第35話 選べと言われたが、選択肢に自由はなかった
その呼び出しは、
予定表に書かれていなかった。
「ノア・エルディン」
管理担当の女性が、
いつもより改まった声で言う。
「上の判断が出た」
「……決まったんですか」
「いいえ」
即答だった。
「決める前段階よ」
その言い方が、
妙に引っかかる。
通されたのは、
これまで使われていなかった
小会議室。
中にいたのは三人。
調停局の男。
研究院の女性。
そして、騎士団の士官。
全員、
俺を“評価しない目”で見ている。
調停局の男が、
口を開いた。
「ノア・エルディン」
「君には、
選択肢がある」
そう言われて、
胸が少しだけ軽くなる。
だが。
「ただし」
すぐに続いた。
「どれも、
完全な自由ではない」
やっぱりか。
「一つ目」
男は、
淡々と読み上げる。
「――現状維持」
「管理施設に留まり、
同行任務を続ける」
「ただし、
活動範囲はさらに制限される」
俺は、
黙って聞く。
これまでと、
ほぼ同じだ。
「二つ目」
「――隔離観測」
言葉が、
少し重くなる。
「外部との接触を断つ」
「生活環境は保証する」
「だが、
任務への同行はなくなる」
それは、
“使わない”選択肢だ。
「三つ目」
騎士団の士官が、
続ける。
「――条件付き協力」
「同行は続ける」
「ただし、
指揮権・決定権は一切与えない」
「発言は、
求められた場合のみ」
俺は、
少しだけ考える。
(……どれも、
選ばされてるな)
「期限は?」
聞くと、
研究院の女性が答えた。
「ない」
「だが、
永遠でもない」
それは、
一番嫌な言い方だった。
「今すぐ決めろ、
というわけではない」
調停局の男が言う。
「だが、
考えておいてほしい」
「……理由は?」
思わず、
聞いてしまう。
男は、
少しだけ言葉を選んだ。
「このままでは、
君の扱いが
“誰にも決められない”からだ」
それは、
率直すぎる理由だった。
会話は、
それで終わった。
部屋を出ると、
管理担当の女性が
待っていた。
「……どう思う?」
聞かれて、
すぐには答えられない。
「どれも、
楽じゃないですね」
「ええ」
彼女は、
あっさり認めた。
「でも」
一拍。
「選ばないまま、
選ばれるよりは
いい」
その言葉が、
胸に残る。
部屋に戻る。
ベッドに腰掛け、
天井を見る。
(……自由、
って何だっけな)
学園にいた頃、
自由はあった。
無能扱いされていたが、
少なくとも、
自分で動けた。
今は、
違う。
選択肢はある。
だが、
どれも
“用意された道”だ。
(……すぐには、
決められない)
それだけは、
はっきりしていた。
俺は、
書類に目を落とす。
選択肢の欄は、
まだ空白のままだ。
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