第7話 再会2
フィーネに酷似した石像、それはフィーネの亡骸が痛むのを防ぐためにシュタナートが《石化》の魔術を施したものであった。
亡骸の損壊が激しい程、蘇生の加護の難易度は上がるため、それを防ぐための《石化》であった。
もっとも何度か《石化》を解いて、蘇生を実行したが、結局は成功することはなかった。
例え亡骸の損傷が無くとも、時間が経過すると魂が遠ざかってしまうことにより蘇生の成功率は下がるので、今現在はおろかライルがシュタナートであった時でさえ、成功率は厳しいものであった。
もし今現在、蘇生が出来るとしたら加護では無く、完全に奇跡の領域である。
そしてそれを実行出来るのは史上最も優れた奇跡の使い手であるクルセス本人くらいしかありえないだろう。
ライル、フォーエン親子の3人はフィーネの亡骸のあった部屋から応接室に戻っていた。
フォーエン親子は椅子に腰かけるが、ライルは立ったままだ。
「シュタナート様もお座りください」
立ったままのライルを見てリハルトが促した。
「フィーネをこれ程の長期間、大事に保管してくれたことは非常に感謝の念に堪えない」
そう言うとライルはフォーエン親子に二人が見たことがない程、深く頭を下げた。
「お気になさらずに、どうぞ頭をお上げください」
「父の言う通りです。彼女は私達親子にとっても大切な方でしたので」
「すまない。そしてフィーネをずっとこのままにしておくわけにもいかない。迷惑ついでにフィーネの解放を手伝ってはくれんだろか? 今の私には残念ながら大した報酬も支払うことも出来んが」
シュタナートであった時、部下の働きには十分な報酬を与える事を信条とし、それが組織のためになるとの思いがあった。
「報酬なんぞ水臭いことをおっしゃらんでください。勿論、手伝わしてもらいますぞ」
「そうですとも」
「すまないな。二人には感謝しても感謝しきれん」
ライルは再び頭を深々と下げる。
「まあとりあえず、具体的な方法を話合いましょう。シュタナート様、立っていては話にくいので、どうぞ席にお座りください」
「うむ、そうだな」
促されてライルは席に着く。
「フィーネを解放するにはやはり《石化》状態を《解除》しなければならない。しかし長期間保存するためにかなり強力に《石化》が掛かるっている。君らの知ってのとおり、魔術を掛けた者が《解除》するのが、一番やり易いのだが、今の私の魔力では不可能だ。そこで強力な魔力を持った魔術師、しかも信頼おける人物に助力を仰ぎたいのだが」
ライルはかつての魔術師団の仲間の近況がわからないので、具体的な名はあげなかった。
「強力な魔力の持ち主というとはやり、ハウゼン師かドラクル殿になりますかな」
「二人とも国外追放の身ですね。ドラクル殿は帝国に招聘されて今では一角の身分になったと聞いています。彼ならば、《転移》の魔術でここまで来ることも可能かもしれませんね。ハウゼン師の方どこで何をしているやら。まああのお方なら姿を変えるのは容易いことなので、この街で暮らしていても不思議ではありませんが」
「すまんが、まずはハウゼンの方に連絡を試みてはくれんか?」
ドラクルはシュタナートの能力の対して従っていたフシがある。
今のライルでは頼みを聞いてくれない可能性もある。
「わかりました、それほど遠くにいなければ《通話》出来ると思いますので」
《通話》の魔術は対象が遠くであればあるほど、難易度と消費魔力が高くなる。
「では、私がやってみましょう。《通話》の魔術は私の方が得意だ」
「うむ、頼むぞ」
「父上、張り切ってますね」
フランクがここまで生き生きとしている父親を見るのは久しぶりだ。
そしてリハルトは精神を集中して詠唱し、魔術を完成させる。
『お久しぶりです、リハルト・フォーエンです。今、《転生》されたシュタナート様が私の自宅に訪れていまして、ある件でハウゼン師にご助力を賜りたいのでご連絡させて頂きました。是非お返事の方、宜しくお願いします』
「うむ、伝わった手ごたえはありました」
「ありがとう、ではしばらく待つか」
しばらくするとリハルトが何かを感じたかと思うと、話を注意深く聞くように頷きだす。
「ハウゼン師からの返事が来ました。すぐにそちらに《転移》したいので、《誘導》の方を頼むとのことです」
《転移》の魔術は転移先を少しでもずれるたり、予期せぬ障害物があると危険なので、魔術による《誘導》を行い、その危険性を抑えるのだ。
「なかなか性急なことではあるな」
「はやる気持ちというやつですね、私にもわかります。シュタナート様とは誰しもが二度と会えぬと思っておりましたから」
フランクの言葉にリハルトも頷く。
「では、私が《誘導》を行いますかね。父上ばかりに負担は掛けるいかないので」
「うむ、すまないが頼む」
ライルの言葉を聞くと、フランクは詠唱し、魔術を完成させる。
《誘導》が完成したのを見て、リハルトが再び《通話》の魔術を詠唱する。
『ハウゼン師、《誘導》の方が整いました。どうぞお越しください』
ハウゼンに会うのは嬉しいことであるが、彼はシュタナートの才能も愛していたので、ガッカリするだろうな、とライルは思っていた。
そして間もなくするとハウゼンが光とともにハウゼンが現れた。
《老化軽減》のため、16年前の最後に会った時とそれ程変わっておらず、リハルトと比べてだいぶ若く、元気に見える。
彼はライルを見つけると、じっとよく見つめて観察する。
「うむ、どうやら若に間違いない様だな。背丈が低くなって、柔らかい感じになったが若い頃の面影がある」
