夜便隊、王都を駆ける
銀笛に応えた青い灯は、十二あった。
大集配局の庭へ滑り込んできたのは、揃いの精鋭ではない。片眼鏡の老騎手、雨具を継ぎだらけにした若者、荷籠を背負った徒歩便の女性。受け持つ道も、馬の速さも違う夜便員たちだった。
カイは全員が揃うと、王都の地図を石畳へ広げた。リネットが四地方の原本と護送記録をひとまとめに置こうとすると、彼は首を横に振る。
〈四組に分ける。控えも別の二路へ〉
「一つでも届かなければ、照合できません」
〈だから一人に全部を背負わせない。届かなかった時は、誰がどこまで運んだかを残す〉
彼は十二枚の引受票を並べた。命令欄は空白のままだった。
「閉鎖命令に逆らえば、職務印を失うぞ」
灰色の外套の護送官が言った。だが、カイは署名を命じなかった。目的地と危険、引き返す権利まで紙へ書き、最初の一枚を自分の前へ置いた。
老騎手が鼻を鳴らした。
「選ぶのはこちらだろう。夜便隊は、荷物より先に意思を確かめる」
一人、また一人と、空白だった引受欄が埋まっていく。リネットは最後の署名を見届けてから、四地方の封筒を分けた。町の名簿は北門へ、荒野の七署名は西の水門へ、灯台の当直帳は河岸へ。温室の日誌は、リネットとカイが南門から運ぶ。
零時の鐘が鳴った。
街道の標石から青い文字が消え、代わりに黒い矢印が浮かぶ。十二の矢印が、すべて同じ方角を指していた。
カイが息を止めた。耳を澄ませ、すぐに手帳をリネットへ向ける。
〈夜路が、どれも「王都中央経路局」と言っている〉
以前の彼なら、危険から守るつもりで胸の内へしまっただろう。今は違う。聞こえたことと、まだ分からないことを分けて書いている。
「教えてくれて、ありがとうございます」
リネットは地図ではなく、昼間に控えた荷車の轍と、南門の時刻表を見た。
「閉じられたのは郵便路です。粉屋の荷道まで消えたわけではありません」
青い配達灯に覆いをかけ、二人は馬を降りた。封筒を鞍袋から手提げ箱へ移す。移した時刻をリネットが書き、カイが確かめ、護送官が証人として署名した。
「私は止める役だぞ」
「だから、止められなかったと正確に証言してください」
護送官は渋い顔で印を押した。
南門では経路局の検査官が待っていた。
「郵便物は通せない」
「これは証言台へ出頭する人が、自分で携える記録です」
「言い換えにすぎん。誰の命令だ」
リネットは引受票を差し出した。
「命令欄は空白です。差出人が提出先を選び、運ぶ人が引き受け、受け取る監査官が待っています」
検査官は白い職務印を見て嘲るように笑った。
「停止中の迷い便係を、誰が信用する」
「私一人を信用する必要はありません」
背後で護送官が咳払いし、自分の署名を示した。門番は時刻表を開き、粉屋は荷車を止めて箱を積んだと証言する。三つの記録に食い違いはなかった。
重い門扉が、人ひとり分だけ開いた。
王都へ入ってからが、夜便隊の仕事だった。
表通りの標識は黒い矢印に塗り潰されている。けれど、洗濯場の抜け道も、パン焼き窯の裏庭も、朝市へ野菜を運ぶ坂も眠ってはいない。カイが笛を一度鳴らすたび、覆いを外した青い灯が、屋根の向こうで一つずつ応えた。
北で一つ。西で一つ。河岸で一つ。
追手の蹄が近づくたび、手提げ箱は別の夜便員へ渡った。渡す者と受ける者が名を記し、もう一人が見届ける。速さのために、空欄は作らない。石段を駆け上がり、露店の骨組みをくぐり、夜明け前の中央広場へ飛び込んだ時、リネットの靴底は半分剥がれていた。
証言台の脇で、エダが腕を組んで待っていた。
最初に町の名簿が届いた。続いて七署名、灯台の当直帳。最後にリネットが温室の日誌を置く。エダは四冊の運送票を端から照合し、ほんの少し口元を緩めた。
「全経路、空欄なし。これなら証拠は消せない」
広場の四隅で、守護更新式の白い柱が起こされ始めた。ところが柱から伸びるはずの四本の青い導線は、地方へ向かわない。石畳の下を這い、中央の一柱へ吸い寄せられていく。
夜路が告げた名と、同じ場所へ。
朝の鐘が鳴り、公開更新式の門が開く。
証拠は間に合った。
そして王国を巻き込む誤配は、今まさに始まろうとしていた。




