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嘘つき

「今となってはお恥ずかしい話です」

 父は陛下を真っ直ぐ見つめ、微笑む。「私はあの戦乱の中、子供を拾いました。死体だらけの草原や森の中、イスガルドに戻る途中のことです。死体の下に隠れて、赤ん坊が泣いているのが聞こえて、捨てておくこともできず、連れて帰りました。その赤ん坊を自分の家に置いて、陛下にリグローに関することの報告に向かいました。門番が殺されたことや、子供たちについてです」

「ああ、そう言えばあの時」

 陛下が何か思い出したように口を開く。「妻がお前のことを気にしていたようだったから――」

「私が報告し終わった後、昔、何かあったのか、と陛下はおっしゃいました。噂になっている、と」

 父がそこで眉間に皺を寄せた。

 国王陛下はそんな父を見つめながら、小さく言う。

「多分、噂は噂であろうと思ってはいた。ただ、良からぬ噂は消さねばならんとも考えた」

「事実ではなくても、疑いがあるだけで首が飛ぶ時代でした。だから、私は保身のために言いました。『事実無根です。私には妻も子供もいます』と」

 僅かな沈黙。

 やがて陛下は小さく唸る。

 父は笑いながら頭を掻く。

「妻なんていたのか、と訊かれ、あの戦禍の中で妻は死んだ、と嘘をつきました。そうしたら、陛下に酷く同情されて……後戻りできなくなったというか」

「馬鹿なの?」

 突然、ジーンが冷ややかに口を挟んだ。父は何とも情けない顔で頷き、こう続けた。

「後になって王妃様も同じことをおっしゃいました。下手な嘘だ、と」

「でしょうね」

「でも、とりあえず自分の首はつながりました。そして、赤ん坊は自分の子供として育てることにしたのです」


 それが、僕。


 父は色々語る。

 僕の身体に『印』はなく、普通の人間であったこと。

 陛下からの任務を受けて国を出る時は、僕の素性を調べることも平行して進めていたこと。

 しかし、何の手がかりもなかったこと。

「あの時は、本当に何もかもが混乱していました」

 父は言う。「たくさんの孤児がいましたし、たくさんの死者が出ていた。私は何も疑問には感じませんでした」

「では、ガラムの子供であるということは」

 陛下が僅かに疑惑に満ちた声を上げた。

「知りませんでした。だから、今まで普通の人間として育ててきたのです」

 父の声に迷いはなかった。

 陛下は深いため息をつき、やがて頷いた。

「嘘が上手い男というのは厄介だ。しかし、信用するしかあるまい」

「……ありがとうございます」

 父が礼儀正しく頭を下げる。そして顔を上げた時には、その表情を引き締めていた。

「では、そろそろ出発の準備をさせていただけますか? 武器を家に取りに戻りたいですし、馬が必要です」

「馬は準備させよう。必要なものは何でも持っていくといい」

 陛下はそう言うと、部屋を出て召使いを呼んだ。


「父さん」

 続いて部屋を出ようとする父を引き止めてから、僕は少しだけ唇を噛んだ。

 何て言えばいいんだろう。何から話せばいいんだろう。

 父さんは、『父』ではなかった。

 僕は、人間ではなかった。


 ――受け入れられない。


 ずっと家族だと思っていた。疑うことなんてなかった。

 今さら家族じゃないとか、血がつながってないとか、そんなことを言われてもどうしたらいい?


「こんなことになると解ってたら、もう少しお前に剣を教えておいたのに」

 ふと、父が僕の髪の毛を乱暴に掻き回した。

 その口調も笑い方も、いつもの父と変わらない。

「お前には危険な仕事についてもらいたくなくてな。関わらせたくなかったんだよなあ」

「あのさ、父さんは、父さんだよね」

 僕は必死に言葉を探した。「僕は父さんの息子でいていいんだよね」

「何だそりゃ」

 父は呆れたように笑った。「息子以外にないだろ。諦めろ」

「諦めろって……」

 どういう意味だ。

 僕がさらに口を開こうとした時、後ろからジーンの声が響いた。

「そこの門番!」

 気がつけば、僕のすぐ後ろには門番が立っている。その位置が近くて、僕は振り向いた瞬間に驚きの声を上げた。

「あなた、まさかその格好で一緒にいこうっていうんじゃないわよね」

 ジーンは僅かに不機嫌そうだった。

 門番は反応が薄い。視線は僕に向けられたままで、ジーンに与えられたマントで身体を包んでいる状態。髪の毛はボサボサだし、見た目からしても『女性』と呼ぶには抵抗がある。

「そんな変な格好で一緒に移動されても困るのよ! とりあえず湯浴みと着替え!」

 ジーンの口調は乱暴だが、だんだん楽しそうな響きを帯びてきた。「あなた、人型の時は美人なんだから、ちゃんとした格好をすべきよ! 私、磨き甲斐のある子は好きなのよね! その髪の毛も切って、超絶の美女に仕立ててあげるわ!」

 何か目的を間違ってないだろうか。

 僕は眉根を寄せてジーンを見つめていると、急に彼は僕の腕を掴んで歩き出した。

「ちょ、僕は関係ないですけど!」

 慌てて叫んだが、ジーンの手は緩まなかった。「関係あるに決まってるでしょ! 門番はあなたのそばでしか人型になれないのよ」

「え?」

「だからあなたもいらっしゃい! あなたの怪我の手当てもしてあげるし、その腕を隠す装甲か何かも準備しないと!」

 腕を引かれて歩きながら振り向くと、門番は僕の後を追うようについてきている。

 父はその手を軽く振りながら、僕とは違う方向に歩き出していた。

「終わったら家にこいよ」

 緊迫感のない父の声。

 そして、イリアスとラースは所在なさげに立ち尽くしていた。

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