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星の子 〜護るとは、一緒にいたいと願うこと〜  作者: 猫様のしもべ
第3章 “星の子”が灯すもの
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第30話 彼女が隣にいるうちに

騎士団本部へ帰ってから、数日が経った。


ルキオスのいた孤児院には、事の顛末を伝えた。

院長は驚いていたが、彼を弔ってくれていた。


騎士団は、いつも通りに戻り始めていた。

訓練場からは剣のぶつかる音が聞こえ、廊下を歩けば敬礼とともに挨拶される。


いつも通りの日常ーー

と呼ぶには、少し気にかかることがあった。


「副団長・・・本部から出てもらうには・・・」


廊下を歩いていると、扉の奥から小さな声が聞こえた。


ルフィーナは、ぴたりと足を止める。

耳を澄ませると、数人の騎士の声があった。


「気づかれないためには、やっぱり・・・」

「姫様にはもう、話を通してあるんだろ?」

「ティターニアちゃんだけ残ってもらおう」


間違いなく、ルフィーナのことだった。


どうして、自分を追い出そうとしているのだろう。

何か失敗したり、迷惑をかけたのだろうか。

ティターニアさえいれば、必要ないと思われたのか。


「無純の堕天」との戦闘を思い出す。


あのとき、危険を考慮せず突っ込んだから?

それとも、騎士として間違った判断をしていた?


