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179話 コウの未来のーー


「ただいまぁ?」


 部活動も終わり、レオンの馬車に家まで送られ、現在自室。


「おかえりヒカリ、体調は大丈夫そう?」

「うん、凄く元気ですお母様!」

「そう! なら、私とシャルは執務室に戻っても大丈夫かしら?」

「うん、ありがとうお母様! シャルも助かったわ!」

「いえ、元気が戻って何よりです」


 今日も僕の自室でシャルと経営について話していたが、既に活力が戻った今、プライベートの邪魔しないよう、早々に退出してくれた。


「さて、王妃教育でも頑張りますか!」


 この世界は相変わらずスマホもテレビもラジオもないから、暇潰しが出来ない。


 まぁその分勉強を頑張れるから悪いことばかりではないのだけど。



 そんなこんなで王妃教育の初歩の『文字を覚える』を一時間ほどやっている最中だった。


『コンコン』とノック音が聞こえ「はーい!」と声をあげてミューゼがドア越しから話し出す。


「お嬢様、旦那様と奥様がお呼びです。広間までお越しください」

「わかった!」


 冊子を開いたまま立ち上がり、のんびり広間に向かう。


 お父様とお母様以外にも、コウとメイド長のシャルもおり、執事長のミューゼと僕も揃い、ウィンガート家の権力が一挙に広間に集合している。



「お待たせしました旦那様、奥様」


 ミューゼが形式を重視した礼を一つ。


「お父様、お母様、お待たせして申し訳ございません」


 僕も形式重視で礼を一つして、空いている椅子に丁寧に腰掛ける。

 大切な話があることは、緊張感のある空気が教えてくれる。


「全員揃ったね。皆んなに大切なお話がある」


 お父様が全員を見回し、一つ呼吸を置いて話し出す。


「息子のコウのことなのだが……」

「はい!」


 コウが元気よく手を上げ、議題の主役だと大々的にアピール。


 ちょっと緊張が和らぎ、思わず笑みがこぼれる。


 しかし、僕の笑みは一瞬で消え失せるのだった。



「とある令嬢と、婚約することになった」

「……………………………………へ?」



*



「……リ……ま」

「…………」

「ヒカリ様!」

「はっ……!?」


 気づいた時にはお父様の話が終わっており、既に僕とシャルしか広間に残っていなかった。


「コウ……え、なんで…………え?」

「ヒカリ様、話聞いてました?」

「コウが……コウが婚約……コウが、私の可愛い弟が……」

「そろそろ正気に戻ってくださいませんか?」

「なんで……コウ……行かないで……」

「…………」


 どうしよう、コウが結婚しちゃう!


 僕ですらまだ婚約者候補なのに、なんで……。


「ヒカリ様、とりあえず自室に戻りましょう」

「はっ……そうね、コウの部屋にーー」

「ヒカリ様!!」


 僕はもうダメだ。コウのいない生活なんて考えられない。


「本当にそろそろ正気に戻ってください」

「シャ……シャル! 痛い、痛いシャル!」


 不意に何故かシャルがもの凄い強い力でほっぺを摘んでくる。


「正気に戻りましたか?」

「痛い…………なんか頭がスッキリ、してない」

「もうダメですね」

「諦めないでシャル!」

「正気に戻ってますね」

「はい、多分正気に戻りました」


 でも、コウの婚約が受け入れられそうにない。


「一体何処の誰が私のコウと婚約を取り付けたの!」

「……ヒカリ様、旦那様の話何一つ聞いてないんですね」

「へ?」

「旦那様、婚約者の名前も、家名も、婚約に踏み切った理由も全部話していましたよ」

「…………シャル、今から教えて」

「拒否します」

「なんで!?」


 ここで拒否する理由 is 何!


「六日後の、学園の休みの日に、ウィンガート家総出でお相手方の屋敷へ向かうので、その時に確かめてください。話を聞いていなかったお嬢様が悪いです」

「ぐぬぬ……」


 確かに何一つ聞いていなかった僕が一方的に悪いから何も言い返せない。


 僕は残り六日間、変なウズウズを抱えたまま過ごさなきゃいけないのか……。

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