第21話 調査報告は、結論を出さなかった
王立魔法学園・上級会議室。
普段は使用されないその部屋に、学園長、副学園長、実技主任、支援部隊指揮官、そして――国家監査官が集められていた。
机の中央には、旧監視施設の簡易模型と、数枚の報告書が置かれている。
「では、状況を整理します」
支援部隊指揮官が、淡々と口を開いた。
「旧監視施設内部において、記録にない魔力安定現象を確認」
「調査班は全員、生還」
「施設内部の魔力乱流は、現在“消失”しています」
学園長が、眉をひそめる。
「消失、というのは」
「均されている、と言う方が正確でしょう」
指揮官は、報告書の一文を示す。
「乱れが収束したのではなく、“存在しなくなった”」
室内が、静まる。副学園長が、慎重に言葉を選ぶ。
「……原因は?」
「不明です」
即答だった。
「意図的な魔法行使の痕跡はなし」
「結界干渉の兆候も確認されていません」
国家監査官が、低く言う。
「つまり、誰が、何をしたのか分からない」
「はい」
「だが、“起きたこと”だけは事実だ」
誰も否定しなかった。実技主任が、報告書の別ページをめくる。
「生徒の行動記録は?」
「候補生六名、補助要員一名」
「特筆すべき魔力行使は確認されていません」
学園長が、ゆっくりと視線を上げる。
「補助要員――ノア・エルディンか」
名前が出た瞬間、空気がわずかに張りつめた。
「彼は、常に最後尾か中央」
「指示に従い、独断行動はなし」
「魔力反応も、検知限界以下」
国家監査官が、静かにまとめる。
「つまり――」
「彼が“何かをした”証拠は、存在しない」
「はい」
一拍。
「だが、彼が“いなかった”場合の結果も、検証できない」
その言葉に、誰もすぐに返せなかった。副学園長が、ようやく口を開く。
「問題は、彼が“何をしたか”ではありません」
「“何もしていないのに、こうなった”ことです」
その一言で、会議の方向性が定まった。国家監査官が、資料を閉じる。
「学園単独で扱える案件ではない」
「同意します」
学園長が、短く頷いた。
「では、当該生徒の扱いは?」
実技主任が、慎重に言う。
「現時点での評価変更は、控えるべきです」
「過剰評価も、過小評価も危険」
国家監査官が、結論を告げる。
「――保留」
「刺激せず、情報を集める」
「接触は最小限」
学園長は、深く息を吐いた。
「……彼は、学生です」
「その“前提”が、崩れかけています」
誰も、反論しなかった。会議は、それ以上進まなかった。結論は出ない。
だが、判断は下された。――この生徒は、学園の判断基準では測れない。
その事実だけが、全員の共通認識となっていた。
その頃。当の本人は、与えられた控室で、ぼんやりと天井を見ていた。
(……長いな)
(雑用、もう終わっていいと思うんだけど)
理由も説明もないまま、時間だけが過ぎていく。彼は、まだ知らない。
この“待ち時間”こそが、学園生活の終わりを意味していることを。
結論を出さないことも、立派な決定です。そして、だいたいいちばん人を待たせます。
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