してくるもの中には神帝に次ぐほどの力を持っている場合もあり、一見すると膨大な労力が発生しそうではあるが、完全全能であるミュラには労力は皆無であり、全ての力は同じ力を持った最も過去の時間軸に居る創造、秩序等を司る神帝ラーゼンと現在の時間軸に居る調和、中立等を司る神帝イクスとの全ての時間軸、全ての世界での同時並列した戦いに費やされる。


 

 ”全て”の原初は無であり、変化というものは無く、それ故に時というものも無かった。

 だが最初の変化が生じる。

 それが”始まり”であった。

 ”始まり”が生じるとそれと対になる”終わり”が生じることが確定する。

 そして”始まり”から”終わり”へと進む動きも生じたのだった。

 それらこそが三神帝であり、過去、現在、未来そのものでもある。

 

 ”全て”が消滅させたため、この時間軸にはミュラとそれを討ちに来たものしかいないかというとそうでは無かった。

 実はミュラは自身の中に多元宇宙を作り出しており、その中の一つに楽園のような穏やかな世界がある。

 ここは消滅させるには惜しい、この世界の主によって選ばれたものたちの住む世界である。

 そして美しく、過ごしやすそうな庭園の様な場所で椅子に腰かけて、テーブルの上に本を置いて読んでいる一人の男がいた。

 その男は20代前半に見え、銀髪碧眼で中性的で美形な容姿で背は高く、厚みはそれ程では無いが鍛え上げられた体が着ているローブの上からもわかり、かつてのシュタナートに酷似していた。

 ただ危険な雰囲気は無く、だいぶ温和そうな感じである。

 この男はこの世界の主でもある。

 

「やあシュタナート、随分と古い姿をしているな」


 突然、何もない所から出現した女が優しく、愛おしいものを見る表情でそう言う。

 女は絶世の美女で、見るたび赤と金の箇所が変わる神秘的な髪を持ち、金眼で、気が強く気位が高そうで、かつてのイシュアそのまんまであるが、年齢は20前後といった感じであった。


「イシュアはどんな姿の時も美しいが、やはり君のその姿は私にとって特別だ」


 相手が突然、何もない所から現れたにも関わらず特に驚きもせず、同じく優しく、愛おしいものを見る表情で言った。


「私の方もシュタナートのその姿に思い入れがある。やはり最初とは特別なものだ」


 そう言うとイシュアはテーブルの上にティーセットを出現させて、優雅で丁寧な動作でカップに茶を注いで差し出しす。

 シュタナートは椅子を出現さて、イシュアが座った後に目の前に置かれた茶に口を付ける。


「うむ、うまいな。イシュアの入れてくれた茶は実にうまい」


 言葉どうり、シュタナートはうまそうに茶を飲む。


「ふふふ、自分でも全く同じ物を瞬時に作り出せるのに。まあそういうことも大事だ、真に力があるものが完全に合理的だと法則と大差無くなってしまう。それにシュタナートに褒められるとやはり気分がいい」 


