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第13話 イシュア暴行事件

「何!? 口に石を詰め込んで、それを上から踏みつけて、大怪我をさせただと!?」


 シュタナートは執務室でリハルトからの説明を受けている。


「被害者はフォスター導師のご子息で重症ではありますが、命には関わらないとの事です。彼とは若手魔術師たちの合同教育の場で知り合ったようですな」


「ああ、彼か」


 それを聞いて、少し複雑な気分になる。

 ベイゼルからイシュアに言い寄っていると聞いたので、少し顔を見に行ったことがある。

 背丈はシュタナート並に高く、横幅はシュタナートよりあり、魔術師ながらかなりの巨漢であった。

 20代で導師捕になるなど才能はあり、イシュアと恋仲になっても、まあよいかと思っていた。


「フォスターは今はあまり口がきけそうにないみたいだから、もう一方に聞くしかないな。イシュアを呼んできてくれ、二人で話がしたい」


「かしこまりました」


 リハルトは執務室を退室する。

 シュタナートはイシュアが急いでくる事など無いことを知っているので、気を落ち着かせて待つ。


 しばらくすると、合図を声掛けもせずに、いきなり扉を開けてイシュアが入室してくる。

 持っている杖は以前に見た時の比べても、かなり痛んだ様子であり、よく見ると血が付いた後のようにも見える。

 扉の上の水晶が赤くはなるが、以前にイシュアが訪れた時に比べれば、少しだけ薄くなっている。

 シュタナートが邪険にされても優しくするのはこのためでもある。

 それは基本的に嬉しいことだが、少しだけ残念な思いもある。

 シュタナートはイシュアの決して屈しない強靭な意志の強さを評価しているためだ。


 イシュアはいつものように勝手に長椅子に座る。

 こっちは特に怪我した様子はない。


「で、何用だ」


 イシュアは面倒くさそうに言う。


「お前の方は怪我はないのか? フォスター導師捕に暴行し、大怪我を負わせたそうだな」


「ああ、そういえばあったな」


 イシュアはとぼけたように答える。


「弁解は無いのか。このままなら、首領としてイシュアにそれ相応の罰を与える事となる。なんせお前は評判が芳しくないので、軽いものにはならんぞ」


「口で説明するより実際に行って見た方が、早い。お前は《過去視》が使えるのだろ?」


 《過去視》とはその場所に行って、この魔術を使えば、条件はあるものの過去を見る事の出来る魔術だ。


「ああ」


「では、馬車をすぐ出せるように支度させろ」


「いいだろう」


 いかに優れているとはいえ、小娘の導師捕ごときに総大導師である自分が指示される面白くないが、シュタナートもイシュアの処罰はあまりしたくないので、了承する。


『私だ。出来るだけ早く私とイシュアの乗る馬車を用意してくれ。用意が出来たら執務室まで迎えに来てくれ』


 シュタナートは《通話》の魔術で秘書官に連絡する。

 馬車の用意にはそれなりに時間がかかる。

 その間にイシュアと会話でもしようと、話しかけるが、目を閉じて無視される。

 仕方なく、シュタナートは書類に目を通す。


「お待たせしました、馬車のご用意が出来ました」


 執務室の外から秘書官の声が聞こえてる。

 シュタナートは席を立ち、机の横の杖立にあった杖を手にする。

 イシュアも席を立つ。

 そして3人は用意した馬車に乗り込みんで護衛の騎乗した兵士を伴い、イシュアの言う場所に向けて出発する。



「ここか」


「あそこの路地の入ったところだ」


 しばらく馬車を走らせると、イシュアが指定した目的地に到着する。

 着いたのは真理の塔とシュタナート邸の間にある大通りに面した裏路地を入っていった場所であった。

 道行く人々は永遠たる係累魔術師団の明らかな上位者が来たとあって、警戒の眼差しを向け、その場所から遠ざかる。

 イシュアはフードを被り、御者が馬車の扉を開け、秘書官、シュタナートいう順番で馬車の外に出る。

 イシュアが外に出ようとすると、


「なんだ、今回は手を貸してくれんのか」


 イシュアは皮肉そうな微笑みを浮かべながら言った。

 シュタナートは手を差し出す。


「ふっ」


 イシュアは、意地悪そうな笑みを浮かべて、その手を軽く払う。

 シュタナートは痛くない分、普段よりはマシかと思った。

