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第3話 イシュア・ハスタールについて

「16だが」


 シュタナートはハウゼンの質問したきたイシュアの歳を答えた。


「ほう、あれからそれではあれからもう8年が過ぎたのか。月日が経つのは早いな。相変わらず、仲良く暮らしているのか?」


 ハウゼンが皮肉を言ってきた。


「まあ、以前に比べれば少しマシにはなっているが、さすが家族を皆殺しにしただけあってなかなか仲良くはなれないな」


 シュタナートは顔の傷跡を、イシュアがあまりに反抗的だったので、暴力を振るった際に反撃を受けて出来た傷跡を触りながら言った。


「寝首を掻かれるかもしれませんので、いっそ始末した方が無難だと思いますがね」


 数年前まではいかに、賢く、魔術の才があろうとも、所詮は小娘であったが、イシュアはあらゆる面で順調に成長していき、それに伴い危険性も年々増していっているので、ドラクルの言っている事は間違いでは無くなってきている。


「あれ程の才能を亡き者にするのは惜しい。それに奴を守って死んだ姉に、私の名とこの魔術師団に誓って約束したのでそうもいかんよ」


 シュタナートは信条的にも内外への信用を得るためにも約束を破る事はしないのは魔術師団の中で有名な話だ。


「精神操作や記憶操作の魔術の使用して従順にさせる試みはいたしましたか?」


「それは最終手段だな。それらの魔術を使用した場合、なんらか精神に変調をきたす危険性が低くない」


 相手に対して強い憎しみを持った者に魔術で無理やり従順にさせたり、強い思いを持った記憶を魔術で欠落させる事は精神にかなりの損害を与える可能性がある。

 そのせいで非常に高い魔術の才を失わせてしまうのは、勿体無い事だと思っているし、圧倒的な不利な状況でも決して屈しないイシュアの気概も評価しているのもある。


「他の手段なんてあるのか? まあなるべく大切にしてやってくれ。形式だけとは言え、私の娘でもあるしな」


 イシュアは実質的にはシュタナートの養女ような立場だが、表向きにはベイゼルの遠戚の出の娘で、魔術の才能が有ったので、ベイゼルが養女に迎い入れ、シュタナートに師事させている事になっている。


「なに、じっくり時間かけて優しくしてやればいい。時間はある。イシュアも《老化停止》の取得に前向きだしな」


 家族を皆殺しにした男になど、普通はなびくとは思わないところだが、シュタナートが非常にモテてきたのと、自信家なため、時間と労力をかければいけるのではないかと思っている。

 またイシュアをなびかせる行為をシュタナートは報酬と代償が非常に高い賭博として楽しんでいる節もある。

 そしてイシュアは「例え百年掛かろうと千年掛かろうと必ずお前を殺す」と《老化停止》の取得には前向きだ。


「ほー、たいした自信だな。それが過信でないことを願うよ」


「しかし総大導師がおっしゃる通り、彼女の魔術の才は素晴らしい。シュタイン大導師の若い頃に匹敵する。また学術も今の今までただの一問も誤答がした事が無いとの事」


 ノイマンがイシュアを称賛した。

 ノイマンは教育を統括しているのでイシュアの才もよく知っている。

 イシュアの才を称賛されるとシュタナートも少し良い気分になる。

 この魔術の才能こそがシュタナートが危険を冒してまでイシュアを側に置く大きな理由である。

 その才能を目のあたりにすると、シュタナート自身の魔術に対する向上心を刺激され、より研鑽をしようというに気にもなる。


「ノイマン大導師、私に気を使わなくてもよろしいです。彼女は完全に私の若い頃を超えています。彼女なら私と違って総大導師に追いつく、いや追い抜く事も不可能ではないかと」


 シュタナートもイシュアの才は十分認めているが、ドラクルと一緒で早熟の部類かと思っている。

 能力の伸びが急激なのは今だけで、いずれは減速するだろうと。

 何故なら、減速せずにシュタナートの様に歳を重ねても伸びるとなると人の限界を完全に超えてしまう。


「私は魔術の才の事はよく存じませんが、しかしあの方は本当に美しいですな。もはや人では並ぶ者はいないでしょう。魔術師団の象徴である不死鳥の如しの美しさです。」


 不死鳥は永遠、不滅、再生、復活の表現としてよく用いられるが、美の表現としても用いられる。

 シュタナートも一度、実際に目にしたことがあるが非常に美しかった。

 女の好みなど人によってはかなり違ったりするが、不思議とイシュアが一番の美人ということに異論を唱えるものはいない。


「未来の神帝に匹敵するやもしれんな」


 ハウゼンがそう言うと面々は少し緊張が走る。

 さすがのハウゼンもうっかり口に出してしまったという表情だ。


 未来の神帝であるミュラは神帝ラーゼンと神帝イクスと並び、ありとあらゆる無数の世界と神々の頂点に君臨し、神帝は神帝以外から如何なる制限を受けないと言われる究極の存在である。

