第34話 決まらないままの日々は、意外と人を慣らす
朝。管理施設の鐘が鳴る。決まった時間。決まった音。
俺は、それに合わせて起きるようになっていた。
(……慣れたな)
良い意味か、悪い意味かは分からない。顔を洗い、簡単な朝食を取る。
同行任務がある日は外へ。ない日は、施設内で待機。
どちらにしても、説明はない。ただ、予定表だけが更新される。
この日も、午前は空白だった。
「……今日は、ないのか」
呟いてから、少しだけ胸が軽くなる。理由を考えて、すぐにやめた。
考えても、分からない。昼前。廊下で、管理担当の女性とすれ違う。
「おはよう」
「おはようございます」
それだけ。以前より、会話が減った。減った、というより――
必要以上に踏み込まれない。それが、この場所のルールらしい。
昼食後。中庭に出る。ここは、魔力の流れが穏やかだ。いつも、整っている。
(……ここも、俺が来てから変わったんだろうか)
考えかけて、首を振る。分からないことを、無理に繋げる必要はない。
午後。書類整理の手伝いを頼まれた。雑用。久しぶりだ。
「助かる」
担当者が、事務的に言う。それで十分だった。
(……こういうので、いいんだよな)
評価も、期待も、責任もない。ただ、与えられたことをやる。
夕方。予定表が更新される。明日:同行任務(未定)
「……未定、って」
苦笑する。未定のまま、続いている。
夜。部屋で、書類を眺める。自分の名前が入った欄は、どれも曖昧だ。
役割:補助備考:状況次第
(……状況次第、ね)
この生活に、慣れてきた自分がいる。それが、一番怖い。
学園にいた頃、俺は“無能”だった。ここでは、“保留”。
どちらも、決められていない。だが。
“保留”の方が、長引くと厄介だ。
(……決めてほしい、わけじゃない)
(でも、このままってのも――)
思考が、そこで止まる。結論は、いつも同じだ。俺には、決める材料がない。
窓の外。夜風が、静かに流れている。魔力の流れも、安定している。
あまりに、穏やかだ。この穏やかさが、何かを先送りにしていると
感じてしまうのは――慣れたせいだろうか。
ベッドに横になる。目を閉じる。明日も、同じような一日だろう。
そう思えることが、もう普通になっていた。
宙ぶらりんな時間にも、ちゃんと生活はあります。
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