27 索敵魔法
初任務を終えた翌日。
七百人の騎士は再び王城の訓練場へ集まっていた。
アークは整列した騎士たちを見渡す。
「今日は索敵魔法を学びます。」
騎士たちの表情が引き締まる。
飛行魔法とテレパシーによって機動力と連携を手に入れた騎士団にとって、次に必要となるのは敵を発見する力だった。
「まずは魔力循環です。」
「いつも通り、高速で回してください。」
「始め。」
七百人が一斉に魔力循環を加速させる。
訓練場は静寂に包まれた。
魔力だけが騎士たちの体内を絶え間なく巡り続ける。
十分ほど経過した頃、アークが口を開く。
「水魔法による索敵を行います。」
騎士たちは静かに頷いた。
水属性の魔力を周囲へ広げていく。
見えない波紋が広がるように、水の魔力が訓練場全体を覆っていった。
「感じたものを口にしてください。」
一人の女性騎士が目を閉じたまま答える。
「前方に七百人。」
「団長とアーク様も分かります。」
別の騎士も頷く。
「訓練場の外に衛兵が四人。」
「馬が二頭います。」
周囲から驚きの声が上がる。
「そこまで分かるのか。」
「索敵できています。」
アークは静かに頷いた。
「その感覚を維持してください。」
「次は風魔法を重ねます。」
騎士たちは水属性の索敵を維持したまま、風属性の魔力を広げていく。
索敵範囲がさらに広がる。
「王城の門まで感じます。」
「街道を歩く人の流れも分かります。」
「鳥が飛んでいます。」
次々と報告が上がった。
「続いて土魔法。」
今度は地面へ魔力が染み込むように広がっていく。
「地下まで分かります。」
「建物の中にも反応があります。」
「井戸の位置も分かります。」
騎士団長は目を見開いた。
「索敵の精度が上がっている。」
アークは続ける。
「光魔法を重ねます。」
白い魔力が周囲へ広がる。
「反応がさらに鮮明になりました。」
「人の位置がはっきり分かります。」
「闇魔法。」
今度は静かな闇の魔力が索敵へ加わる。
「建物の陰も分かります。」
「物陰に隠れている人まで探知できます。」
最後に、
「火魔法。」
熱を帯びた魔力が周囲へ広がった。
「人だけではありません。」
「馬や犬も区別できます。」
「熱の違いが分かります。」
七百人の騎士たちは六属性の索敵魔法を重ねながら、周囲の情報を次々と読み取っていく。
その光景を見た騎士団長は深く息を吐いた。
「これほどの索敵能力なら、待ち伏せも奇襲も通用しない。」
アークは静かに頷いた。
「索敵は戦うためだけではありません。」
「人を守るためにも必要な力です。」
騎士たちは、その言葉を胸に刻みながら、さらに索敵魔法の精度を高めていった。
六属性の索敵魔法は、訓練を重ねるたびに精度を増していった。
水。
風。
土。
光。
闇。
火。
それぞれの索敵魔法を同時に維持しながら、騎士たちは周囲の情報を読み取っていく。
「では次です。」
アークは静かに告げた。
「飛行しながら索敵してください。」
「地上ではなく、空からです。」
「はい!」
飛行可能な騎士たちが一斉に空へ舞い上がる。
350人の騎士が王城上空へ浮かび上がる光景は壮観だった。
残る騎士たちも地上で魔力循環を続け、覚醒を目指している。
飛行部隊は隊列を維持したまま、索敵魔法を展開する。
「水魔法索敵、異常ありません。」
「風魔法索敵、王城外周まで確認。」
「土魔法索敵、地下通路に反応なし。」
「光魔法索敵、訓練場周辺に変化なし。」
「闇魔法索敵、建物の陰も確認しました。」
「火魔法索敵、人と馬を識別できます。」
テレパシーによる報告が絶え間なく流れる。
離れた場所にいる仲間の情報が、瞬時に全員へ共有されていく。
騎士団長は空を飛びながら感嘆した。
「索敵しながら飛行できるのか。」
副団長も頷く。
「しかも情報共有まで同時です。」
「実戦では絶大な力になります。」
その時だった。
地上で訓練を続けていた一人の騎士の身体が淡く輝く。
「覚醒です!」
鑑定役の騎士が駆け寄る。
「テレキネシス。」
「テレパシー。」
「レビテーション。」
「三つとも覚醒しました!」
周囲から歓声が上がる。
覚醒した騎士はすぐにレビテーションを発動する。
身体がゆっくりと浮き上がり、風魔法を纏う。
「飛べます!」
見守っていた教導役の騎士が笑顔で迎えた。
「こちらへ。」
「飛行部隊へ合流してください。」
新たな飛行可能者が空へ加わる。
それを見た地上の騎士たちも、さらに魔力循環へ集中した。
「私も続く。」
「絶対に飛べるようになる。」
覚醒は一人で終わらない。
また一人。
さらに一人。
身体が光り、新たな超能力が目覚めていく。
鑑定役の騎士は報告を続けた。
「飛行可能者、五百四十七名。」
しばらくして再び声が響く。
「五百四十九名!」
さらに数分後。
「五百五十二名になりました!」
訓練場に拍手が広がる。
騎士団長は空を見上げ、静かに呟いた。
「五百五十人を超えたか。」
その表情には驚きよりも喜びが浮かんでいた。
そして、地上で訓練を続ける騎士たちへ視線を向ける。
「……あと百五十人。」
その一言には焦りはなかった。
仲間たちも必ず追いつく。
魔力循環を続け、教え合い、支え合えば必ず覚醒する。
それを騎士団全員が信じていた。
アークは静かに頷く。
飛行部隊は着実に拡大している。
