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オーリック公国 3 衝突現場

 ◇ ◇ ◇



「私から見ての事ではありますが、左に見えますあちらは織物、衣服等を取り扱っている仕立て屋ギルドの工場、右手に見える丘陵地帯の畑は野菜――食料生産を行っております。ずっと西方に見えているオルストロ山地付近の林では建築及び鍛冶、鋳造などの工場があり、同時に鉱夫ギルドも兼ねています」


 鮮やかに晴れ渡る空の色と同じ色の髪と瞳の女性が馬車に揺られながらオーリック公国の街並みを案内してくれている。

 ジーナ・カルレウム公女。ヴィンヴェル大公とミーリス王妃のご息女だ。

 ヴィンヴェル大公に挨拶をさせていただいた後、食事をするための大きく長いテーブルでお茶をいただきながら休憩をとらせていただいていた僕達のところへ、ミーリス王妃に連れられてお顔を見せられた。

 背中まで伸ばしている空色の髪は飾りのついたゴムで左右に可愛らしく結ばれていて、馬車の振動に合わせてゆらゆらと揺れている。

 馬車には僕を含めて、シェリスとシャイナ、ジーナ公女とクリストフ様が乗っていて、決して狭いというわけではないのだけれど、どことなく柑橘系の香り――おそらく女性陣がつけている香水のものだろう――が漂っていて、普通ならば混ざり合って気持ち悪くなってしまいそうなものに思えるのだけれど、不思議とそうはなっておらず、何となく変な気分になってしまいそうで、わずかに居心地の悪さを覚えていた。

 隣を見ると、そわそわしているような、困っているような表情のクリストフ様と丁度タイミングが被ったように目が合った。

 おそらく、僕も似たような表所を浮かべているのだろう。


「大丈夫ですか、クリストフ様」


「ええ、何とか。とはいえ、僕は姉様やシェリス姫には少し耐性がありますけれど、ユーグリッド義兄様の方こそ、大変なのではありませんか? その、姉様と一緒ですし……」


 男同士だからこそというか、クリストフ様と僕は似たような悩みを抱えていて、まさか女性陣の前でため息をつくわけにもいかず、微妙な笑顔を浮かべていた。

 何だろう。先日、エルマーナ皇女にミクトラン帝国の案内をして貰った時と、それほど状況は変わらないと思うのだけれど、これが成長期という事だろうか。

 もちろん、僕ではなく、シャイナやシェリスたちの。

 3日顔を合わせなければ、年頃の男子は見違えるように成長するものだという言葉があるけれど、それは男子だけに言えることではなく、女性だって、むしろ成長期が男子よりも早くに訪れる分、この、シャイナやシェリスくらいの年頃の女の子は昨日までとはまるで別人のように思える時があるという事だろうか。


「どうしたの? 兄様もクリストフも、顔を見合わせてため息なんてついちゃって。せっかくこんな美少女と一緒にお出かけしているっていうのに、もしかして不満でもあるの?」


 シェリスにつられて、シャイナとジーナ公女がきょとんとした表情で僕たちの方を見つめてくる。どうやら2人には今の会話はよく聞こえていなかったらしい。

 僕は即座に、誤解を解くために手を大げさに振って


「いやいや、不満なんてあるわけないよ。これほど美しい女性に案内して貰えて幸せだなあって話していたところなんだよ」


「え、ええ。その通りです」


 僕だけではなくクリストフ様も同意してくれたことからか、シェリスはすんなり引き下がった。しかし、若干気にはしているらしく、ジーナ公女の説明を聴きながら、ちらちらとこちらを窺っている様子だった。

 根本的な問題は解決していないけれど、この距離、空間で魔法を使えば即座に気付かれるし、いい匂い過ぎて困るから、などと言えるはずもない。

 

「少し止めていただいてもよろしいですか?」


 僕とは反対の窓から外の様子を眺めていたシャイナが声をかけると、ジーナ公女によって御者さんに声が掛けられて、ゆっくりと馬車が停止した。

 僕がエスコートする間もなく、シャイナが自分で扉を開けて、馬車から降り立ってしまう。

 周囲からざわめきが起こるのが聞こえ、僕が慌ててシャイナの後を追うように馬車から降りると、さらにどよめきが大きくなってしまった。

 シャイナの目的が何なのか分からないけれど、これ以上騒ぎが大きくなっても困るだろう。


「シェリスたちは馬車の中で待っていて」


 とりあえず騒ぎが収まるまでは。

 そう言い残して、僕は馬車の扉を静かに閉めると、御者さんに頭を下げ、シャイナの後ろを追いかける。


「何があったのですか?」


 シャイナの視線の先では、地面に落ちて散乱してしまっている書類や、あるいは紙の袋からこぼれてしまっている粉を丁寧に、地面に落ちてしまわないようにそっと拾い上げている女性、そして、大きめのスコップを手に、肩から汚れたタオルをかけている、手押し車に鉱石を積み直していた男性の方たちが、今にも掴みかかりそうな勢いで口論していた。


「何もかんもねえ。こっちは徹夜明けでようやく山から下りてきたところだってのに、こいつがぶつかってきたもんで、成果物がこぼれちまったんだよ」


 男性がそう言うと、負けないくらいの大きな声で、女性たちも指を突き付けた。


「貴方がふらふらと歩いているのがいけないんでしょうが。それをこっちが避けられなかったのが悪いみたいに言わないでよね。これだから、鉱夫はがさつで嫌なのよ」


 何だと、何よ、と互いに引くつもりはないらしく、どうやら周囲も止めるつもりはないらしい。



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