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ep2-009.ドゥーム・ドレイナー(4)

 

 キャラバン隊は混乱していた。様子がおかしい。シリウスの精霊魔法が発現しない。


「リゲル、矢だ! 矢を折れ! 魔法陣を消すんだ!」


 護衛の一人、プロキオンが幌馬竜車の周りの矢を剣で斬りとばす。シリウス以外の五人も次々と矢を折った。これで、魔法陣が消えシリウスの精霊魔法が炸裂する。その場の誰もが期待した。


 ――だが。


「プロキオン! 消えないぞ!」


 魔法陣は消えなかった。相変わらず、青白い幾何学模様を展開している。リゲルは地面に刺さった鏃を抜いたが、それでも駄目だ。


 異変に気づいた幌馬竜車の中は大騒ぎになっていた。護衛の一人、プロキオンがジョアンの幌馬竜車に近づき、荷台を覗きこむ。


「ジョアン様、理由は分かりませんが、魔法が使えません。此処は危険です。我らが食い止めますので御逃げ下さい!」

 

 プロキオンが御者に幌馬竜車を出すよう命じる。


「待って!」


 馬竜に鞭を入れようとした御者をイーリスが止めた。


「ね、あいつらをやっつけたら、精晶石をあたしに分けてくれる?」


 イーリスが栗色の瞳でジョアンを見つめた。ジョアンは目を丸くして固まっていた。イーリスが何を言っているか分からないようだった。一呼吸置いて、彼女が盗賊団を撃退すると提案していることを理解すると、首を振る。


「おやめください。貴方達が何者か知りませんが無茶です。魔法が使えないのですよ。多少剣の腕に覚えがあったところで、あの人数が相手ではどうにもなりません」

「ジョアン様、お待ちください」


 プロキオンが端正な顔をイーリスに向けた。


「旅の冒険者の方とお見受けする。一人でも加勢があると助かる。精晶石なら私も多少持ち合わせがある。それでよければ譲ろう」


 プロキオンがジョアンに承諾を求める。ジョアンは一瞬考える素振りを見せたが、仕方ないという風に頷く。


「ありがと。交渉成立ね」


 イーリスはプロキオンが報酬に出すといった精晶石の種類を確かめることなく、承諾した。たとえ風の精晶石でなくとも、転売するか交換すればそれで済む。大した問題ではない。


イーリスはツェスに行くわよと声を掛けて幌馬竜車から飛び降りる。ツェスもやれやれと続いた。


 幌馬竜車を護衛する六人は、一ヶ所に固まり剣を構えた。シリウスも精霊魔法の発動を諦めたのか、黒い宝石を皮袋に仕舞い直して、杖を構える。


 敵は五十歩の距離まで迫っていた。


「イーリス、大丈夫なのか?」

「多分、大丈夫じゃない? ()()()()、ね」


 呆れ顔のツェスに、イーリスは他人事の様に答えた。次いで盗賊団の方を向くと、両手を伸ばして掌を見せる。


「天の光、地の息吹、生きとし生ける者達のエナジーよ、此処に……」


 イーリスが詠唱を始める。


「お、おい、魔法は使えないんだぞ!」


 護衛のリゲルが叫んだのを、ツェスが手で制した。


「まぁ、見てな」


 イーリスの緑の髪が先端から銀に代わり、ふわりと舞う。彼女の体の周りが薄っすらと青白く光りだした。


「全てを生かしめる青き珠(ドゥーム)となりて、我に臨め」


 イーリスの伸ばした手の平の先が渦を巻き、青い珠が出現した。


雷撃光ライトニング・プラズマ!」


 青い珠が消え失せると同時に、天に雷が生まれた。バチバチッツという音と共に光の柱が盗賊団を襲う。


「ぎゃっ!」

「うわぁ!」

「ひいぃ!」


 雷撃は迫る盗賊団の目の前と、ウェズンら四人を包囲した賊達の背後に落ちた。直撃はしなかったものの盗賊達の足を止めるには十分だった。盗賊達は素っ頓狂な叫び声を上げてその場に固まった。


「どう? 今のはわざと外したんだけど、もっと痺れてみたい?」


 イーリスが腰に手をあて、盗賊達の顔を覗き込むようにして問いかけた。調子に乗りすぎるなとツェスがイーリスにアイコンタクトする。イーリスは、大丈夫よと片目を瞑った。


「馬、馬鹿な、精霊魔法は封じている筈……」


 最後尾に追いついたローブ風の男がひきつった顔で呟いた。キョロキョロと辺りを見渡す。矢に仕込んでおいた魔法陣は問題なく発動している。魔法陣が形成した結界の中では精霊は呼び出せない。そのように説明されている。ローブ風の男は、震えるように首を振り、目の前の現実を拒絶した。


