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魔王様は手品師  作者: ゆたか
魔界編
49/191

49.スリ師のショー1

モニターの中に一人の男性が映し出される。観客の中から一人を舞台に上げようと客席に近づく。


握手を数回、何人かの観客に挨拶をしながら舞台に上がっても問題ないか確認をして回っている。


交渉を終えたのか一人の男が立ち上がる。スリ師に背中を押されステージに歩いていく。


ふと右側を歩いていたスリ師が男の左側に移動する。トントンと背中を押されステージの階段を上っていく。ズボンの後ろポケットから露わになった男性の財布にスリ師が手を伸ばす。


すかさず、財布を持っていない手で背中を押しエスコートを装う。


「ようこそ、それではミスディレクションというものを体感していただきます、ステージは少し緊張されるかもしれませんが手伝ってもらうことは簡単です」


スリ師はポケットからコインを取り出す。


「賭け事をしている最中というのは熱中してしまっていて他のことが目にも耳にも入らない。冷静さを失うのです。コインを手に持って仕掛けが無さそうか調べてみてください」


コインを一通り調べ終えた男性は手の上にコインを乗せたまま次の指示を待つ。


「手はそのままで、コインだけ受け取ります。私の左手にコインを渡します。これがいつの間にか右手に移動しています。しっかり集中して見ていたはずなのにです。続いて・・・・」


コインは男性の肩に乗っていたり、手の上にいつの間にか移動していた。


「それではステージのお手伝いをいただいたお礼に・・・」


スリ師がポケットに手を入れると、男性の腕時計が出てくる。


男性の体を一周してスリ師は続ける。


「そうですね、今日はかなり盛り上がりました。更に出演料を支払うことにしましょう・・・・」


スリ師がまたポケットに手を入れると、男性の財布が出てくる。・・・続いて男性のベルト。


これですべてが終わったように思えた次の瞬間、演者の胸元には男性が身に着けていたチーフ、首元には男性のネクタイが着けられていた・・・・・。



・・・・・



「と、まあこれが私の知る上質のミスディレクションショーよ、どうかしら?」


動画を見終えた小林は笑顔ながら少し首をかしげていた。


「先生・・・これってもしかして」


「おっ!クイズしても仕方ないしおそらく正解だから解説してあげるわね」


両腕を広げる大げさなジェスチャーをしながら両手拳を握りしめる。


「この客とスリ師は仲間。騙されているのは他の観客や私たち。スリ師のショーという名の手品と喜劇の混ざったエンターテイメントなわけ。階段で皆が見えるよう、落とさないよう絶妙な目立ち方を指せた長財布、コインの移動をする説明段階で少し緩め、コインが移動したとき驚いた男性客の背中で隠れた瞬間、腕時計を抜き取り死角を利用してポケットに入れる。」


「スリ師が男性を利用しているだけかと思ったら、男性もスリ師を利用してネタの処理をしていますね」


腕組みしながら頷く小林。


「さすがね、私の英才教育の賜物なんでしょうけど。息の合った二人で練習に練習を重ねた芸術のようなステージマジックということよ。少し残念だったのは現場にいて見る分には怪しくない行動も録画されたこの映像で見ると怪しくなってしまうことね」


モニターのとある箇所を指さす。


「ネクタイのスチールがあまりにも素早く強引で一瞬に抜き取れてしまっているから、ああこれは観客も手伝っているタイプのものかと推測できたわけ。これがなかったら、もっと巧妙な方法だったら男性客が仲間とは思わなかったでしょうけれど」


「これはしかし、さくらと呼ぶにはまた違うものですよね」

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