オーリック公国 2
ギルド間の対立が起こっているという話だったけれど、僕達に何か出来るのだろうかと言われると、難しい話ではある。
そもそも何故対立など発生してしまったのか。
情報を収集してくださっている諜報部の方たちとは別に、僕達は僕達に出来る方法で、もっと言えば僕たちにしか出来ないだろう方法で情報を収集することにした。
「……本当に何の捻りもないわね」
オーリック公国の大公殿下がいらっしゃる宮殿の前で、シェリスが呆れたようなため息をついていた。
いかに諜報部といえど、直接他国の宮殿に乗り込んでしまえば、糾弾は避けられない。もちろん、発覚すればの話ではあるけれど、現在の状況で彼らが、僕達ひいてはエルヴィラが糾弾される可能性を考慮した場合に、すでに潜り込んでいる可能性は低いと考えられた。
「もちろんヴィンヴェル様のところへ報告が入るほどになっているかどうかは分からないけれどね」
ヴィンヴェル・カルレウム大公。
オーリック公国はギルドによって運営がなされている国家ではあるけれど、評議会という、国家としての意思の最高決定機関は存在している。
方向性すらなく、各ギルドごとに自由に行動し始めると、容易に戦争状態に突入するためだ。
その各ギルドの代表者が集まった評議会の最高位の決定権を持っているのがヴィンヴェル大公家というわけだ。
最も、僕だって他国の内情をそれほど詳しく知っているわけではもちろんないので、大雑把な話しか分からないけれど。
「とにかく、そのヴィンヴェル様にお話しを聞かせていただくのが先決のようですね」
考えていても仕方がないし、他に良い方法があるわけでもない。
僕達が実地で情報を集めに行かなくてはならないことにも、最終的にはなるかもしれないけれど、今はまだ動きようがない。
シャイナの提案に頷いた僕たちは、馬車が宮殿に入り込むのを待った。
◇ ◇ ◇
「よくぞ参られた、ユーグリッド王子。それからクリストフ王子、シェリス姫、シャイナ姫も」
濃い茶色の髪を少しボサボサの角刈りに揃えた、若干髭の濃い男性が、玉座に腰かけられたままわずかに疲れの見える表情で挨拶をされた。
「すでに気付かれたていることと思うが、恥ずかしいことに、現在の我が国の情勢は決して好ましいとは言えないものでな。色々と面倒をかけることになり、さらに大したもてなしが出来ないことを許してほしい」
「そのように頭など下げられないでください。私達としても、貴国との取引は重要ですので」
オーリック公国では、それぞれの規模こそ大きくはないものの、数多くのギルドが存在していることにより、職人――その方面に特化した技術者――の質では、周辺国家でも頭一つ抜きんでている。
もちろん、トップの人材だけを見るとその技術にほとんど差はないのだけれど、それらの母数が多いというのが特徴だ。
「ヴィンヴェル様がおっしゃられた通り、私たちもある程度の状況は存じておりますが、より詳しいお話をお聞かせ願えないでしょうか?」
教えて貰えるのかどうかは分からない。
いかに国としての情勢が悪化しているようだとはいえ、要するにこの国の運営の根幹をなす部分なのだ。おいそれと他国に漏らして良い情報だとは思えない。
「おそらくは貴殿らの推測の通りだとは思うが、過去、最近に至るまで我が国における各ギルドは互いに協力しあい、時に対立することはあったが、それも小競り合い程度であり、ここまで大きく発展することはなかった」
それが近頃、1つの、あるいは複数のギルドが集権、つまりは他の各ギルドを取り込んで独占、あるいは最終的なことを言ってしまえば、他のギルドを支配しようという動きが出てきたらしい。
「そのギルドはどこなのか分かっているのですか?」
クリストフ様が尋ねられたけれど、ヴィンヴェル様は首を横に振られた。
分かっていればこちらから直接動くという手段が取れるため、他の色々を考えず、対処するという事だけに絞ればそれほど難しくないはずなので、それは容易に想像がついた。
「相手方をほめるというのも問題があるのだろうが、中々に巧妙で、尻尾を見せるようなへまはしていないのだ」
では具体的にどのような問題が起こっているのかという話になるのだけれど。
「それに関しては、失礼ですが、ここでお話を聞かせていただくよりも、私達自身の足で動いた方がより確実かと思われます」
シャイナの意見には、案の定、ヴィンヴェル様は眉を顰められたけれど、僕達は皆賛成だった。
ここで報告を聴くというのも、僕達の身の安全を考えると正しいのかもしれないけれど、やはり、実際に自分の足で歩いて、見て、聞き込みをしてみて得られる情報の方が、自分たちでの判断もしやすければ、こちらとの齟齬も確認しやすい。
「そういえば、私、オーリック公国に来たのは初めてだわ」
シェリスが楽しそうに瞳を輝かせる。
僕も訪れたことはない。
エルヴィラといえば、自分たちで言うのもあれだけれど、大陸でも1番の大国であり、基本的に迎える側であることが多い(もちろん、先のミクトラン帝国での開花祭などのように例外もあるのだけれど)そのため、他国なりへと出向くことは少ない。
「私は1度、こちらで開かれた式典に招いていただいたことがあります」
シャイナはそう答えていたけれど、クリストフ様は、僕たちと同様、初めてのようだ。
知らない土地、もちろん探索魔法を使えば地理を把握するだけであれば数分もかからないけれど、それでは味気ないし、丁度良い機会でもある。こんな時に何を、と思われるかもしれないけれど。
「そうか。では、顔合わせもかねて、娘のジーナに案内をさせよう。もちろん、護衛もつける」




