229話 メンヘラ
「用がないのに何故話しに来た」
「え、なんとなく。それともシャイナちゃん以外の人にはーー」
「おいヒカリ・ウィンガート」
「ふぎゅっ?!」
少しおちょくろうとしたら、凄い形相で睨まれて、しかも何故か右手で頬を潰されている。
「その話題をここで出すな?」
「にゃんててふは(なんでですか)?」
「なんでもだ」
「…………ひゃい」
「…………」
「わかりました……」
「よし」
やばい。この人シャイナちゃんのことになるとかなりマジだ。
「「…………」」
そんな二人の様子を見た部員たちが、物珍しそうな表情で見つめている。
「えっと……どうしました?」
「いや……ハクトさんが喋ったなって……」
「…………」
まぁ……喋るでしょうね。人間なんだし。
「もしかしてハクトさんって、人形劇の人形だったりします? 凄く可愛げがないですけど」
「おいヒカリ・ウィンガート」
「ひゃい!? 痛いです!?」
今度はもの凄く強い力で肩を掴まれた。
「お前…………いや、なんでもない」
「…………私に横暴し過ぎるとシャイナちゃんが悲しむからなんでもないってこと?」
「お前……本当にいい性格してんな……」
「てへっ?」
今までロクに関わって来なかったし、貴族至上主義っぽいから関わらないでおこうと思ってたけど……。
どうしよう、シャイナちゃんが絡むとこの人面白い!
「なんというか、やっぱりヒカリちゃんって凄いね?」
「モモさん?」
*
「それじゃあ今日の部活動はお終い! 各々しっかり課題をこなして、テスト前にやり切るよ!」
「「はーい!」」
部活動が終わり、ゾロゾロと教室を出ていく中、ユウ様とレオンは何か話をしている。
「ごめんヒカリ、少し待っててくれる?」
「うん、それはいいけど、直ぐ戻ってくるからちょっと教室出るね?」
「…………まぁそれくらいなら大丈夫か。直ぐ戻ってきてね?」
「うん!」
そんなわけで僕は一旦教室から出て、せっせとお手洗いまで向かう。
いくら侯爵たちから恨まれてるとしても、流石にこの短時間で監禁とかされることはないだろう。
そう思っていたのに、残念ながらその短時間でも致命傷になるのが僕の危機管理のなさだった。
「さて、急いで戻らないと」
お手洗いを急いで出ようとした時、どこかで見たことある人たちが出入り口を塞ぎ出す。
「本当に、本当にようやく一人になったわね……長かったわ?」
「えっと……あなたは?」
まだ一切の危機感を覚えていない僕は、呑気な声で名前を尋ねる。
「そうね、ラジアが退学しちゃったから、本名名乗るのは嫌なのよね?」
「えっと……?」
ラジア……って、誰だ?
「でも、幸いあなたは私たちの顔も名前も覚えていなさそうなのよね? そうでしょ『ヒカリ・ウィンガート』?」
「…………」
ようやく若干の危機感を覚えた僕は、反射的に一歩後退り。
「だから私は『タロウ』って名乗っておくわ?」
「タロウ……」
それはフィルさんが使っていた偽名。
そこからは一瞬で察しがついた。
この人はセイナの取り巻きの一人で、多分ずっと僕が一人になるタイミングを待っていた。
ただひたすらに、待っていた。
「メンヘラじゃん……」
「めんへら? よくわからないけど侮辱していることは分かりますわ?」
コツコツと一歩ずつ足音が迫り、僕の目の前で止まりーー
「私は魔法は使えないけど、ラジア見たいなヘマをするつもりはないのよ?」
「っ!?」
不意に視界がぐにゃりと歪み、思わず膝から崩れ落ちる。
何が起きたのかわからないまま、そのまま意識を失った。




