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第1話 大導師会1

 そしておよそ8年の年月が経過した。


 アスラトール大陸の北部の西の端に位置する国家、ヴェルゼ共和国。

 この大陸で珍しい共和制を敷く国家である。

 かつて首都ヴェルゼ周辺と海で繋がったいくつかの飛び地と島々で構成されていた都市国家で、古くから海洋貿易が盛んで、大陸北西部の貿易の中心地であり、強力な海軍を保持し、周辺の海を支配していた。

 魔術も盛んで、いくつかの魔術師団が存在していたが、現在ではある一つの魔術師団に事実上統合されている。

 質、量ともに大陸でも最高水準である魔術組織である永遠たる係累魔術師団によって。

 盟友関係にある魔術師団との共闘により近年、ヴェルゼ共和国は飛び地を埋めるように拡大してゆき、もはや都市国家とは言えない領土を形成しており、周辺国を圧迫している。


 首都ヴェルゼ、10万を遥に超える人口を有する大陸有数の巨大都市であり、港湾都市であり、商業都市であり、そして魔術都市でもある。

 街の道はほとんどが石畳で舗装され、上下水道も整備されてることから清潔で美しい街である。

 強大な魔術組織である永遠たる係累魔術師団が本拠地を置いているせいもあり、非常に魔術師の数が多い。

 絶対数ではガゼリア帝国の帝都ガイゼルには及ばないが、比率では上回る。

 他国から留学して来る魔術師もかなりの数だ。

 貿易で大きな利益を得ているため豊かな都市である。

 特に魔術を付与した品物での貿易は大きな富をもたらしている。


 都市の中心部には荘厳な建物が立ち並ぶ。

 その一角に特に荘厳かつ巨大な背の高い建物がある。

 門の入り口には不死鳥の紋章のついた鎧を着た兵士が不審な者が入らないか目を光らせている。

 門をくぐる者のほとんどが不死鳥の紋章の入ったローブを身に付けた魔術師であった。

 ここは永遠たる係累魔術師団の本拠地である。

 前身組織の名称が真理の解放魔術師団だったため、真理の塔と言う名称で呼ばれている。


 真理の塔の一室で定例の最高幹部会議である大導師会行われていた。

 窓の無い部屋だが、魔術により照明により部屋は明るい。

 大きな長方形のテーブルがあり、そこには7人の男が席に着いていた。

 6人は高位の魔術師風、一人は裕福な商人風である。


 テーブルの一番奥の席に座る男はシュタナートであった。

 シュタナードの容姿はトリア伯を襲撃したころと全くと言っていい程変わっていない。

 シュタナートが自らに実行しいている《老化停止》の魔術の所為である。

 《老化停止》の魔術を実行すれば、肉体の老化、成長がとまり不老となり、理論的には永遠に生きる事が可能である。

 非常に難易度が高い魔術であり、現在取得して実行しているのはシュタナートだけだと思われる。

 シュタナートが深淵の理魔術師団首領のヴォルオーグと並んで早くから最高の魔術師の一人に数えられるのはこの魔術を極めて若い年齢で習得したのも大きい。

 シュタナートの実年齢は50手前である。


 シュタナートの右斜め前には気さくで、人当たりが良さそうだが、威厳のある男が座っている。

 見た目の年齢は50過ぎ、実年齢はシュタナートより若干上の同世代である。

 大導師の首席にして事実上の魔術師団の副首領に当たるベイゼル・ハスタール大導師である。

 魔術師としての能力は並で、魔術師の能力だけで位階が決まるなら、ただの古参魔術師が就く術師長といったところだろう。

 しかし永遠たる係累魔術師団では魔術の能力だけで位階は決まるという事は無い。

 魔術師団への貢献度や人望、知識、指導力等も大きな要素であり、縁故も無視はできない。

 シュタナートが王だとするとベイゼルは宰相に当たり、管理部門を中心に魔術師団の運営全般の指揮をとる。

 その能力は魔術師としての力量とは違い、なかなかのものである。

 一般的に魔術師は魔術の研鑽に注力し、時間を費やすが、ベイゼルはそういった事はほとんどせず、その分、魔術師団の運営に注力している。

 そしてシュタナートが最も信頼する人物の一人で、物心がつく頃からの個人的友人で、かつての兄貴分でもあった。


 シュタナートの左斜め前には白髪で深いシワが刻まれた老人が座っている。

 魔術師団の最長老であるエドワルド・ハウゼン大導師である。

 《老化停止》程ではないにしろ難易度の高い魔術である《老化軽減》を実行していて、見た目は60歳から70歳の元気そうな老人であるが、実年齢は100歳を遥に超えている。

