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第2話 大導師会2

 大導師たちが座るテーブルとは別の机があり、その席にも一人の魔術師が座っている。

 この大陸では筆記は鳥の羽のペンと羊皮紙の方が一般的であるが、その机の上では金属製のペンが宙に浮き、まるで人が持って書いているように、話の内容を自律的に紙に文字を書き、時折、魔術師も文字を聞き記している。


「次にガゼリア帝国の情勢についてだが……」


  ベイゼルがそう言いかけたが、その対面の席でハウゼンがうとうとしていた。


 隣に座しているクラウディスがハウゼンを肩を揺するとハッと目を覚まし、


「すまん、すまん、どうも年のせいか」


 と言い訳した。

 シュタナートは他の者だったら叱責するのだが、ハウゼンだったので渋い顔をしただけだった。

 ベイゼルはワザとらしく咳払いした。


「ではガゼリア帝国の情勢についてはドラクルに説明してもらうか」


「では僭越ながら私がガゼリア帝国の現在の情勢を大まか説明させて頂きます」


「ガゼリア帝国は皆様のご存知通り、この大陸で国土、人口、経済、軍事、学術、文化等で大陸随一で、先帝の頃より魔術の分野にも力を入れており、個人の質や技術、知識の蓄積においては、まだまだ我が魔術師団や深淵の理魔術師団に及ばないないものの、人員の数において圧倒しており、この分野においても大陸一と言っても過言では無いでしょう」


「今までは貴族勢力が強く、それ程、皇帝権力が高くありませんでしたが、3年前に終結した内戦後は皇帝が国内をほぼ完全に掌握。貴族勢力は大幅に弱体化し、名目的な存在になり下がっており、皇帝の意向を忠実に実行する官僚機構と常備軍を作り上げて集権的構造を構築し、強大な国力を存分に振るえる状態となっております」


「そのような状況を脅威に思い、周辺各国は帝国に取り入る動きや、逆に対抗するための軍事同盟の締結または模索する動きも出ています。しかしながらいかに大規模な軍事同盟が出来ようとしても、どうしても国と国では連携に限度があるため、皇帝によって一つに纏まっている帝国を相手にする事は簡単では無いでしょう」


「我々の本拠地のあるここヴェルデから距離はあるものの、ひとたび帝国が動き出すと、規模や影響力から大陸全土に戦火が広がる可能性も低くないため、我々も他人事ではなく、なんらかの対応をしておく方が良いと思われます」


「最近では我々の魔術品が帝国の物と競合しつつありますな。質はそれ程では無く、信頼と実績の我が不死鳥印の物に比べればまだまだですが、将来的には魔術師団の収益に悪影響を与えるものと思われます」


 ドラクルの説明の後、ウォルトンも経済活動面から帝国の潜在的脅威を訴えた。

魔術を付与した品物を制作し、売却する事は永遠たる係累魔術師団の大きな収入となっている。


「帝国の勢いは留まる事が無い。我々の方としても何らかの対抗策を考える必要があるが、まずは魔術師団の戦力を強化するが先決だろう。よって我が魔術師団によるヴェルデ共和国の掌握をそろそろ図った方が良いかと思う」


 とベイゼルが提案した。


「ふん、それがしたいから帝国の話をしたのか。まあ悪くはないと思うがな」


 とハウゼンが賛同する言葉を発し、シュタナートも事前に相談されており、賛成である。

 

「現在の共和国は一つの軍に二人の最高指揮官がいるような状態ですね。そのような状態の軍はいざという時に大きな混乱が生じる恐れがあるので、改善しておいた方がいでしょう。深淵の理とは状況が同じというわけでは無いですし」


 とクラウディス。

 近年のヴェルデ共和国は永遠たる係累魔術師団と共和国執政府と二つの組織が並列し、協力しあって発展してきた。

 当初は勿論、執政府がこの国を支配していたが、魔術師団の力が年々増していったため、両者の国内での力関係は微妙なものとなってきた。

 そして永遠たる係累魔術師団は先行する深淵の理魔術師団を模擬することで組織を発展させてきた。

 深淵の理魔術師団は現在、本拠地を構える国でかなりの影響力を持っているが、直接的には支配していない。


「魔術師団に大きな混乱等が起きた場合は執政府の連中はこの国の主導権を得るために我々に攻撃を仕掛けてくる事も予想されますので、先にこちらが完全に執政府を掌握しておいた方が良いでしょう。まあ執政官をはじめ、執政府の連中は嫌な顔をするでしょうね。連中にとっては共和制が誇りですから。何人かは消えてもらう事になるかもしれません」


