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13話 傷を知っているから


「ヒカリ?」

「ヒカリ様!?」

「うぅっ!」


 まるで意図せず流れ始めた涙は、自分の意思で止めることなど到底出来ない。


「大丈夫よヒカリ、大丈夫だから!」


 お母様が必死にハンカチで涙を拭ってくれるが、どんどん溢れ出てくる。


「うううぅぅ! おかぁしゃまぁ!」


 お母様に抱きつき、抗えない悲しい気持ちをどうにか中和する。


「ヒカリ様は、綺麗なお方ですね。平民である私たちのために泣いてくださるなんて」


 ユースはナツとルカの頭を撫でて我が子を慈しむ。


(違う、そうじゃないの!)


 僕は、きっとその貴族と同類なんだ。子供の身で両親より先に他界して、今日の今日までまるで気にも留めなかった。


 忘れてなかった。会いたいとも思った。


 でも、ここが居心地良かったから、脳の片隅に追いやっていた。


「うぅ……ママぁ!」

「うああぁぁぁ!」


 気付けばナツとルカも泣き出して、静かな書斎は大切な人を失った子供たちの泣き声で覆われた。





 十分ほどしてようやく気持ちが落ち着いてきた。子供って感情の起伏激しくて疲れますね……。


 そんなことを思っていたら、ナツとルカがコソコソ話を始め、少しして覚悟を決めたように僕を見る。


「ヒカリ様、怒鳴ってしまい、申し訳ございません」

「申し訳ございません!」


 同時に僕に頭を下げて、しっかり謝罪する。


 この謝罪は間違いなく、母に促されたものじゃなく、本心で謝っているんだろう。


「ゆるします!」


 最初から僕の答えなんて決まっている。


(僕も、いつかちゃんと自分を許せるかな……)


 親を置いて逝ってしまった僕はーー



「ささっ! 折角だしお勉強はここまでにして、三人で遊んだら?」


 さっきの空気とは打って変わり、お母様の明るい声が空気を変える。


「ヒカリも遊びたいわよね?」

「あそびたい!」


 お母様の期待通りの答えを提示し、無邪気に笑って見せる。


「だそうよユース? うちの子は天才だから、最初の日くらい一時間の勉強で終わっても問題ないわよね?」

「勿論です。むしろこのままのペースで勉強すると、学園入学前に全課程終わってしまうかも……」

「うふふ! 冗談でも持ち上げてくれるのは嬉しいわ?」

「いえ、冗談などではありません」


(いやそんな勉強したくないが!?)


 流石に四歳児の好奇心も底つくぞ?


「お母さん……」

 

 ナツの不安に揺れる瞳をユースが捉える。


「ナツ、ルカ、ヒカリ様が悪い貴族様にみえる?」


 諭すでもなく、言わせるでもなく、純粋な問いを二人に投げる。


「見えない」

「優しそう」


「……母さんも、そう思うわ?」


 ユースは必死に抑えていた涙が溢れ出し、今度は啜り泣く声が書斎に響く。


「本当に、貴女様のような方が、もっと沢山いてほしいわ」

「……」


 きっと、ユースも亡くなった子供が大事だったのだろう。


 僕を抱き上げた理由も、ナツに対する『ロス』だけじゃないのかもしれない。


「ヒカリ、まだ四歳だからわからないかも知れないけど」

「おかぁしゃま?」

「あなたは、今の貴女のまま、綺麗に育ってね?」

「うん!」


 ウィンガート・ヒカリ伯爵令嬢、貴族に汚れず、名前の通り、輝く心で、羽ばたきたいです!

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