 シュタナートが物心つく頃から知己があるが、そのころより姿はほとんど変わっていない。

 習得している魔術の種類はシュタナートをも上回り、総合的な魔術の実力もシュタナートに次ぐ。

 魔術師団の最長老でシュタナートの実父が永遠たる係累魔術師団の前身組織を率いていた頃よりの重鎮で最古参にして最功労者である。

 シュタナートが首領に円滑に就任できたのも彼の支持があったからだ。

 かつては両腕とも言える存在で、シュタナートに次ぐ立場であったが、現在は現役から一歩引いた立場でその地位をベイゼルに譲っている。

 組織の最高顧問という位置づけであり、シュタナートの頭の上がらない数少ない人物である。


 シュタナートから見てベイゼルの後ろの席には魔術師の中でも特に理知的で、また神経質そうな学者風で眼鏡を掛けている魔術師が座っていた。

 最近では透明なガラス等を凹凸に加工することで見えやすくする眼鏡もあるとの事だが、彼の使用している物は魔術を付与することで見えやすくしている。

 魔術師団には他にも何人か眼鏡かけている者がいるが全て魔術的な処置によるものだろう。

 見た目の年齢はベイゼルよりやや上で、《老化軽減》の魔術は実行していないので実年齢も一緒。

 魔術師、特に向上心がある魔術師には極めて重要な研究、学術、教育を統括するアルフレッド・ノイマン大導師である。

 魔術師としての能力はそこまで高くはないのだが、類稀なる頭脳を持ち、大導師の地位の相応しい研究成果を上げている。

 また永遠たる係累魔術師団はそれ程魔術の素質に恵まれない者でも一人前の魔術師することや素質のある者より高みへ導く等、優れた教育の仕組みを持っているが、それを主だって作ったのもノイマンである。


 ノイマンの対面でハウゼンの後ろの席にはベイゼルと同世代と思われる武人ような厳つい風貌の魔術師が座っている。

 彼は軍事関連を統括するカール・クラウディス大導師である。

 彼も《老化軽減》は実行していない。

 軍事に対する魔術の有効利用に長け、軍を指揮し、または同盟関係にある軍を支援し、多数の勝利をもたらして魔術師団の武名を轟かせた。

 軍事部門は危険で過酷なため、魔術師達の人気を低いが、国家規模の勢力と対等に渡り合うためには必要である。

 魔術師団の規模が年々拡大するに従って軍事部門も強化されており、現在では魔術師団は国家並の軍事力を保持にする至っている。

 トリア伯への襲撃でもシュタナートが加わる事には安全のため反対したが、寝ずに部隊を編成し、集めたのクラウディスである。

 武人らしく実直で忠誠心に篤いが、柔軟な思考もあり、革新的な戦術や軍の運用、魔術の有効利用の仕方をいくつも生み出してきた。

 この魔術師団で魔術による軍事利用を、包括的な物に変えたのは彼の力によることも大きい。


 ノイマンの横の席には20代に見える青年が座っている。

 魔術師らしい理知的で落ち着いた感じだが、目つきは鋭く、切れ者のような印象を与える。

 彼はドラクル・シュタイン大導師、《老化軽減》の魔術を実行していて、実際の年齢は40を少し過ぎたころ。

 若い頃の魔術の成長は凄まじく、一時はシュタナートに追いついてしまうのではと噂されたが、加齢とともに伸びは鈍化していった。

 一方、シュタナートの実力は近年でも順調に伸ばしているので、追いつくどころか実力差はかなりあるが、それでも才能においてはシュタナートに次ぎ、総合的な実力でもハウゼンに次ぐ3番手である。

 魔術師団では組織の統制監察及び情報諜報部門の統括を行っていて、冷静冷徹に組織の利益を図っている。


 クラウディスの横でドラクルの対面の席には柔和そうな商人風の恰幅のいい男が座していた。

 見た目の年齢はノイマンとほぼ同年代、彼はこのテーブルの席に着いている者の中で唯一、大導師はおろか魔術師でも無い。

 彼はサムウェル・ウォルトン財務官、魔術師団の財務、経済活動を統括し、外交も主任務としている。

 形式的には大導師と導師長の間の地位であるが、実質的にはほぼ大導師と同格で、大導師会の正式な構成員である。

 魔術師の組織である魔術師団で非魔術師のウォルトンが組織全体で7番目という非常に高い地位に就いているは、勿論本人の能力もあるが、魔術師団内で魔術師より人数の多い非魔術師の意見を取り入れ、士気を上げる事、行き過ぎた魔術至上主義の抑止する事、また他の国家など有力勢力の上層部はほとんどが非魔術師であるため、それらと上手く付き合っていくためでもある。

 元々は魔術師団と取引のある商人であったが、交渉力を中心に能力が評価され、また信頼に値する人物であったため、シュタナートによって登用された。


 以上のシュタナートを含めた7人が魔術師団の最高意思を決定する会合である大導師会の構成員である。

 いずれもがシュタナートから長期に渡って信用があり、非常に高い功績がある面々であり、二千余りの魔術師とその数倍の非魔術師を擁する巨大組織の権力構造の頂点である。

 

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