 神帝ラーゼンは始まりであり、秩序であり、過去であり、神帝イクスは中間であり、中立であり、現在あり、神帝ミュラは終わりであり、混沌であり、未来である。

 この大陸、特に北部では神帝ラーゼンは始まりのために創造を行うため善、神帝ミュラは終わりのために破壊を行うが故に邪悪と言われているが、所詮は人の小さな物差しで判断しているに過ぎない。

 全てはラーゼンとミュラが鬩ぎ合い、イクスが調和調整する事で全てが成り立つと言われている。

 魔術の力も大本を辿れば神帝が根源である。

 神帝は世界すらいとも簡単に滅ぼせる程強大な存在なため、名を直接呼ぶや、通常の会話に出す事、まして人ごときと比べるなど憚られる行為である。

 神帝ミュラは至上の美女の形態をとると言われ、神帝ミュラに美で匹敵するとは美しさの最上の表現であろう。


「そう言えば男色一筋のギュンターまで美しいと言っておりましたぞ」


「あの女嫌いのギュンター導師がですか。彼はゴツゴツとした筋肉隆々の男が美しいと言っておったのに不思議な事ですな」


 クラウディスの言葉にノイマンが知的好奇心を刺激されたのか、反応した。


「美しさなどフィーネくらいで十分過ぎる。むしろ美し過ぎると色々と煩わしい事になりかねんし、そんなもの魔術でどうにでもなるだろう」


 美し過ぎる故に、自身や周りに厄災をもたらすという伝承はよく聞く。

 昔のシュタナートはかなりの美女が好みであったが、特別美人とは言えないフィーネを愛すようになってからは、その傾向は薄れた。


「いや、魔術で美しくなるのも結構しんどいぞ」


「そういえばハウゼン大導師は《変身》の魔術で美女の姿をとっておった時もありましね」


「あれは見事な美女だったな。ずっとあの姿でいて貰いたいものだ」


「だからしんどいと言っておるじゃろ。完全に《変身》状態を長期間維持するのは、女共がやっているちょっとした幻術とは違うわ。しかもあの姿はもう皆にばれているからもう面白くない。しかしあの姿は研究に研究を重ね、世界一の美女かと思っていたが、話題のお嬢さんを見たら、違ったようじゃのう」


 ちょっとした幻術とは主に女性魔術師達が自らに使用している容貌を良く見せる幻術である。

 それ程の労力がないため多くの者に使用され、外部の者に魔術師団の女魔術師は美人が多いと誤解させている。

 中には相手に悟られずに上手く使用出来る者もいるが、基本的にはそれ程優秀で無い魔術師にも使用していることを感づかれ、ハウゼンやドラクル等の優秀な魔術師に至ってはまったく通用しない。


「まあともかく能力や器量は素晴らしが、性格というか態度がな」


 ベイゼルの言に皆が頷く。

 イシュアが主要な仇としているシュタナートに対して非常に態度が悪いが、他の魔術師団の構成員にも態度が悪く、心を開いていると思われる人物は一人もいない。


「態度が悪いだけなら良いが、シュタナートに対して復讐心を持っているとなると、やはり我々は側に置くことに賛成出来んな」


「そうです。何と言っても総大導師の身の安全が第一。総大導師あってこその永遠たる係累魔術師団です」


「命を狙っている懸念がある者を身近に置くのは……、あの才能は確かに殺すのは惜しい、しかし遠ざけるくらいの事はして頂かないと」


「皆の意見は分かった。確かにそうだな。近いうちに考えておこう。まあそれに時間も時間だ。重要議題はもう無いし、今日の大導師会は、こんなところで閉会しよう」


 シュタナートは自分から見て正面の壁に設置してある時計を見て言った。

 他の者もその時計を見てで時刻を確認する。


「たしかにもう晩飯時だし、このくらいか」


 ベイゼルが賛成の声をあげ、他の者も特に異存は無い様だ。


「では、これにて本日の大導師会は閉会とする。皆ご苦労だった」


 ハウゼンも含めシュタナート以外の全員が一礼し、閉会となった。



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