7発目 サバイバルゲームは日本発祥の遊びである。
サバイバルゲーム。通称サバゲー。
それは、敵味方に分かれてBB弾を発射する様々なエアソフトガンを用いて撃ち合って遊ぶものである。
それら主に20世紀以降の銃による戦争をモチーフにする場合が多いが、これらの遊びが皮肉にも平和主義を掲げている日本で生まれたのだ。
始まりは終戦後30年が経って、遊戯銃が発売されてからだ。そこから実弾銃に近いエアソフトガンが次々と開発され、プレイヤーたちはますます増えていっている。
そしてその遊びは高校や大学などの部活動・サークルの一環としても知られるようになっている。
菫楼学園の入り口にて、
「水泳部に入りませんか~!」
「相撲ではっけよい!」
「テニス部で全国目指しましょう!」
「吹奏楽で一緒に音楽を奏でましょう!」
「野球部!甲子園目指しましょう!」
学校は今、それはそれは激しい部活動勧誘期間の真っ只中である。
「みんな新入生獲得に必死だな〜」
「ギラと鈴村はどこか入りたい部活ってあるの?」
「俺は今回の高校は帰宅部でいくわ」
「俺も中学はラグビー部だったけどやめ...ってギラ今何て言った?」
おっとつい口が。
「別に?何でもない」
「あの・・・私、体験だけやってみたいんだけど一緒に来てくれる?」
「別に構わんが?なあ鈴村」
「はぐらかされた・・・俺も良いぞ。で、どの部活をやりたいんだ?」
「あれなんだけど...」
原賀が指差した先には、「さばげ部」と書かれた看板をつけた受付ベースがある。その出で立ちはどこもかしこも緑・黒・灰色の迷彩柄になっていて、バックには色んな種類のエアソフトガンがずらりと並んでいる。さらにはサバゲーに必要な装備までもが見えるようになっている。
「あそこは店でも構えてるつもりなのか?」
「いかにもやり込んでます感がダダ漏れだな。やってみたいのか原賀?」
「受付はともかく、サバゲーは一度やってみたかったの」
「そっか・・・・」
とりあえず行ってみることにした。受付まで来ると
「ようこそ地獄の入り口へ!」
グリーンベレーの格好をした部員らしき上級生が奥から出てきた。
「「「特殊部隊か機織り職人のどっちかにしないの!?」」」
3人一斉にツッコんだ。そりゃ今のセリフが出たらしゃーない。
「はっはっは。いいツッコミをありがとう!3人共、体験入部しに来たのか?」
「はい、そうです」と俺が代表して答えた。
「おお!それはちょうど良いな。ついさっき同じく体験入部したいって子が来てこれから1ゲームやろうとしてたところだ」
「え!?実戦できるんですか?体験なのに?」と少し驚く原賀。
「できるぞ。うちの部活は本格的でな。サバゲーができるスペースもちゃんとあるんだ」
そう聞いて原賀は少し不安な表情で俺に耳打ちをしてきた。
「どうしよう・・・・本気で部活に入れられたら」
「別に入っても良いんじゃないか?」
「生半可な気持ちでは入りたくないよ!」
「そんなことは普通しないから大丈夫だって」
とりあえず体験するということで、もう一人の体験入部者がいる実戦場まで行くことになった。
実戦場は小規模の森だった。「サバゲー用」と書かれた看板がかかったフェンスによって囲まれている。俺たちが向かっている先でフェンスの入り口らしきところには5人の男女が集まっているのが見える。
「宮川先輩ー!準備できましたよー。後ろの3人も体験入部ですか?」
「ああそうだ。だからこの子らにも装備させるぞ。浅川、男子の方を。本田は女子の方を頼む」
「「了解ー」」
俺と鈴村は浅川と呼ばれた3年生に入り口付近にある更衣室に案内されて、中で迷彩服に着替え始めた。
「なあギラ。体育の時も気になってたけど、お前結構マッスル野郎だよな」
「おいおい、口が悪いぞ~。大体お前だって筋肉質な上にデカいじゃねぇか」
俺なんか前世だったら今頃だと腹筋割れてもいなければ特別筋肉質でもなかったからな。