 とドラクルが淡々とした表情で言った。彼は暗殺等、謀略を実行する部門を指揮している。

 暗殺に有用な魔術を取得した暗殺者は高い実行力を持つ。


「強硬手段は最後に取っておきましょう。今まで協力しながらお互いに発展してこれたのだから。ひとまず、粘り強く正攻法で交渉した方が良いでしょう」


 とノイマンは学術を尊ぶ者らしい穏健な物言いだが、彼はシュタナードですら目をそむけるかねない残虐な魔術による人体実験を躊躇なく行う。


 魔術師団と執政府はこれまでは良好な間柄であった。

 少なくとも表向きには。

 トリア伯への報復の時も執政府が共に圧力をかけてくれたのでイスカリア王国から有利な条件を得る事が出来た。

 そのため、シュタナートも可能ならば穏健に事を済ませたいと思っている。


「具体的にはどうすのですか?」


 ウォルトンが尋ねる。


「執政官を我が魔術師団の者にするのが良いのではないかな」


 ベイゼルが答える。


「執政官を首領以外の者にすると執政府が魔術師団の完全な下部組織になってしまうから、反発を弱めるためにも形式的には若にした方が良いかもしれな」


「若という呼び方はいい加減やめてもらえんかな。流石にいい歳だし」


「何を言う、わしにとっては若はこのくらい時から変わっっとらんのじゃ」


 とハウゼンが子供の背丈ほどの高さに手をもってきて言った。

 彼は基本的にはシュタナートの言う事を尊重し、従ってくれるのだが、何故か、この呼び方だけは言っても一向に変えない。


「まあともかく、いずれは私がこの国の執政官、あわよくば王になるのも悪くはないかもしれんな」


「総大導師は王の地位に興味がおありですか?」


 クラウディスが意外そうに尋ねてきた。


「私は俗物故、最終的にはこの大陸の権力や権威の頂点に立ちたいとは思う。そのためにはまずは王の地位くらいあった方が良いと思う」


「世俗的な地位にさほど興味が無いと思っておりました。そうでしたらその方向でご助力させて頂きます」


 クラウディスの言葉に他の者たちも賛同を示している。

 魔術師は世俗の権力に関心を示さない者も少なくないが、大導師という魔術師団の権力の最上位にいる連中は違うようだ。


「ヴェルゼ共和国の掌握後にはイスカリア王国の方も同様に魔術師団の支配下に置く方向で進めるのはどうでしょうか?」


 とドラクルが提案する。

 イスカリア王家は前国王の退位とトリア伯領割譲後、そのに伴う権威の低迷で国内が不安定になっていたが、それを助けたのはこの魔術師団だった。

 そのせいでイスカリア王国内での魔術師団の影響はかなり強くなっている。


「まあいずれだな。私はあの若造の事を意外に気に入っている。王を下ろしたり、完全な傀儡にするのは可哀そうだ。まあ将来的には魔術師団から派遣された顧問団の強力な助言により王を助けてやるのも悪くないな」


 シュタナートが答える。

 若造とはイスカリア現国王の事である。


「勿論、当面はヴェルゼ共和国掌握のみに注力するのがよいとは思いますが、イスカリア王国も掌握し、

 この魔術師団の力があれば、この大陸で帝国に次ぐ勢力になるでしょうな」


「うむ、そうだな。ではこの件は重要案件ゆえベイゼルに任せるか。多少血が流れるのは無論、構わんが、軍をこの街で交えるような事は避ける方向で行ってくれ。出来ればこの街自体を戦火に晒したくない」


 シュタナートはこの街の事を気に入っている。


「まあそうなるか。まあ私の提案した事だしな。しかしさらに忙しくなるな」


 ベイゼルは実質的に魔術師団の運営全般を取り仕切っているので多忙ながら本人も渋々ながら承諾し、

 反対意見も無かったためその方向でいく事に決まった。


「では良い報告を待ってるぞ。書記官、しっかり記述しておいてくれ」


「かしこまりました」


 書記官が恭しく承諾し、シュタナートはこの議題を締め切った。



 その後も様々な議題についての話し合いが行われる。


 そしてそれらの議題が概ね終了すると、大導師会は閉会へと向かいだし、面々の緊張がほぐれだす。


「ところであの美しく、才能溢れる気の強い姫君は幾つになった?」


 ハウゼンが唐突にイシュアの事を訊ねたてきた。


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