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聖者と不死鳥1

 ある一羽の鳥が空を飛んでいた。

 鳥の羽毛は金と赤であり、まるで炎のが燃えるかのように羽毛の金と赤の箇所が変化して見える。

 その姿は恐ろしい程の偉容と美しさで、神々しく、とてもこの世のものともは思えない程である。

 それ程に高い高度でないのと、通常の鳥と比べると相当に大きいので地上の人々からもその偉容が確認できる。


 この鳥は人々から不死鳥と呼称される存在である。

 この時代の不死鳥はすでに竜王さえも大きく凌駕し、この星で最強の存在となっていた。

 そして驚異的な成長速度は未だに衰えず、しかも不滅である。


 不死鳥が飛んでいるのアスラトール大陸中央部やや北よりの位置するレーゲンス帝国の帝都ラーサリム上空である。

 レーゲンス帝国はこの時代のアスラトール大陸最大の版図の国であり、皇帝の優れた軍事的才能でもって小国から成りあがったのであった。


 不死鳥を目にした人々はその圧倒的存在に驚き、畏怖し、あるいは崇め、あるいはひれ伏し、あるいは身を隠した。

 平静を装って眺めている者はごく少数である。

 突然の不死鳥の来訪にラーサリムの街はかなり混乱している。

 兵は警戒をしているが、とても人では敵わぬ存在であることを本能と伝聞で認識していた。


 不死鳥は圧倒的な魔力を隠すことなく放ち、全周囲のあらゆるものから常時膨大な情報、人の身であれば一瞬で発狂してしまう程の膨大な情報を収集及びそれの解析を行いつつ、ある男と接触するためにラーサリムを訪れていた。

 不死鳥は男のことは以前から認識し、興味を抱いていたが、直接接触を試みるのは今回が初めてであった。

 しかし今回を逃すと直接接触する機会を永遠に逃すことになるので、足をのばす事にしたのだ。


 目的の男の名はクルセス、彼はその行いや人格、能力で、他のとは隔絶した力を持つ存在である三神帝の内の一柱、創造等を司る神帝ラーゼンを奉ずる者たちを中心に急速に人心を集めていた。


 神を信奉する者の中には魔術に似た加護という技を使う者がいる。

 中でも特別で強力な加護は奇跡とも呼ばるが、奇跡は神帝の力を借りるものなので、魔術や加護とは違い、因果律等のあらゆる法則をも超越する。

 魔術師や学者は加護を神聖魔術と呼称する者もいるが、神を信奉する者たちは「魔術なんかと一緒にするな。これは授かった加護だ」とその呼称はそれ程、受け入れられていない。


 奇跡は特別な人間の極めて強固の思いで発動し、人の身では過度であるためにほぼ全てが自身の生命がただ一度の行使で失われ、発動させた者は聖人と呼称される。

 クルセスはその奇跡を数多く使って主に貧者や病人の救済を行い、また創造の神帝の意志をわかりやすく、正確に伝えたのだった。

 その働きによりクルセスは人々から多く尊敬と信頼を集めていたのであった。

 だがその動きは創造の神帝を信奉する者の旧来の指導者たちには面白いものではなく、むしろ脅威であった。

 彼らはこの国の皇帝にクルセスの日々増大する求心力からくる潜在的脅威を訴え、自分以上の権威が出現するのは邪魔で疎ましいものと思っていた皇帝は、クルセスを捕らえ、今日に処刑する運びとなっていた。


 そして処刑の断を下した皇帝は帝都上空を我が物顔で飛ぶ不死鳥を自室のバルコニーから憎々し気に眺めていた。

 自分の民たちが自分に対する時以上に不死鳥に平伏しているのを目にしたからだ。

 折角、忌々しいあの男を処刑する日なので一足早い祝杯を上げたのが台無しだ、皇帝はそう思っていた。

 そして酒が入っていたためか、信じがたい愚行に出てしまうのだ。

 彼は愛用の強弓と矢を従者に取ってこさせ、そして不死鳥に狙いを定める。

 当然、従者は必死に止めたのだが、皇帝は弓を引き絞って、放った。

 矢は猛烈な速度で不死鳥めがけて正確に直進する。

 皇帝の剛腕もそうだが、弓と矢双方には強力な魔術が付与されているためでもある。


 不死鳥はこの皇帝の行動も把握していた。

 このまま矢が自身に当たれば、多少の傷を負う事になるだろう。

 回避することも防御することもいずれも容易いことであるが、このまま矢に当たった方が、自身の行動がより分かりやすいものになると思い、そのまま当たることにした。


 矢を受け、不死鳥の体に痛みが走る。

 不死鳥に痛みを与える事が出来る者は、相当限られた存在である。


『聞け、この街の人間共よ。貴様たちの皇帝は私に矢を射かけ、あまつさえ手傷を受けさせた。当然、皇帝本人は筆舌尽くしがたい苦しみを与えて死を与えるが、その命だけでは償いきれぬ。よって街の全ての人間の命で償わせる。貴様らは皆殺しとする』