そして、それ以上に価値があるのは、誰一人取り残されることなく、騎士団全体が同じ目標へ向かって歩み続けていることだった。
午後の訓練が始まると、アークは飛行部隊を前へ集めた。
五百五十人を超える騎士たちが空中で整列する。
地上では残る百五十人が魔力循環を続けながら、その様子を見守っていた。
「これからは実践形式です。」
アークは静かに告げる。
「索敵魔法だけで仲間を探してください。」
「目で探してはいけません。」
騎士たちは目を閉じ、六属性の索敵魔法を同時に展開する。
水。
風。
土。
光。
闇。
火。
六種類の索敵が重なり合い、王城周辺の情報が頭の中へ流れ込んでくる。
「第一班。」
「第二班を探してください。」
飛行部隊は索敵だけを頼りに空を進む。
『第二班を発見。』
『北東方向、高度そのまま。』
テレパシーによる報告が即座に共有される。
「第三班。」
「第四班を探してください。」
『第四班確認。』
『南側上空を飛行中。』
索敵。
報告。
移動。
確認。
七百人の騎士たちは自然な流れで行動していた。
騎士団長はその様子を見ながら頷く。
「索敵して終わりではない。」
「発見した情報を全員で共有している。」
副団長も感心したように答える。
「一人の目ではありません。」
「五百五十人の目が繋がっています。」
アークはさらに指示を出す。
「今度は教導役が隠れます。」
「見つけてください。」
教導役の騎士たちは王城の建物や城壁、訓練場周辺へ散っていく。
飛行部隊はすぐに索敵魔法を展開した。
「水魔法索敵。」
「風魔法索敵。」
「土魔法索敵。」
六属性を重ねることで索敵範囲がさらに広がる。
『一人発見。』
『城壁の裏です。』
『こちらも一人。』
『建物の陰に反応があります。』
『地下倉庫付近にも反応。』
報告が次々と届いた。
教導役の騎士たちは苦笑する。
「もう隠れられませんね。」
「六属性の索敵は想像以上です。」
飛行部隊は発見した位置へ向かい、教導役を次々と見つけ出していく。
騎士団長は静かに息を吐いた。
「犯罪者も魔物も、隠れることが難しくなる。」
アークは頷いた。
「索敵は先に見つけた者が有利です。」
「戦いだけではありません。」
「遭難者。」
「迷子。」
「救助活動。」
「災害。」
「どの場面でも役に立ちます。」
騎士たちはその言葉を聞き、静かに頷いた。
初任務で市民を救った光景が、それぞれの脳裏に浮かぶ。
索敵魔法は敵を探すためだけの技術ではない。
助けを必要とする人を、一刻も早く見つけるための力でもあった。
そのことを理解した騎士たちは、さらに真剣な表情で索敵魔法の精度を高めていくのだった。
夕日が王城を黄金色に染めていた。
訓練場では、一日の最後の訓練が行われている。
七百人の騎士が整列し、魔力循環を高速で維持したまま六属性の索敵魔法を展開していた。
水。
風。
土。
光。
闇。
火。
六つの属性が一つの索敵魔法として重なり合い、王城周辺のあらゆる情報が騎士たちへ伝わってくる。
「報告してください。」
アークが静かに告げる。
第一班が答えた。
「王城周辺に異常ありません。」
第二班。
「北門付近、人の移動を確認。」
第三班。
「西側街道、荷馬車五台。」
第四班。
「南門周辺、異常なし。」
報告は途切れることなく続いていく。
飛行部隊は空から。
地上部隊は地上から。
それぞれ異なる角度で索敵を行い、その情報をテレパシーで共有する。
騎士団長は感心したように頷いた。
「一人では見落とす情報も、七百人で共有すれば見落としはほとんどなくなる。」
副団長も続ける。
「しかも飛行部隊が上空を担当し、地上部隊が街路を担当する。」
「互いを補い合っています。」
その時だった。
地上で訓練していた一人の騎士の身体が淡く輝く。
「覚醒です!」
鑑定役の騎士が駆け寄る。
「テレキネシス。」
「テレパシー。」
「レビテーション。」
「三つとも覚醒しました!」
訓練場から拍手が起こる。
覚醒した騎士は笑顔でレビテーションを発動し、ゆっくりと空へ浮かび上がる。
飛行部隊の騎士たちが迎えに向かった。
「おめでとう。」
「こちらへ。」
「一緒に飛びましょう。」
新たな仲間が加わり、飛行部隊はさらに厚みを増していく。
集計役の騎士が騎士団長へ報告した。
「飛行可能者、五百五十五名。」
騎士団長は静かに空を見上げる。
青空には数百人の騎士が整然と隊列を組みながら飛行していた。
そして地上では、残る騎士たちが誰一人諦めることなく魔力循環を続けている。
騎士団長は小さく呟いた。
「……あと百四十五人。」
その言葉には焦りも落胆もなかった。
これまで何度も見てきた。
努力を続けた者は必ず覚醒する。
教え合い、支え合えば、必ず仲間に追いつける。
騎士団全員が、それを信じていた。
アークは静かに訓練場全体を見渡す。
六属性の索敵魔法。
テレパシーによる情報共有。
テレキネシス。
レビテーション。
それぞれの力は独立したものではない。
互いに組み合わせることで、初めて真価を発揮する。
騎士たちはその意味を理解し始めていた。
ただ強くなるためではない。
敵を見つけ、市民を守り、仲間と連携し、一人でも多くの命を救うための力。
夕日に照らされた七百人の騎士は、その新たな力を胸に刻みながら、明日への訓練に備えるのだった。




