第53話 魔石を見せに来たら、なんか、家に元敵がいた
第53話 戦友が、魔石を見せに来たら、なんか、家に元敵がいた
私、白波つむぎの朝は早い。
今日も、夜明け前に起きて、剣の素振りをした。
素振り千回。
毎日の日課。
……ホロダイ世界二位、なんて、言われても。
……毎日、積み重ねないと、すぐ鈍る。
汗を拭いて、私は、昨日のことを、思い出した。
昨日、私はソロでダンジョンに潜った。
久しぶりの、一人での攻略。
そこで、見たことのない、魔石を手に入れた。
青と紫が、混ざったような色。
中で、光が、ゆらゆら、動いている。
……綺麗。
でも、効果もわからない。
どこで、売れるのかもわからない。
私は、魔石を手のひらに、のせて見つめた。
……これ。
……蓮さんに、見てもらいたいな。
そう、思った。
◆ ◆ ◆
……いや。
……それは、口実かもしれない。
私は、自分に正直になった。
魔石なら、AEGISに持ち込めば、調べてもらえるだろう。
もしくは、換金するなら適当な鑑定屋に持っていってもいい。
でも。
……蓮さんに会いたい。
それが本音。
最近、蓮さんは、Nullの件で忙しそうだった。
配信も減っていた。
一緒にダンジョンに行く約束もまだ、果たせていない。
……会う口実が、欲しい。
私は、スマホを握った。
……魔石を、見せたい、って。
……それなら、自然だよね。
……うん。
私は深呼吸して、蓮さんに、DMを打った。
『蓮さん、こんにちは。今、お時間、ありますか?』
『実は、昨日、ソロで、ダンジョンに行って、珍しい魔石を手に入れたんです』
『見たことのない色で。効果も、どこで売れるかも、わからなくて』
『蓮さんに、見ていただけたら、と思って。これから、伺ってもいいですか?』
送信。
……送っちゃった。
私は、スマホを、ぎゅっ、と、握った。
心臓が、ちょっと、速い。
……返事、来るかな。
……迷惑、じゃ、ないかな。
すぐ、既読がついた。
『いいよ。うちに来て』
……っ。
……やった! 返事が来た!
私の顔が、ぱあっ、と、明るくなった。
『ありがとうございます! すぐ、向かいます!』
私は、すぐ、返信して。
立ち上がった。
……何、着て行こう。
……戦闘装備は、変、かな。
……でも、私服も、変かな。
私は、ちょっと、迷って。
結局、いつもの、私服を選んだ。
魔石を、小さなポーチに入れて。
鏡の前で髪を整えた。
……よし。
……行こう。
心臓が、まだ、どきどきしていた。
◆ ◆ ◆
蓮さんの、家まで、急いだ。
道中、ずっと、考えていた。
……魔石、なんて、言われるかな。
……一緒に、ダンジョン、いつ行けるか、聞こうかな。
……今度こそ、二人で。
二人っきりで。
その言葉を、思い浮かべて。
私は、ちょっと、頬が熱くなった。
……いや。
……落ち着け、わたし。
……ただ、今日は魔石を見せるだけ。
……戦友、として。
……うん。
でも、足は自然と速くなった。
蓮さんの、家に着いた。
ドアの前で、一回、深呼吸。
……よし。
私は、インターホンを押した。
ピンポーン。
しばらくして、ドアが、開いた。
「蓮さん、こんにちは! 突然、すみません」
「いいよ。入って」
「お邪魔、します」
私は、靴を脱いで上がった。
……蓮さんの、家。
……ひさしぶり。
ちょっと、緊張しながら、リビングに入った。
そして。
止まった。
テーブルに。
女の子が、座っていた。
長い金色の髪。
小柄な体。
見覚えのある顔。
……え。
……あの子。
……Nullの、敵じゃないの?