 不死鳥は精神を集中し、魔獣には詠唱を必要ないため、無詠唱で《通話》に似た魔術を発動させて、この帝都の住人である数万人の頭の中に不死鳥の威圧的な声が響き渡る。


 通常の《通話》とは比較にならぬ範囲である。

 当然、必要とされる魔力は極めて膨大で、同時に正確に対象を特定しなけばならないので難易度は極めて高く、このようなことは人には、いや不死鳥以外の存在には誰も行う事は不可能であろう。


 この言葉が脅しではないことが、不死鳥の近くにいた人間たちはすぐ思い知る事となる。


 再び精神を集中し、不死鳥は周りに数百もの光る矢のようなものを出現させた。

 数こそは非常に多いが、最も初歩の攻撃魔術である《光の矢》である。

 本来、初歩の攻撃魔術なので威力はたいしことはなく、相当優れた魔術師であっても人ひとり殺すことは相当な困難である。


 数百の《光の矢》は一つ一つが全く別の軌道をたどりながら、不死鳥に比較的近くにいた人々に正確に命中し、その全てを絶命させる。


 威圧的言葉を耳にし、その光景を目にした皇帝は一気に酔いが醒め、恐怖し、己の行いを後悔した。

 自身は王宮の奥に避難し、藁にもすがる思いで配下に不死鳥討伐を命じる。


 不死鳥は帝都の比較的低空を飛び回りながら《火球》、《火炎嵐》、《真空の刃》、《真空嵐》、《電撃》、《氷の槍》、《氷結嵐》、《毒の霧》、《即死》等の多種多様の攻撃魔術で殺戮を行う。

 あっという間に帝都の人口は一割を失い、阿鼻叫喚の様相を呈している。

 女子供はおろか赤子でも平等に死が賜れている。

 帝都の外には脱出を防ぐ結界が張られおり、なんとか逃げだそうとした人々が殺到したため、多数の圧死者がでた。

 しかしこの惨状に不死鳥には罪悪感はない。

 不快な害虫がいたので巣ごと殲滅するといった感じだ。

 多種多様な攻撃魔術を使用するのは、どの程度の結果を上げるのかの情報を欲しいからだ。

 この殺戮は魔術の実験でもあった。

 そこで得られた情報を不死鳥は蓄積していく。

 そしてこの破壊行動に不死鳥は快楽を感じていた。

 普段は押しとどめているものの、元来不死鳥にはかなり強い破壊欲求がある。


 人間側も弓や魔術で必死の反撃を試みるが、不死鳥には一切通じず、その者たち真っ先に殺されて、死者の数が上積みされていく。


 そして不死鳥はとっておきの魔術を使用した。


 天空より太陽より眩しく、長い尾を引いた火球が現れたかと思うと、恐ろし速度で地表に激突した。

 たちまち途方もない大爆発が起こり、それによって発生した熱量がありとあらゆるものを焼き、局地的な地震を引き起こし、音が後から聞こえてくる衝撃波がありとあらゆるものを吹き飛ばした。


 究極の破壊魔術と呼ばれる《隕石落とし》である。

 この魔術は不死鳥をもってしても正確な場所に落とすのは、軌道計算も制御も難しい。

 呼び寄せた隕石は不死鳥があらかじめ、この星の周回軌道上で目星を付けていたものであった。

 希少なもので、これ以外の隕石を落とすとなると長大な時間と更に膨大な魔力が必要となるが、いい機会だと思い、使用したのだった。


 落ちた場所は帝都からだいぶ離れたところではあったが、帝都のかなりの広さの区画を巻き込んで、広大な何も無い荒野と巨大な赤く焼けただれた隕石孔を形成した。

 中心部付近に落ちとしていれば、この魔術のみで帝都は完全に消滅したであろう。


 不死鳥は目標地点に正確に落ちたことと、事前に予測した破壊規模と実際の結果が一致したことに満足すると、


『我は死なり、世界の破壊者なり』


 気分が高揚し、より絶望を与えるためにクルセスにゆかりがあった異界のある聖典のお気に入りの一節を引用して伝えたのだった。



 

 死者の割合が帝都の人口の5割近くに達し、いよいよ壊滅状態となった時に不死鳥の前へある一団が姿を現す。

 中心には他の者に支えられながら歩いている重症を負った男がいた。

 30代くらいの年齢で傷つきながらも威厳があり、神秘的な美しさがある男だ。

 この男こそが聖者と呼称される者の中でも別格の存在であるクルセスという男であった。


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