 そして3人は路地を少し、入っいく。


「ここの場所だ、時間は昨日の夕方の少し前くらいだな」


「そうか、では《過去視》を使おう」


 シュタナートは詠唱し、魔術を実行する。

 シュタナートは目を閉じている。

 余計な情報を遮断するためだ。

 すると頭の中に体の大きな魔術師、フォスターが傷を倒れ、通りかかった男に助けられている光景が入ってきた。

 通りかかった男は驚き表情を浮かべている。

 この男がいなくて長時間放置されていたら、命が無かったのかも知れない。

 フォスター導師捕の近くには、吐き出されたと思われる血の付いた石が転がっている。


「どうやら少し時刻が遅かったようだな」


 そう言うと、再度《過去視》を詠唱し、実行する。

 今度はイシュアがフードを被り、一人でこの路地を歩いている光景が頭に入ってくる。

 するとフォスターが駆け寄ってきて、イシュアに言い寄るが、イシュアの方は相手にしていない様子だ。

 だんだんフォスターが苛立ちだし、興奮しだす。

 それでもイシュアは無視の姿勢をくずさない。

 するとフォスターは去ろうとするイシュアを後ろから地面に押し倒して、体をまさぐり始める。

 それをイシュアが股間に蹴りを入れ、痛んでいる隙に抜け出すが、フォスターの方はまだ諦めず、掴み掛ろうとしてくる。

 それに対してイシュアは杖等を用いて攻撃し、フォスターの方も応戦する。

 イシュアは見事な立ち回りで、優位に戦いを進めているように見えるが、体重差や体格差があまりにもおおきく、捕まえられたら終わりなので、実際にはそこまで優位でもないだろう。

 しばらくするとイシュアの杖がフォスターの顎のあたりに勢い良く当たる。

 そしてその大きな体がぐらつき、大きな隙を晒す。

 イシュアはそれを見逃さず、猛攻を加えると、フォスターは地面に倒れこみ、無防備な状態になる。

 そこに更に攻撃を加え、息も絶え絶えなフォスターの口の中に地面にあった石、特に尖った石を選別して詰め始める。

 そして石の詰められ箇所めがけて、勢いよく何度か足を踏み下ろし、更に踏みにじった。

 フォスターは口から血まみれの石を吐き出したながら悶え苦しんだ後、気を失ったのか動かなくなり、イシュアは去っていく。


 すると先程、フォスターを助けていた男が、イシュアが去った方向を驚いた顔で振り返りながら、フォスター近くに寄って来ている。


「ふーむ」


 シュタナートは目を開け、《過去視》を終了させた後、唸る。

 自分以外がイシュアを傷付けようとする行為に憤りも感じるが、イシュアを手籠めにしようとは剛毅な奴だなとも思った。


「視終わったのか、でどうするのだ? 私としては殺さなかったことを称賛されてもいいくらいだ」


「イシュアがフォスターを叩きのめすまでは、まあ問題ないが、やはり石を詰めて踏みつけるところが、明らかに過剰だな。イシュアの方はフォスターの方に更に罰を望むか?」


「いや、私の方はいい。ある憎い男の顔を思い浮かべながら叩きのめしたので、スカッとした」


「そうか、では二人の罪を相殺し、フォスターは不問、イシュアはしばらくの間の自宅謹慎、相手は大怪我をしてるので降格も付けておくか」


「わかった」


 イシュアは納得しているようだ。

 基本的にいつもシュタナート邸で読書や魔術の研鑽をしているので、イシュアにとって自宅謹慎はそれ程大きな支障にはならないだろう。

 降格は普通の魔術師団の構成員にとってはかなり不名誉で屈辱的な事で、経歴的にも差し障るのだが、イシュアとってはどこ吹く風といったところだ。

 そもそもイシュアの年齢だと術師長はおろか術師の位階ですら褒められたものなのである。


「あと一人で、こういった道に入っていくなよ。基本的には馬車を使ってくれ」


「うるさい奴だ。近道くらい通らせろ」


 そう言うと、馬車の方に勝手に歩いていく。

 イシュアが持っているボロボロの杖を見て、新しい物を与えんとなと思った。


 この一件は、イシュアの自宅謹慎及び導師捕から術師長への降格、フォスターの罪は問わない事、シュタナートが治療費をかなり超える額の金銭を払う事で、決着する。


 以後フォスターはイシュアに言い寄る事はおろか、顔を見ると逃げるようになった。

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