「着替え終わったら、そこに並べてある武器、どれにするか決めてね。あと無線機にゴーグルも忘れないように」
浅川さんの指した先には、テーブルの上に色んなエアソフトガンが置かれていた。
「おお・・・・これスゲーな。あのー、もっとデカい武器ってないんですか?」
「おい鈴村、お前年齢制限を知らねえのか?」
「年齢制限?そんなのあるのか?」
「それなりにでかいエアソフトガンは18歳以上じゃなきゃ使えないんだよ。だから俺たちが使える武器はここにあるのぐらいだけだ」
銃規制の現状は日本ではまだ変化はない。今後変わる兆しはないとも限らないが。
「君、意外と知ってるんだね。経験者?」
「いえ、ただ知ってただけで、サバゲー自体は初めてなんで...ん?」
話しながらいくつか武器見渡していたら、見慣れたものがそこにあった。
「俺はこのマシンガンにしよ。どうした?ギラ」
俺はそれを手にして、ニヤけながら話した。
「M19コンバットマグナム。意外ですね、これがあるなんて」
「部長の趣味でね。気に入った銃は全部、部に提供して置いてあるんだ」
「良い趣向をお持ちで。よし、俺はこいつにする」
「いいのか?もっとデカいのが他にもあるのに」と鈴村は言うが構わない。
「今日はガンマンになりたい気分でね」
俺はマグナムとBB弾を持って外に出た。
「はっはっは、傑作!なあ、君の友達結構言うねぇ」
「あいつ次元大介かよ」
二人のそんなやりとりを背に。
外ではさっきのグリーンベレーな宮川先輩が他の部員たちと一緒にいた。そしてちょうど女子更衣室からは装備を済ませた原賀が出てきた。
「お待たせー。あれ?ギラそれを選んだの?てっきりマシンガン持つのかと思った」
「そうなんだよ。こいつ今日はガンマンになりたい気分なんだってよ」と遅れてきた鈴村が付け加えてきた。
「うーん、ガンマンは良いとしてオートマチック系でも良かったんじゃない?私のこれみたいに」
「うるせー、俺はリボルバーが好きなんだよ!」
「「まんま次元大介じゃねえか!」」
「はいはいコントはそこまで!とりあえず自己紹介から始めようか。改めまして、部長の宮川隼人だ。よろしく!」
コント言うな。
「副部長の本田詩織です。よろしく!」
「3年の浅川虎助だ。よろしく」
「2年の篠崎啓子。よろしく」
「同じく草加部義弘です。よろしく」
「これが我らサバゲ部のメンバー5人だ。じゃあ今度は体験入部者たちに自己紹介をしてもらおうか!4人とも並んで」
俺と原賀、鈴村でもう一人には小柄で青いマフラーを首に巻いた茶髪女子がいた。
「じゃあ俺から。杉田ギラです。今日は本当によろしくお願いします!」
「鈴村剛です。よろしくお願いします」
「原賀唯です。よろしくお願いします」
「細川巴です。よろしくお願いします」
「よーし良いよ良いよ!みんなよろしく!さて、装備はどんなかな?」
「男子の方は、ヘッケラーとマグナムを選んでます」
「おお!君、マグナムを選ぶとは珍しいね!俺もここに入部する時にそれを選んでたよ。で、ゲームですぐ負けてたけど」
どうやら部長さんは昔は拳銃で、今は見たところサブマシンガンでゲームをしているようだ。
「女子の方はどうだ?」
「ベレッタとUZIです」
「へー君、小柄な割には大きい方を選んだね」
「あるならこれにするって決めてたので」
「なるほど、お気に入りだったか。さて、どうチームを分けようか」
「部長、とりあえず体験者だけで分けましょう」
「そうだな。よし、グーパーで分かれてみて」
一旦、4人で円になって、
「それじゃ、やりますか」
「「「「グーパーで別れましょ!」」」」
結果、原賀は鈴村と一緒になったが、俺と組めなかったことが悔しくてちょこっとだけ不機嫌みたいだ。俺は細川と一緒になった。
「細川さ~ん。私と代わってくれないかな~なんて」
