第20話 学園は、この生徒を預かれる場所ではなかった
通路の先で、
空気が変わった。
急激ではない。
だが、確実に。
魔力が――
流れなくなった。
「……止まっている?」
感知役の候補生が、
戸惑った声を出す。
「いや……
違う」
副教官が、低く言う。
「均されている」
その言葉に、
誰もすぐには理解できなかった。
だが、
全員が“危険ではない”ことだけは分かる。
揺れない。
歪まない。
反応しない。
異常が、
異常でなくなっている。
(……静かすぎる)
俺は、
足元を確認しながら歩いていた。
特別なことはしていない。
意識もしていない。
ただ、
さっきから嫌な感じがしない。
それが、
一番おかしい。
副教官が、
歩みを止めた。
「……ここだ」
通路の先は、
崩落していた。
だが、
完全な封鎖ではない。
「抜けられる」
副教官は、
即座に判断する。
「一人ずつ行く。
焦るな」
候補生たちは、
黙って従った。
誰も、
前に出ようとしない。
全員が、
“今は慎重であるべきだ”と
理解していた。
俺は、
中央で荷物を受け取り、
一人ずつ受け渡す。
雑用の仕事だ。
それだけ。
全員が、
崩落地点を越えた時。
背後で、
低い振動音がした。
「……っ!」
副教官が、
即座に振り返る。
だが、
崩落は起きない。
音だけ。
まるで――
何かが、
扉を閉めたような音。
副教官は、
数秒だけ黙り込んだ。
「……戻る」
それだけ言った。
誰も反論しない。
戻る、というより――
出る。
出口までの道は、
不思議なほど静かだった。
通路は安定し、
床も崩れない。
魔力の乱れは、
完全に消えている。
(……偶然、だよな)
俺は、
そう思うことにした。
そういうことにしておかないと、
面倒だ。
やがて、
外の光が見えた。
旧監視施設の外。
全員が、
無言で外に出る。
――その瞬間。
端末が、
一斉に鳴った。
「通信、復旧!」
「外と繋がった!」
安堵の息が、
あちこちで漏れる。
副教官は、
すぐに報告を入れた。
「こちら、
調査班」
「重大異常を確認。
内部調査は中断」
「全員、生還」
短い報告。
だが、
端末の向こう側は、
しばらく沈黙した。
――そして。
『……了解した』
低い声。
『その場を動くな。
こちらで判断する』
数分後。
結界の向こうから、
複数の魔力反応が近づいてきた。
学園の支援部隊だ。
だが。
副教官は、
その到着を見ても、
安堵の表情を見せなかった。
「……遅い、
とは言えないな」
誰かが聞いた。
「どういう意味ですか」
副教官は、
施設を振り返る。
「来れなかったんだ」
それだけ。
やがて、
支援部隊が到着する。
彼らは、
まず施設を見て――
次に、俺を見た。
正確には、
俺の周囲を。
副教官が、
静かに言った。
「報告する」
「この任務で、
学園の想定は破綻した」
そして、
はっきりと告げる。
「――この生徒は」
視線が、
俺に集まる。
「学園の枠で
扱える存在ではない」
誰も、
反論しなかった。
俺は、
状況がよく分からないまま、
荷物を下ろす。
(……雑用、
終わったよな?)
それだけが、
頭に浮かんでいた。
だが。
この瞬間で、
学園生活は――
事実上、終わっていた。
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