ハウゼンが嬉しそうにライルの方へと歩み寄ってくる。
「ハウゼン師、あなたの方は変わらず元気そうだな」
ライルの方も歩みより、二人は軽く抱擁し、お互いが健在であることを喜び合う。
「ワシの力を借りたいのと話だが、こういて生きて会えたことだし、出来ることなら何でもしよう」
「すまない感謝する。実はフィーネを……」
ライルはハウゼンにフィーネの件を説明した。
「わかった、協力するとしよう。ところで他の者には助けを求めんのか? 若に会えたら喜ぶ者も多いと思うぞ」
「あまり多くの者に会うと、そこからかつて敵対してきた者に伝わり危険に晒される可能性が出てくるな」
「とは言え、ベイゼルくらいはいいじゃないのか? 奴は大導師で唯一国外追放を免れたし、近くに住んでいるだろう」
「確かにベイゼルなら信頼出来る相手だし、私も会いたいという気持ちもある。しかし残念ながら、役に立たんだろ。魔術力はアレだし、歳だから体も動かんだろうし」
「ベイゼル殿なら、歳のわりにすこぶる元気なので、体を使うことでお役に立てることもあるかと思います」
「それにあの方を呼ばないと、後に判明した時にかなり意気消沈され、恨まれると思いますよ」
フォーエン親子がハウゼンの意見を擁護する。
「わかった、君らの言う通りしよう。ベイゼルに来るように連絡を頼む」
かつての主人とはいえ、今は彼らに協力を頼む身であるので、要望を無下には出来ない。
リハルトがハウゼンと時の同じようにベイゼルに《通話》で連絡する。
そしてかつての魔術師団の仲間たちの状況などを聞きながら、ベイゼルの到着を待った。
「他の大導師連中は帝国に招聘されたのに、ベイゼルだけは招聘されなかったのか。あの魔術の能力では仕方ないか。副首領としてはなかなか優秀であったが」
「ノイマンもクラウディスもドラクルも帝国で貢献して、それなりの立場になっとるらしいな。ワシの方は今更帝国なんぞに行ってもしょうがないから、気ままに暮らしておるが」
「ベイゼル殿は魔術師団解体に伴う諸作業のため、ヴェルデに残されたという面もあります。なんせシュタナート様と同じかそれ以上に組織の知り尽くしていましたからな」
そんな話をして待っていると、扉を叩く音がした後に
「失礼します。大旦那様、旦那様、入室させて頂きます」
と声が掛かり、少し間を置いた後に先程の女使用人が部屋に入ってきた。
「ベイゼル・ハスタール様がお越しになっております。いかがしましょうか? あっ」
「やあ、お邪魔しているよ」
女使用人はそう言った後、知らぬ間に客が増えていることに気が付き、ハウゼンの顔を見て、驚く。
それに対してハウゼンは手を上げて、気さくな挨拶を返した。
「エマさん、ベイゼル殿をこの部屋に連れてきてくれんか」
「かしこまりました」
そう言った後、退出し、すぐにベイゼルを連れてまた部屋に戻って来た。
リハルトが言っていたように元気で、歳よりもだいぶ若く見える。
半信半疑のような表情のベイゼルであったが、ライルの顔を見るとすぐに表情が綻ぶ。
「やあ、シュタナート、以前より可愛くなって、だいぶ若返ったな。少しは違うが50年前の姿を思い出すわ」
女使用人が部屋から離れた後、ベイゼルはライルの方へ手を広げながら、近づいてくる。
「ベイゼル、元気そうだな。その調子ならいまだに奥方に迷惑をかけてるのじゃないか」
ライルも笑顔で椅子から立ち上がり、ベイゼルを出迎えて、何十年ぶりかの抱擁をした。
「そっちの方は流石に卒業かな。それにして随分と魔力を失ったようだな。俺とたいして変わらなくなったみたいだ。相変わらず女にはモテそうだから、まあそのくらいは良しとしとけ」
笑顔を崩さず、ベイゼルが魔力のことにも言及する。
ハウゼンやフォーエン親子はライルが魔力を失った事をかなり残念がったが、ベイゼルの方はどうも勝手が違うようだ。
ベイゼルがハウゼンは勿論、フォーエン親子にも大きく魔力が劣っているせいかもしれない。
「では凡庸な魔力の先輩であるベイゼルに教えを乞うとしようか」
魔力が低くなったことは気にしていたので、皮肉を交えて返す。
「おう、何でも聞いてくれたまえ」
ベイゼルはそんな皮肉を意に介さず、得意げに答えた。
とは言え、ライルの魔力は既にベイゼルと同程度あり、若いので加齢による魔力成長もあるので、すぐに上回ることだろう。
それに使用出来る魔術の数や技術に至ってはもう上回っていたりする。
「まあ、まずはフィーネの件についての話を進めようとしよう。日が暮れてだいぶ経つし、長引くと爺ばかりなので、お眠になってしまうだろう」
ハウゼンの言う通り、ライルがこの邸宅を訪れた時刻が、夕刻前と早い時間では無かったため、もう日が落ちてからそれなりの時間が経っていた。
そして以前のハウゼンは会議でたびたび居眠りをしていたのだった。
「そういえば夕食の時間帯ではありますな。この部屋に食事を持ってこさせますか? 腹がすいてはなんとやらは東の大陸の方のことわざでしたっけ?」
そして彼ら5人は食事を取りながら、フィーネの件について話し合った。
それは彼女を葬る話なので、楽しいものではなかった。
その話が一段落した後に、魔術師団だった者たちの近況の話もした。
それは懐かしく、色々興味深く、楽しい話であった。
またイシュアの色仕掛けの罠にはめられて、まんまと殺されたことは4人に責められもした。
そうして5人は夜遅くまで話をしたのだった。