「おい原賀、見苦しいぞ、いくらギラと組めなかったからって」
「だってー・・・」
乙女心は複雑だな。
「決まったようだな。よしサバゲーのルールと試合での役割を説明するよー。今回の試合形式はフラッグ戦だ」
“フラッグ戦”。
同数のチームに分かれて、撃ち合いながらそれぞれの陣地に置かれた目標である旗を奪い合うという
形式だ。制限時間内に一方がとればそっちのチームの勝ちとなるが、時間内に終わらなかった場合は、生き残ったプレイヤーの数が多いチームが勝ちになる。
「チームを勝利に導くには自分のポジションを決めていくのがとても重要なんだ。アタッカー、タクティカル、ディフェンダー、スナイパーの四つだ」
「アタッカーは前衛戦を主にするポジションだ。役割の中でも特に動き回ることが多い。タクティカルは敵の錯乱・仲間へのサポートが仕事だ。これは頭を使うテクニックが必要とされている。ディフェンダーは自分の陣地のフラグを守りつつ、後方支援をするポジションである。そしてスナイパーは身を潜めて遠くにいる相手を遠距離射撃をして攻撃したり、後ろからこっそりと忍び寄って相手を攻撃したりする隠密行動をするポジションだ」
「さあ2チームに分かれて、ポジション決めてスタートしましょう!」
チームは俺と細川、宮川、篠崎のAチームと原賀、鈴村、本田、浅川のBチームに分かれて、草加部は審判役を担当することになった。
みんな自分の陣地に集合してポジション決めを始めた。
「じゃあ自分ならどのポジションが合ってる思う?」
「すみません部長。いいですか?」
同じ体験者の細川がなにやら言いたげみたいだ。
「何かな細川さん」
「私に良い考えがあります!」
・・・どっかのキューなトランスフォーマーを思い出すな…。
私たちのポジションは決まった。まず本田先輩はスナイパー、浅川先輩はタクティカル、鈴村はディフェンダー、そして自分はアタッカーになった。
「いい?みんな。ゾンビ行為だけはやめてね。弾に当たったと思ったら必ず周りに聞こえるように『ヒット!』って叫んでね」
「サバゲーの根底はみんなで楽しくやることだ。他のプレイヤーが不快になるような行為はマナー違反だからね」
「それにリアルじゃそんなの通用しないしね。人類皆ターミネーターじゃないし、ましてやアイアンマンスーツを着ているわけじゃないから。撃たれたら最後!」
説得力あるわー。そしてちょうどその時、ゲーム開始のブザーが鳴った。
『よーし、じゃあ始めるよ。原賀さん、浅川、前進して』
「「了解」」
言われた通りに浅川先輩と共に茂みの中をゆっくりと前進を始めた。
『さて、相手はどこにいるか』
プスッ。
『な!?』
『本田先輩?どうしました?』
『あー・・・・ヒット!もう撃たれた・・・・・』
『『「え!?」』』
いや、早すぎじゃ…
『まだ開始30秒も経ってないぞ。そんなこと・・・・うわっ!!』
次の瞬間、浅川先輩に方からザザッと音が聞こえた。
タタタタタッ。
あ、やられちゃった。
「ヒット!」と先輩も叫んだ。
そしたら、先輩が叫んだ方向からザザザザっと音を立てて物凄い速さでこっちに何かがきた。それには恐怖をも覚えるくらいだ。
「うわっこっち来た!」
『落ち着け原賀!とにかく撃つんだ!』
鈴村の無線を通した呼びかけでなんとか迎え撃つ準備ができたが、次の瞬間、目の前の茂みからを装備服の上に青いマフラーを巻いた敵が出てきた。
細川さんだった。
なんと彼女は自身の小柄な体系に対してかなり大きいはずのUZIを片手で軽々と持っていた。
私は狙いを定めて細川さんを撃った。着替えの時に練習もしたから、照準にブレもなかった。それでも細川さんはそのBB弾を紙一重に左に避けつつ、右から左へと弧を描くように動かしながらUZIを撃ってきた。
タタタタタッ!
(おいおいおいおい。原賀までやられたのか?)
「…ヒット…」
(まじかよ。もう俺一人じゃん!)