「お生憎様。あたしは精霊がなくても、魔法が使えるのよ」


 イーリスの言葉はローブ風の男には聞こえていないようだ。


「ねぇ、とっとと消えてくれない? 次は直撃させるわよ。手加減なしでね」


 イーリスが右手の掌を上に向けると、青い珠が浮かび上がった。珠はどんどん大きくなる。


「ヒッ!」


 ローブ風の男はペタリと尻餅を着いた。

 

「ちっ、お前等引き上げた! 急げ!」


 後方から頭目が引き上げの指示を出した。手下の盗賊達が引き下がる。腰が抜けたローブ風の男は手下達に引きずられるようにして去っていく。


「次は、こんな風にはいかねぇぜ」


 頭目が忌々し気な捨て台詞を残し林の奥へと消えていった。


「終わったみたいよ。怪我人が出なくてよかったわね」


 戻ってきたウェズン達の無事な姿にイーリスはにこりと微笑み掛けた。



◇◇◇



「お怪我はありませんでしたか? お嬢さん」


 幌馬竜車から飛び出てきたジョアンが開口一番、イーリスにそう言った。


「平気よ、ジョアンさん」


 無傷のイーリスはあっけらかんとしていた。彼女の銀に輝いていた髪は元の明るいグリーンに戻っている。彼女を包んでいた青白いオーラも消えていた。


「助かった。貴方のお陰だ。礼をいう」


 剣を腰に納めたプロキオンは、幌を引く馬竜の一頭に近づくと、その背の荷物から金の皮袋を一つ取り出す。

 

「約束の精晶石だ。中に三つ入っている。琥珀は風の精晶石だったかと思うが、それでよいだろうか。ガラムに居る友人に届ける品の一部だが、事情を話せば分かってくれよう」


 プロキオンがイーリスの手を取り、その上に金の皮袋を乗せた。


「ありがとう。護衛さ、ええと……」


 呼び掛けの言葉を探すイーリスにプロキオンが名乗る。


「プロキオン・ワーウルフ、プロキオンでよい」

「プロキオンさん、あたしは風使いのイーリス。だから琥珀でいいの」


 イーリスはプロキオンに軽く微笑み掛けた。


「それにしても驚いた。イーリス殿。精霊なしの魔法など初めてだ。そんな事ができるのか。一体貴方達は何者なのだ、差し支えなければ教えていただけないか?」

「ただの冒険者よ」


 イーリスが軽くかわす。


「……そうか」


 彼女の正体を聞き出せず、残念そうな顔をするプロキオンを横目に、ウェズンがずいと進み出る。


「貴殿等の助勢、感謝する。私はウェズン・フォン・ランカスター。王国騎士を引退して、今はジョアン様の護衛隊長を務めている。何か礼をしたいのだが」

「さっき、プロキオンさんから精晶石を貰ったからそれでいいわ」

「……イーリス殿といったか。こちらの御仁は?」

「ツェスだ」

「イーリス殿、ツェス殿。重ねて礼を申し上げる。ならば礼としてこれだけは受け取って貰えないか」


 ウェズンは懐から小さな金属プレートを取り出した。金地に朱で紋章が刻まれている。紋章はウェズンの胸当てについているものと同じだ。


「何かあったらこれを持って、王都の東、モントル街の私の家を訪ねるといい。家の者が手助けしてくれよう」

「ありがと、ウェズンさん」


 イーリスは素直にプレートを受け取ると、くるりと身を翻してツェスに言った。


「行きましょ、ツェス。早くしないとラメル師匠に怒られちゃうわよ」

「そうだな」

「もしや、貴殿らはラメル大導師のお知り合いなのか?」


 ラメル大導師は、その昔、先帝レーベと共に大陸統一に尽力した大魔法使い。今は隠居の身だが、その力は衰えず、生ける伝説とまで言われている。


「えぇ。戻る所なの」


 ツェスとイーリスは、キャラバン隊に別れの挨拶をして、その場を後にした。



 ◇◇◇



「それにしても、凄い威力の魔法だった。精晶石なしで魔法とは……」


 ツェスとイーリスの後ろ姿を見送るプロキオンの呟きにシリウスが反応した。


「昔、師匠と一緒にラメル大導師の元を訪れたことがある。そのとき、ラメル大導師はこう言っていた『自分の弟子に精霊を召喚せずに魔法を使う事の出来る天才がいる』と」

「では、あの少女が?」

「彼女がラメル大導師の名を口にしたので思い出した。ラメル大導師はその弟子のスキルを『ドゥーム・ドレイナー』と呼んでいた。大陸でただ一つのスキルの持ち主だと」

「ドゥーム・ドレイナー……」


 ウェズン達、キャラバン隊の護衛は二人の姿が見えなくなるまで見送っていた。


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