私の体が固まった。
手が、勝手に腰に伸びた。
……剣。
……今日、剣は。
持ってきていない。
私服だから。
……なんで。
……なんで、あの子が、ここに。
頭の中が、ぐるぐる、した。
警戒と。
混乱と。
……あと、なんか、もう一つ、わからない感情が。
胸の奥で、ちりっ、と、した。
ステラも、私を見て、ぴしり、と、固まった。
二人で、見つめ合った。
しばらく、無言。
空気が、ぴりっ、と、した。
◆ ◆ ◆
「……蓮さん」
私は、ゆっくり、口を、開いた。
「うん?」
「あの子、Nullの」
「あ、ステラ。今、うちに住んでる」
「……住んでる」
「うん。組織抜けて、行く所ないって言うから」
「……っ」
私の手が、ぴくり、と、動いた。
……だめ。
……ここ、蓮さんの家。
……落ち着け私。
私は、手を下ろした。
でも、表情は、うまく作れなかった。
警戒と。
戸惑いと。
……それから。
……あの子が、蓮さんの家に、住んでる、っていう。
……その事実へのもやもや。
胸の奥が、むっと、した。
……ずるい。
……わたしは、一緒にダンジョンに、行く約束さえ、まだなのに。
……あの子は、毎日、ここにいるの。
ステラが、立ち上がった。
ぴしり、と、姿勢を、正した。
深く、お辞儀をした。
「白波つむぎ殿。先日は、失礼いたしました」
「……っ」
「あの時は、敵として、対峙しました。でも、今は、ただの居候、で、あります」
「……」
「もう、戦う気はありません。安心、してください」
「…………」
私は、しばらく、無言だった。
それから、やっと、声を出した。
「……あなた、ステラ、さん」
「ステラ、で、あります」
「ステラさん。蓮さんの、家に住んでるの?」
「はい」
「……いつから」
「一昨日、から、であります」
「……毎日いるの?」
「はい。毎日、おります」
「…………」
私の眉間にシワが寄った。
……毎日。
……毎日、蓮さんと、一緒に。
もやもやが、また、胸の奥で、膨らんだ。
でも、ステラの顔を見ていたら。
……あれ。
……この子、なんか。
……すごく、まじめな顔をしてる。
敵意は、まったく感じなかった。
ただ、まっすぐで。
でも、ちょっと、不器用そう。
◆ ◆ ◆
『……マスター(笑)。白波さん、嫉妬してますよ』
「しっと?」
『……いえ。なんでもないです。お茶でも淹れましょう』
「うん」
俺は、白波さんを、テーブルに座らせた。
ステラの向かいに。
ステラがお茶を淹れてくれた。
ノアに教わって、家事が出来るようになってきた。
「あの、つむぎ殿。お茶、で、あります」
「……どうも」
白波さんが、お茶を受け取った。
一口、飲んだ。
「……おいしい」
「ノア殿に、淹れ方、習いました」
「……そう」
白波さんが、複雑そうに、お茶を見た。
……敵だった子が、お茶を淹れてくれる。
……しかも、おいしい。
……なんか、調子が狂う。
白波さんの顔に、そう、書いてあった。
たぶん。
「で、白波さん」
「あ、はい」
「魔石、見せて」
「あ、そうでした」
白波さんが、ポーチから、魔石を取り出した。
テーブルに置いた。
小さな石。
でも、色が、変わっていた。
青と紫が、混ざったような。
中で光がゆらゆら動いている。
……お。
……これ。
「蓮さん、これ、どんな魔石かわかりますか? 効果も、売値も、わからなくて」
「うーん」
俺は、魔石を、手に取った。
くるくる、回して、見た。
……あー。
……これ。
「これ、たぶん、深層の魔石だ。珍しいよ。」
「深層?」
「うん。S級ダンジョンの、もっと下。普通行けない、ところの」
「……っ、わかるんですか」
「うん。色と、光の、動き方で。たぶんだけど」
「……」
「これ、ノアが好きそう」
『……マスター。それ、わたしの好物の、話じゃ、ないです』
「あ、そう?」
『はい。でも、確かに、深層の魔石、ですね。それもかなり質のいい』
「ふうん」
「売ると、いくらくらい?」
『……たぶん、AEGISに、持ち込めば、数百万には、なります』
「お、白波さん、よかったね」
「……す、数百万」
白波さんが、固まった。
……あ。
……びっくりしてる。
「でも、売らない方が、いいかも」
「え?」
「これ、武器に埋め込むと強くなる。たぶん」
「……っ、本当ですか」
「うん。白波さんの、剣に合いそう」
「……」
白波さんが、魔石を見た。
それから、俺を見た。
目が、きらきら、していた。
「蓮さん、埋め込み方、わかりますか」
「うーん、わからない。ノアは?」
『……AEGISの技術部に、頼めばできますよ。霧島さん、経由でやってもらいましょう』
「お、じゃあ、霧島さんに、頼もう」
「ありがとうございます、蓮さん!」
白波さんが、ぱあっ、と、笑った。
……あ。
……笑った。
さっきまで、ぴりぴり、してたのに。
魔石の話になったら、戦士の顔に、戻った。
……白波さん、やっぱり、戦うの、好きなんだな。
俺はぼんやりそう思った。
◆ ◆ ◆
その、やり取りを。
ステラが、じっと、見ていた。
白波さんが、魔石を嬉しそうに、見ている姿を。
「……つむぎ殿は」
ステラが、ぽつり、と、言った。
「うん?」
「剣士で、あります、か?」
「……ええ。一応」
「情報では、ホロダイ世界二位、と、聞きました」
「……まあ、そう、ですけど」
「すごい、で、あります」
