第25話 サスライ草の男
「ケンチ、神が太っ腹で助かった。光量の調整が可能になったのだ。全点灯から2段階の中点灯、さらに豆球と消灯までいける」
マーちゃんと出会って16日目の今朝のこと、俺たちは新しい能力を授かった。俺は色々と便利な『鑑定』を授かったのだが、マーちゃんは縮んで小さい翼が生えてきたのである。
それに伴いうちのLED照明姉さんは、とうとう殴打の光について光量の調整が可能になったようだった。しかも調整段階が意外に細かいのだ。
従来の光量が12畳の室内用にほぼ等しかったことが関係しているのかもしれないし、またはもっと別の意図があるのかもしれないが、取りあえずはマーちゃんの希望が通ったことを素直に喜びたい。
「マーちゃん、良かったじゃねえか。これで完全に隠れることも出来るぜ。それによ、頭の輪っかと同じで、その羽根だって何かの力を持ってるかもしれねえ」
「言われてみればそうだな。身体も尻尾も50センチになってしまったし、鳥の翼が生えてきたのは意外だったが、新しい効果があるのかもしれん」
マーちゃんは40センチほどの翼をはためかせて、しばらく東屋の屋根の下を飛んでいたが、俺の頭から背中にかけて着地するといつものように尻尾を俺の肩に回して止まった。
「この体勢の時には、こちらの大きさの方が収まりが良いな。それにこの翼の能力はケンチと同じで鑑定のようだぞ。妙な情報が視界に入ってきた」
どうやらマーちゃんも俺と同じ鑑定の能力を授かったらしい。
「それじゃ今度は歴史書と図鑑を買わねえとだな。そんぐれえの金はあるしよ、街に帰ったら今度こそ書店へ直行しようぜ」
俺は田舎で師匠に勉強を教わったが、必要な知識は日記と頭の中で、本などは高いこともあって持っていなかった。
「俺もちょっと試してみるか。お世話になってるカマクラが丁度いいかもな」
普段寝泊まりしているカマクラハウスに向けて新しく得た鑑定を試してみた。
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●個人用防爆トーチカ『気楽イン』
マンマデヒクの作った個人用掩壕。
寝室、風呂、トイレ、洗濯機がある。
最近では洗濯機が使用されていない。
浴槽はジェットバス。
転送系の給排水機構を装備。移動可。
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視界の中には、唐突に四角く囲まれた情報が表示された。内容は俺の知っていることだけではなく、使用状況も反映されているようだった。
そして、あれはカマクラ状の住居ではなく防御施設であったらしい。窓が無くて当たり前だ。
「何か、色々と知らなくていいようなことも知っちまったけどよ、とにかくこいつは使える能力らしいってこたぁ分かったぜ」
俺はそう言って、頭上にいるうちのニュートカゲ姉さんのボディを指で軽く叩いた。
「これは山で探し物をするのに便利な能力なのだろうな。ところで、同じような能力持ちなら鉱脈の探索は楽ではないのか?」
喜ぶ俺に対して、マーちゃんからはいつものように的確な質問が飛んできた。
「これは聞いた話なんだがよ、露出してる部分じゃねえと分からねえらしいぜ。あとはどんぐれえ掘れるかも分からねえそうだ」
「何事も都合よく行かないということか。それなら表面から適当に削っていくか。今日は岩石類で良いからサンプルを持っていきたいのだ。普通の石も良い物だぞ」
うちの石マニア姉さんは、今日も前向きで機嫌が良さそうだ。
鑑定に関しては鍛え方次第な面もある。与えられる能力は奇跡の力だが、それは自己鍛練を否定するものではなく、むしろ使える力ほど研鑽が必要だった。
そんな感じで、今朝もアイテムボックスから外へ出てきた俺たちは、低木や草が生い茂る山道を抜け岩にまみれた場所へと移動を続けた。
山の天気は崩れておらず、こちらの世界はフロアと違って雲も無いので助かった。
俺はいつもの装備にマスクをして、マーちゃんを頭に乗せて歩いていた。うちの天使風トカゲ姉さんは隠れずそのままだ。
このまま半刻(1時間)も歩けば目的の場所も見えてくるだろうと思った時、前方の状況に変化が起きた。蚊柱の様な何かが見えてきたのだ。
「前方に小さい生命反応が多数だ。鑑定では『サスライ草』と出てきたな。山にもまれに出るそうだ。あれに取りつかれた子供の集団が森に消える話が教科書に書いてあった。久しぶりに会う人との会話でだ」
国に対しては、つらい記憶を抱えた者同士の再会を教科書に載せるなと言いたいが、発刊後100年も経過しているので手遅れであるに違いない。
それよりも急に現れた『サスライ草』の対処をしなければ、俺も教科書の子供達と同じ運命を辿るだろう。
「嫌な感じだぜ。あれが噂のダレランデスの能力ってこたぁねえだろうな。奴に移植されたなぁ『サスライ草』だったよな?」
被験体第2グループの最後の一人であるダレランデスは、サスライ草を飛ばして取りついた相手を操るという厄介な能力を有しているとのことだった。
肝心のサスライ草だが、こいつらは昆虫の様な羽根を持った植物なのだ。
通常は5センチぐらいの大きさのこいつらは、自力飛行で生物に取りつくとそこから養分を吸いながら、適当な場所まで生物を誘導するという危険な性質を持っていた。
ダレランデスの能力は相手を誘導する部分を強化することに成功したのだろう。
「ふむ、草が相手なら黒子さんの出番だ。貴重な生体サンプルは回収させてもらわなければな。小型飛翔植物回収用キットを使用してみよう」
ここで、うちのタンポポ集める姉さんから頼もしい台詞が出てきた。流石だ。
その直後、ジャージにエプロン姿の黒子さん達が出てきたのだが、銀色の円筒形容器を脇に抱えたまま前方の大きい蚊柱に突撃したのは驚いた。
「流石は黒子さんだぜ。あの円筒に全部が吸い込まれてるみてえだが、あいつら逃げねえな。考えたかねえが、あれはダレランデスが出したもんかもしれねえぜ」
黒子さん達の抱える直径60センチほどの円筒は、先端のフタを開くと飛んでいるサスライ草の集団を吸い込み始めたのだ。
「そうかもしれん。男が近くに倒れているようだぞ。私の見たところでは栄養不足と脱水のようだが、あれはダレランデス氏ではないだろうな?」
黒子さんが、羽根の様な葉と根の付いた球根状のサスライ草を回収した後、そこには男がぶっ倒れていた。
黒く短いカールした髪を持つ男は、簡素な上着やズボンを履いていたが手荷物が無い。しかも上着の裾から葉のついた緑色の太い管が4本も出ていた。
目の前の行き倒れが、聞いていたブラバスタ・ゲシュジェイム・ダレランデスの特徴とそっくりな事について俺はげんなりした。
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