第33話 国家は、結論を出さないという結論を選んだ
王都・中央庁舎。
非公開会議室に集められたのは、
いつもより少ない人数だった。
だが、
顔ぶれは重い。
王国調停官。
騎士団参謀。
結界管理局代表。
研究院主任。
机の中央に置かれているのは、
一枚の簡潔な資料。
ノア・エルディン
観測記録(第2次)
「……確認は済んでいるな」
調停官が、口を開いた。
「四度の同行任務」
「魔獣交戦、ゼロ」
「配置を外した場合のみ、
小規模接触を確認」
騎士団参謀が、
低く息を吐く。
「再現性は、
十分だろう」
「だが」
研究院主任が、
慎重に続ける。
「因果関係は、
証明できていない」
「本人に、
自覚がない以上な」
結界管理局代表が、
資料を指で叩く。
「問題は、
そこではない」
「仮に、
彼を“要因”と仮定した場合」
「どの枠に入れる?」
沈黙。
誰も、
すぐには答えない。
調停官が、
ゆっくりと整理する。
「選択肢は三つある」
指を一本立てる。
「一つ。
戦力として扱う」
即座に、
否定が飛んだ。
「論外だ」
騎士団参謀。
「意図せず結果を変える存在を、
戦場に置くのは危険すぎる」
二本目。
「二つ。
災害指定」
研究院主任が、
首を振る。
「基準に合わない」
「本人の意思も、
行動も、
災害とは呼べない」
三本目。
「三つ。
象徴として扱う」
今度は、
誰も言葉を継がなかった。
象徴。
守られ、
祭り上げられ、
利用される存在。
結界管理局代表が、
低く言う。
「……壊れる」
「彼が、
ではない」
「制度がだ」
沈黙が、
さらに深くなる。
調停官は、
しばらく目を閉じてから言った。
「つまり」
「どの案も、
国家側の都合でしかない」
「そして」
「どの案も、
最悪の結果を孕んでいる」
騎士団参謀が、
腕を組む。
「……では、
どうする」
調停官は、
静かに答えた。
「結論を出さない」
一瞬、
誰かが眉を動かす。
「判断を先送りする」
「管理は続ける」
「配置は、
これまで通り“前提”とする」
「だが、
評価はしない」
「名前も、
役職も、
称号も与えない」
研究院主任が、
理解したように頷く。
「曖昧なまま、
置いておく」
「そうだ」
調停官は、
はっきりと言った。
「決められない存在を、
無理に決める方が危険だ」
結界管理局代表が、
一つだけ確認する。
「本人には?」
「伝えない」
「選択肢は、
まだ与えない」
「今は、
知らない方がいい」
騎士団参謀が、
苦々しく笑った。
「……学生だぞ」
「分かっている」
調停官は、
同じ言葉を繰り返す。
「だからこそ、
慎重になる」
会議は、
それ以上進まなかった。
結論は出ない。
だが、
全員が理解していた。
この状態が、
最も安全で、
最も不健全だということを。
その頃。
王都郊外の管理施設で、
一人の少年が
書類に目を通していた。
同行任務予定表。
また、
自分の名前が入っている。
「……忙しくなってきたな」
小さく呟き、
彼は書類を閉じた。
国家が、
結論を出せない存在になっていることを。
彼は、
まだ知らない。
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