「……」
「私も、武器を使います。鎌、ですが」
ステラが、玄関に立てかけた、鎌を、ちらっ、と見た。
「先日、REN殿と、戦った時。私は、まったく、歯が立ちませんでした」
「……」
「でも、つむぎ殿は、REN殿の隣に、立っている」
「……」
「戦友、として」
「……」
「それは、すごいこと、で、あります」
ステラが、まっすぐ、白波さんを見た。
白波さんが、しばらく、無言だった。
お茶を、見ていた。
それから、ぽつり、と、言った。
「……あなた、強いんでしょう?」
「え?」
「Nullの幹部だから、絶対強いって」
「いえ、私は、最弱、でした。組織で」
「……最弱で、蓮さんと、戦えたの」
「はい。一撃も、当てられませんでしたが」
「…………」
白波さんが、ちょっと、笑った。
ふっ、と。
「……それ、わたしも同じ」
「え?」
「わたしも蓮さんに勝てない。一回も」
「……つむぎ殿も、ですか」
「うん。世界二位でも、ぜんぜん、届かない」
「……」
「だから、まあ」
白波さんが、お茶を一口飲んだ。
「……同じようなもの、かもね」
「……つむぎ殿」
「つむぎで、いいよ」
「……つむぎ、殿」
「うん。まあ、それでいいや」
白波さんが、ちょっとだけ、笑った。
ステラも、ちょっとだけ、笑った。
二人の、間の、ぴりぴり、が。
少しだけ、和らいだ。
……完全には、打ち解けてない。
……でも。
……なんか、戦う者同士、わかり合ったような。
俺には、よくわからなかったけど。
なんか、いい感じだった。
たぶん。
◆ ◆ ◆
白波さんが帰る前。
玄関で、靴を履きながら言った。
「蓮さん」
「うん?」
「魔石、ありがとうございました。霧島さんに、相談してみます」
「うん」
「あと」
「うん?」
「……次は、ちゃんと、二人で、ダンジョン、行きましょうね」
「うん。約束したしね」
「はい。約束ですよ」
白波さんが、ぴしっ、と、念を、押した。
それから、ちらっ、と、ステラを、見た。
「ステラさん」
「はい」
「……えっと。その。お茶おいしかった」
「……ありがとう、ございます」
「また来るから」
「はい。お待ち、しております」
白波さんが頷いて帰っていった。
……なんか。
……白波さん、最後、ちょっと、優しかったな。
俺はぼんやり思った。
◆ ◆ ◆
白波さんが、帰ったあと。
ステラが、俺に言った。
「REN殿」
「うん?」
「つむぎ殿は、いい人、で、あります」
「うん。いい人だよ」
「最初、すごく警戒、されました」
「うん」
「でも、最後は、お茶、おいしいと、言って、くれました」
「うん」
「……私、ここに来て、よかった、で、あります」
「うん」
ステラが、ちょっと、笑った。
子供みたいな、笑顔で。
……ステラ、笑うようになったな。
……来たばっかりの時は、ずっと、緊張してたのに。
俺は、ちょっと、嬉しかった。
◆ ◆ ◆
その夜。
ノアが、肩の上で、ぽつり、と、言った。
『……マスター』
「うん?」
『そろそろ、ですね』
「何が?」
『ステラさんが、言ってた、ヴェガさんについて』
「あー」
『そろそろ来るかもしれませんね』
「ふうん」
「いつ頃来るかな?」
『……分かりませんが、いつでも来てもいいように準備はしておいた方がいいですよ』
「ふうん」
「ステラはどう?」
『……はい。ステラさんも、たぶん、わかってます。ずっと緊張状態です』
俺は、ステラを見た。
ステラは、布団の用意をしていた。
でも、時々、窓の方を、ちらっ、と、見ていた。
……あ。
……ステラ、緊張、してる。
「ステラ」
「……はい」
「ヴェガ、来そう?」
「……はい。たぶん、もうすぐ、で、あります」
「ふうん」
「あの、REN殿」
「うん?」
「ヴェガ様は、私とは、比べ物にならないくらい、強い、で、あります」
「うん」
「組織で最強。REN殿でも勝てるかどうか分かりません」
「ふうん」
「……気を、つけて、ください」
「うん。ありがと」
俺は頷いた。
……ヴェガ、強いのか。
……まあ、来たら、考えよう。
俺は布団に潜った。
……明日も、たぶん、何か、起きる。
……でも、まあ。
……卵焼き、食べてから、考えよう。
俺は、目を閉じた。
ステラは、まだ、ちょっと、窓の方を見ていた。
その、夜。
遠くの、空のどこかで。
誰かが、こちらに向かって、歩いてくる気配がした。
冷たくて。
鋭くて。
まっすぐな、大きな気配が。
でも、俺は、もう眠っていた。
卵焼きの夢を見ながら。
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配信コメント(その夜・抜粋)
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>【攻略ガチ勢】最近、RENの配信、少ないな。何かあったのか?
>【ノア推し】ノアちゃん不足だ
>【陰謀論者】Nullが沈黙して、もう三日。絶対、次が来るぞ
>【海外視聴者】The calm before the storm. I can feel it
>【holodive_master】ヴェガっていう、最強幹部がいるらしい。海外で流れてる
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