8発目 短い話、映画のワンシーンでも重要なところはしっかり見ておくように。
あたし、北野奈々は月に一度、滋賀と京都をまたがる山、比叡山の延暦寺に行く。
観光目的ではない。そこにいる知り合いに会うためである。ついでにそこでやりたいこともあるからである。
延暦寺に行くのに新幹線では行かない。“歩き”で行く。端から見れば忍者ジャンプしているように見えるけど。あたしの生来の身体能力をもってすれば、東京から京都まで新幹線で2時間とちょっとのところ、スーパージャンプで1時間に短縮できる。今日はその日であり今まさに延暦寺に向かっているところだ。
延暦寺にいる知り合いとは、実は1300年以上も続いている関係で、あたしの曾祖母が東京に出てから離れ離れになってもこうして会いに行くほどである。あたしも寺にいるおじいさんとは仲が良く、この習慣が毎月の楽しみである。
比叡山に入り、延暦寺が見えるところまで来ると、根本中堂の入口前に人影が見える。その入口前に向かってジャンプしてよく見ると、人影が二つあることに気付いた。1人は知り合いのじいさんだが、もう1人はここにいるはずのない人物だった。入口前に着地すると、さっそくその人に質問した。
「ギラ!?何でここにいるの?」
ギラは振り向きざまに、
「北野、お前だって何でここに?」
「ん?会わせようと思っとったが、2人とも知り合いか?」
「おい、泰じい!まさかずっと会わせてやりたいって言ってた女の子って、彼女のことだったのか?」
「じいちゃん!ギラと知り合いだったならなんで言わなかったんだ?」
「待て待て待て!まずは落ち着いてから話そう?」
そう言われるとギラは少し考えるとあたしの方を見て、
「北野、もしかしてお前って…八瀬童子の末裔か?」
北野は知り合いである泰じいに会うのと、ここでちょっとしたトレーニングをするためにここ延暦寺に毎月来てるんだそうだ。
今、根本中堂のすぐ横にある森でトレーニングをしている北野を見ながら俺は泰じいと会話をしている。
「さすがはギラだ。一発であの子の家系を言い当てるとはな」
「歴史が大好きだからな。あんたが最澄と空海の弟子だった泰範の末裔だからすぐ気付いたよ。最澄が使役してたって言われた鬼“八瀬童子”。まさか本当に存在してその末裔があいつだったとはなー」
「こっちも彼女がよく話してたヒーローってのが君だとはびっくりだ」
「俺がヒーローだって!?あいつそう考えてたのかよ・・・・」
「君は嫌なんだよな。自分がヒーローって呼ばれるのが」
「俺はヒーローって柄じゃないからな。“ただの一兵士”ってのが良いんだよ」
「“ただの一兵士”はオークを殺しまくることなんて普通できない!」
トレーニングしてる北野が一瞬話に入ってきた。
「ギラ。君がしてたことはあまり触れないようにしてきたけど、オークってあのオークか?君そんなものと1年半前まで戦ってたのか?」と不安まじりに聞いてきた。
泰じいには黙ってたのに・・・。
「盛大なネタバレをあっさりとやってくれたもんだな、全くあいつ・・・」
「これ以上は聞かない方が良さそうかな?」
「そうしてくれ。それより北野が履いてるのって、天狗たちの下駄か?」
「そうだ。あの子、鞍馬山の天狗たちとも知り合いでね。貰ったそうなんだ。あの下駄を履いた上でバランスをうまく取りながら素早く移動できるようになりたいそうだ」
「“あいつら”とねぇ・・・・。向上心は結構だが、何で今更そんなトレーニングしてるんだあいつ?」
「今までは力任せで雑な動きばっかだったからもっと機動力を付けたいんだそうだ」
「今も十分強いのに...」
一体何と戦う気でいるんだか。と、そこへ北野がしゅたっと着地してきた。
「それでもギラには負けた」
「・・・まさかお前、俺に勝つためにトレーニングしてるのか?」
「強いあたしを見せてギラを惚れさせる。それがあたしの今の目標」
「だそうだギラ。どうする?毎度毎度、罪作りな男め〜」とニヤつく泰じい。
ここぞとばかりにイジりやがって・・・。あと、北野は本当に脳筋だな。
「お前が強いからって、俺がお前に惚れるとは限らないぞ」
「じゃあわしが寝床を用意してやろうか?大人の」
「「その階段はまだ早いだろ!!」」
さすがにそこは意見が一致した。と思ったら、
「いや、待てよ。原賀に勝つにはそれが良いのか?」
「おい、揺らいでんじゃねえよ。既成事実はお断りだぞ」
「何だギラ。奈々ちゃんに何の魅力も感じないとでも言うのか?」
「それとこれとは話が違うだろ!あと抱きたい!ってくらい魅力はちゃんと感じてるからな!」
「そ、そうなのか。嬉しいな…ありがとう」
恥ずかしながらもお礼を言う北野。またこれが可愛い。
「それじゃ、俺もう用は済んだから帰るわ」
「ああ、親父さんと茶じいによろしくな」
「了解-」
さっさとここから去らなければ。
「ん?じいさん。さっきギラのことを“毎度毎度、罪作りな男”って言ってたよね?」
「そうだが?他にもギラに好意を持ってる子がたくさんいるの知らないのか?」
「・・・あたしが知ってるのは1人だけど?」
全力でその場を逃げ出す俺。
「あ!ちょっとギラ!!」
「逃げるんだよォ!!」
「じいさん。あたしはギラに好意を持っている女の子はクラスメイトだけだって思ってた。でも他にもいるならそれって何人?」
「さあ・・・わしが知る限りでは2人いるはずだが…」
「・・・床入りしとけば良かったな」
おっとわし余計なこと言ってしまったな、これは。
「作戦立てる必要があるな。じいさん、悪いけどもうあたし帰るわ」
そう言って奈々はスーパージャンプして帰っていった。
「あいつ、“生まれ変わり”のことを話してないのか?」