今目の前にあるフラグを守るのが俺の役目なのだが、自分以外味方がいないなんていう状況をどうすればいいのだろう。今のところ、誰も来てはいないみたいだが。
ザッ。
突然、後ろから妙な音が。振り向くと、
「Hero there.(やあ。)」
マグナムを構えたギラがいた。
パシュッ。
俺のおでこにクリティカルヒット。
「お前どっから出てきたんだ!?あ…ヒット!」
ギラはフラグを取ると、すぐ隣にあった木を指さして答えた。
「木を伝ってきた」
「お前忍者かよ!!」
「どっちかっていうとプレデターのつもりだったんだけどな」
「いや分かんねえよ!!」
『えー、ゲーム終了ー。Aチームの勝利です・・・』
草加部先輩の拍子抜けしたアナウンスと共に、5分も掛からず試合が終了した。
「いやいやいや、早過ぎでしょう…」
「おいギラ!いくらなんでも本気出し過ぎだぞ」
「いや、ほとんど倒したのは細川だろ?俺はフラグを取りに行っただけだぞ」
「嘘つけ!ノリノリで英語喋ってただろ!」
ただいま男子で試合後のシャワー中である。
「はっはっはっは。いや~驚いたなぁ。まさか木を伝って敵の陣地に行くとはなぁ。それに細川っていう子もあんなに速いとは思わなかったよ。しかも賢いよな、相手の司令塔を最初に倒すなんて」
「あの子も君も、経験者じゃないのになんで強いの?」
「俺は…色々訳ありなんで…」
本当に色々とな。
シャワーを終えて外に出るとそこは休憩室になっていて、壁際にある長椅子に細川が座っていた。髪を乾かすためにいるようだ。俺もそのつもりで同じ長椅子に座った。
20秒程の沈黙の末、俺が細川に話しかけた。
「で、なんでお前ここに居んの?」
「それ、こっちのセリフなんだけどギラ」
ずっと言わなかったが、俺と細川巴は顔見知りだ。
その昔、ヨーロッパのとある町中でのマフィア同士の抗争。その中で縦横無尽に闊歩しながら、マフィア達に2丁のUZIを撃ちまくっている少女の影がある。他にもその少女と協力しながら戦っている影がいくつかあるが、その中で特に目立ち、少女以上に暴れている白いあのアーマースーツを着た者もいた。
「お前の実家って、埼玉じゃなかったか?」
「そうだけど、どうせなら東京の学校って考えて、今ペティと一緒に近くのアパートに住んでて、そこから通学してるの」
「そっか・・・・いや待て、ペティだって? あいつこっちに来てるのか?」
「来てるどころか他の学校に入学してるよ。おやっさんのコネで」
「LUMEで教えてくれよ、それくらい・・・・・」
寂しいな、まったく。
「そっちだって色々なことが起きてるじゃない。初登校の翌日に大暴れして男女の二人を助けて、校内にいる生徒達にそれを見られて噂になって、そして次には美少女二人に告白されて、どちらとも断ったにも関わらず、その二人と仲良くしてるなんて」
「言葉に刺があるようで嫌だな。だが否定もできないからさらに困る・・・」
「私が怒ってるのは、ギラがまだ"引きずってる"ってこと!」
「・・・・・バレてたか?」
「当然。女の勘ってやつだからね」
「・・・まあいい。俺はまだしばらく誰とも付き合わないからな。誰の告白も受けない」
「・・・そう。改めて“ペティ"も、"彼女"もショック受けたね。今の全部聞かれてたの知ってた?」
「うん。知ってるー」
「「!?」」
俺が『LUMEで教えてくれよ』と言ったあたりから片隅で立ち聞きをしていた鈴村と原賀、そしてさばげ部の皆さんがバレてたことにびっくりした。
「ちょっとギラ!細川さん知り合いなら最初から何で言わなかったの?」
「お前ら一体どういう関係なんだ?まさか・・・、元彼氏彼女なのか?」
さっそく質問攻めに遭う俺と細川。
「いや~・・・なんというか〜」
「ちょっと言い辛いんだけど・・・」
「お?お?なんなんだ。もしかして実は身体の関係までイった仲か?」
「部長。今度部長のお気に入りの銃、売っちゃいますよ」
「ごめん。まじでやめて」
さばげ部までもが面倒くさいノリになってきた。
「部長さん、からかいは良くないですよ。それに俺は童貞なんで」と堂々と発言する俺。
「はっきり言うなよ」とツッコミ鈴村君。
「じゃあどういう関係なんだ?」
改めて聞いてきた宮川先輩に、俺と細川は口を揃えて答えた。
「「昔、お互いを殺りあった仲です」」
「「へ!?」」
一瞬その場の空気が凍った。まあ当然だが。
「それってどういう事?」
「さあこの話は終わりだ。本日の体験入部、ありがとうございました。それでは失礼!」
「ありがとうございました!失礼します!」
俺と細川はこれ以上聞かれまいとスタコラサッサと逃げた。
「あ、おい待てよギラ!ありがとうございました!失礼します!」
「では私も失礼します!待ってよギラー!」
休憩室を立ち去る4人の背中を見送りながら、宮川部長がつぶやいた。
「青春だなぁ…」
「いや明らかに青春じゃない物騒な言葉が出てたけど!?」
コンバットマグナムM19と言えば、故モンキー・パンチ先生作の漫画「ルパン三世」の早撃ちガンマンキャラクターこと次元大介の愛銃ですよね、ここで個人的な感想ですが、アニメでのマグナムの発砲音いくつか変わったりしてますが、自分はTVスペシャル「お宝返却大作戦」などの頃に使われていた発砲音が好きです!
ちなみに主人公・ルパン三世の愛銃ワルサーP38の発砲音も、同時期に使われていた音が好きです!