 望めば何でも出来るし、知ることが出来るので本を読むのも茶を飲むのもこの会話さえも、今のシュタナートには特に必要のない行為だ。


 なお、ミュラの対極の存在であるラーゼンは理性を重んじる故に法則と大差が無くなっている。


「しかし、この姿であった時の関係、即ち私が夫で君が妻であるのがやはり一番かな」


「まあ、結局はその関係が一番多かったしな。それに釣り合いもとれていると思うし」


「イシュアが男の時はやはりいかんな。乱暴すぎて」


「その乱暴な時に結構感じていたではないか」


 シュタナートとイシュアは今まで無数の転生を繰り返した。

 多く場合は二人は伴侶同士になり、言うように今のような間柄が一番多かったが、イシュアが男でシュタナートが女、両方とも男、両方とも女、両方とも無性などの時もあった。

 女同士はともかく男同士は当初、シュタナートは関係を結ぶことに抵抗があったが、イシュアに押し切らてしまう。

 しかしその状態でも二人は相性は良く、シュタナートは意外にも満足したのだった。

 番いになる必要性無い無性の時も二人は伴侶として生きることが多かった。


 二人は戦いによっても自身を成長を促すと思っていたので、少なくない回数の戦いを行った。

 遊戯のような戦いやお互いの記憶の改ざんや封じ合っての本気の戦いもあった。

 概ねイシュアの能力を制限するなどして互角の戦いになるようにしたのだった。



「まあ、乱暴とはいえやはりイシュアだからな。そうなってしまうな。ところで親父殿たちの戦いはどうだ?」


 シュタナートが親父殿と称するのは神帝ラーゼンのことである。


「順調だな。このまま行けば私の意向はかなり通りそうだ。とはいえ相手はラーゼンとイクス、妥協もせねばならんだろうが」


「では過去を含めた”全て”が消滅し、念願どうりに神帝もいなくなるのか」 


「うむ、私たちの出会いすらも神帝たちの意向、それは非常に気に入らん事だ」


 イシュアは全てのことを他のものによって、大いに干渉を受けていたことに非常に憤りを覚えていた。

 そして”全て”に対して影響する神帝という存在も無用と考え、”全て”の破壊者にして終焉をもたらすものである自分によって無にするべきだと思っている。


 だがミュラとなったイシュアも他の神帝と対抗と釣り合いのため、過去の自分達に対して影響力を行使している。

 それは過去の自分たちの自主性を保つが主な目的である。

 特に過去の自分たちの感情と気持ちは強固に守り通している。

 

「そして新しい”全て”が始まるわけだな」


「そうだな、その時はシュタナートにも頑張って貰わんとな。私たちの子のような存在だし」


 未来の果てのミュラによる”全て”の破壊、これは全神帝の意向であり、その先にある新たな”全て”の創造も全神帝の意向である。

 神帝は完全全能なので、単独での創造も勿論出来るが、しかしそのようなことは他の神帝が許さない。

 なのでミュラとラーゼンが力を融和させ、さらにイクスが調整して創造しようと言うのが、調和や融合を司るイクスの意向であったが、相反するミュラとラーゼン、特に感情を重んじるミュラには受け入れられなかった。

 そこでラーゼンの要素を強固に受け継いでいるが、独立した子というべき存在であるクルセス、すなわちミュラの眷属となったシュタナートを代りとして用いることにしたのだった。

 またシュタナートは自分では意識していなかったが、ラーゼンとイクスの意向でイシュアを抑止して、大きな破壊を防ぐ役目も負っていたのだ。

  

「二人でたくさんの子を作ってきたが、最後の子になるな。私とイシュアとしての」


「ああ、そしてもう少しでイクスがこの時間に到達する。そしたらシュタナートの大好きな子作りになるな」 


 イクスが居る時間こそが現在であり、ミュラが居る時間はまだ訪れていないが、いずれは”全て”に確実に訪れる未来である。

 神帝とその伴侶は当然ながら時間を超越した存在である。


「ふふ、その姿であと少しと言われるとさすがに違和感があるな」


 イクスの到達まで掛かる時間は、神帝からするとそれ程ではないかもしれないが、人の時間の物差しで判断すると永遠に近い。


「そして、”全て”が終わった後も……」


 シュタナートはイシュアの目をしっかりと見る。


「ああ……」


 イシュアはシュタナートの目を見返し、頷く。


 基本的には新たな”全て”には何も引き継がれないが、僅かだが例外が存在した。

 しかしその時には二人は死と同時に力も失うので本当の偶然に頼るしかないだろう。











 

 

 

 

 そして過去の時間、三神帝を含めた”全て”が終わると同時に新たな”全て”が始まる。








 

 

 

 あるところに一人の女の子がいた。

 そして近くには男の子がいた。

 女の子は何故か男の子のことが非常に気になる。

 頑張って自分から話掛けようと意を決すると、男の子の方から近づいてきて話掛けてくれた。

 どうやら男の子の方も女の子のことが凄く気になったみたいだ。


 因果や宿命から解放された二人が再び出会い、そして新たな永遠が始まり出したのだった。



これにて完結ですが、物語の補完が続きます。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 淡々としているけれど、引き込まれる文章で、 あっという間に読み切ってしまいました! 次回作も期待しています!
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