胸の奥に、小さな不安が生まれる。


「とにかく副団長には隠さないと」

「団長にも、笑顔で念押しされたからな」

「もしも気づかれたら、俺たちーー」


その瞬間。


「何をしているの?」


背後から声をかけられ、ルフィーナの肩が跳ねた。


振り返ると、笑顔のセルヴィーロがいた。

窓から差し込む陽光を、赤みある銀髪が反射する。

不思議な色彩の瞳は、いつも通り柔らかい。


そして、変わらぬ優しい笑顔。

あまりにも自然で、だからこそ少し怖かった。


「セ、セル・・・」


扉の向こうから、何かが倒れる音が聞こえた。

続けて、慌ただしい音を立てて騎士たちが駆ける。

悲壮感溢れる表情に、さらに不安が増す。


セルヴィーロは、首を傾げてみせる。


「ルナ、どうしたの?」

「騎士たちが、私のことを話してて・・・」

「気にしないで、大丈夫だから」


迷いのない返事だった。


セルヴィーロは、嘘が上手い。

いつも隣にいても、嘘か真か見抜けない。

優しい笑顔なのに、何も言えなくなる圧がある。


ルフィーナは、小さく頷いて離れた。

けれど、胸に残された違和感と不安は消えない。


部屋に戻ると、ティターニアが何かを隠した。

限りなく白に近い、青色の毛並みが視界を遮る。

一瞬見えたのは、何かが書かれた紙切れ。


「お、おかえりなさい。主様」

「ただいま、ティターニア。何をしていたの?」

「何もしていません」


即答かつ、きっぱりと答えられた。


ただ、ルフィーナにはわかる。

星光を撒く羽が、忙しなく上下している。

目線を合わせようとしない。


いつもすぐ飛んで近寄るのに、動こうとしなかった。

普段落ち着いているだけあって、とても挙動不審だ。


けれど問い詰めるのも、少し可哀想だった。


「これから姫様に会いに行くの。一緒に行こう?」


いつものように、問いかける。


ティターニアは当然、頷くと思っていた。

記憶を失い、目覚めてから今まで、一度も彼女がそばを離れたことはなかったから。


ティターニアは、一瞬動きを止めた。

やがて、羽を折りたたみ頭を下げる。


「・・・ごめんなさい、主様」


小さな声で、申し訳なさそうに縮こまる。


「今日は、ここに残りたいです」

「・・・どうして?」

「お手伝いしたいことが、あるんです」


ルフィーナは、胸がざわつくのを感じた。


彼女たちが自分を悲しませることは、想像もつかない。

それでも、どうしても不安になってしまう。

だからといって、押し問答している時間もない。


ルフィーナは手を握り、立ち上がった。


「・・・わかった。必ず帰るから待っててね」

「はい・・・!主様もお楽しみに・・・」

「お楽しみに?」

「い、いえ!お待ちしておりますっ!」


声が少しだけ上ずっていた。

でも、悪いことではないのだろう。

ルフィーナは小さな確信を得て、本部を出た。


馬車のそばには、ルナシアが立っていた。


つややかな黒髪には、いつもの髪飾りがある。

朝焼けのような瞳を輝かせ、手を振った。


「ルフィーナ、待ってたよ!」

「今日は、ルナシアが一緒に行くの?」

「うん!護衛を任されたから!」


セルヴィーロがいないことに、少し驚いた。

確かに城へ行くときは来ないことも多い。

けれどティターニアがいないなら、来ると思っていた。


ルナシアは強いから、不安はないけれど。


周囲では、箱を抱えた騎士たちが行き交う。

目が合うと、慌てて本部へと走り去って行った。


「えへへ、姫様と会うの楽しみだな!」

「・・・そうだね」


ルナシアは、嘘が上手くない。

この様子だと、何も聞いていないだろう。


ルフィーナは仕方なく、馬車に乗り込んだ。


背後から何か聞こえた気がしたが、振り返る間もなく、馬車は城へ向かって移動を始めてしまった。


ガラガラと音を立て、馬車が遠ざかる。


途端に、シェウは大きく振り返る。

空気の一変した本部で、声高らかに宣言した。


「よし、副団長の誕生日会準備を始めるぞ!」

「おぉ〜っ!!」


周りの騎士たちが、一斉に円陣を組む。


「そんなことしてる暇あるなら、準備しろ」


団長こと、セルヴィーロに一喝される。


シェウは、ニヤニヤと笑みを浮かべた。

何せ、誕生日会を計画したのはーー。


「団長も、意外と可愛いことしますよねぇ」


周りの騎士たちも、ニヤリと笑顔をみせる。


本部に妙な雰囲気が流れた。

直後、騎士たちの表情が凍りつく。

同時に本部には、冷たい空気が漂った。


セルヴィーロが、微笑みを浮かべる。

彼らにとっては、いつも通りの黒い笑顔。


「君たちにも、サプライズを用意するよ」

「い、いえ、遠慮します・・・」

「気にしないでよ、俺と戦闘するだけだからさ」


それが1番、恐ろしい。


騎士たちは、悲壮感溢れる表情に逆戻り。

ーーと、ここまでがいつもの流れだったのだが。

今日のセルヴィーロは、一味違っていた。


「・・・まぁ、今日だけは許そう」

「!!マジっすか!」

「今日だけだから。ルナのためだよ」


一転して、騎士団本部に歓声が上がる。

感情の起伏が激しい、騎士たちだった。


ルフィーナの名前は、これほど威力がある。


騎士たちは次こそ気をつけねばと、準備に移る。

シェウも、怒られないよう全力を尽くす。

やるべきことがわからない騎士たちを見回し、告げる。


「よし、背が高いやつは飾りをつけろ!」


シェウの指示に合わせ、騎士たちが動く。


部屋の中に隠された、たくさんの箱。

机の上には、色とりどりの紙や布が広げられた。


銀や赤など神聖な色、青や白に紫の星を思わせる色。

紐で繋がれた、幾つもの星飾り。

光を取り込んで煌めく、不思議な宝石もある。


「シェウ、俺はどーする?」

「お前、確か字上手かったよな?なら垂れ幕書け!」

「なんで知ってんだよ」

「調査報告書見たからだ」

「勝手に見てんじゃねぇか!」


彼は不満そうに文句を言いながらも、移動した。

周りに慰められながら、垂れ幕に字を書いていた。


騒がしい声が、騎士団本部に広がる。


シェウは、少しだけ様子を眺めていた。

ルキオスの最期の重さが、消えたわけじゃない。


でも、祝える誕生日は祝うべきだ。


しばらく準備していたら、ティターニアが飛んで来た。

手に持っている小さな紙切れには、文字がびっしり。


「シェウさん、主様が好きなもの書き出しました」

「お、ありがとっす!」


紙切れには、丁寧な字で料理を書き連ねてあった。

甘い焼き菓子や、フルーツ、星の光ポトフ。

彼女のお母さん特有の、隠し味まで書いてある。


「でもよ、あんたも誕生日っすよね?」

「はい。ですが、主様をお祝いしたいです」

「・・・まぁいいんじゃね」


ティターニアは、笑顔で星飾りを持つ。

人には届かない天井に、飾り付け始めた。


「団長なら、どうせ考えてるだろうし」


セルヴィーロが、忘れているとは思えない。


きっと何かしら、用意しているに違いない。

だからティターニアのことは、いったん放置した。

シェウは、紙切れを手に厨房へ移動した。


厨房には、王女に派遣された料理人がいる。

城から届けられたケーキや、お菓子も並んでいた。


ところが。


厨房に入ったシェウを見た瞬間、騎士たちが固まる。

大慌てで服の裾を引っ張り、止めようとし始めた。


「シェウ、お前はダメだ!」


シェウは、料理スキルが絶望的だ。

前にセルヴィーロが、そうつぶやいていた。


絶対に焦げないと噂の鍋を、周りごと焦がした。

まな板で魚を捌こうとして、剣で床ごと斬った。

皿を洗う練習だけで、騎士団の皿を全滅させた。


などなど、数えきれないほどの武勇伝を持つ。


当時の騎士団の被害も、かなりのものだった。

シェウだって、物理的にも痛い目を見たはずだが。


「俺だって、家で練習したんだぜ?」

「お前のおふくろ無事か!?」

「ああ、フィニスが防いでくれた」

「無事じゃねぇよそれ!!」


騎士たちの悲痛の叫びが響く。


けれど、彼らも再び飾りつけに呼ばれた。

絶対に何もするなよ、と残して去っていく。

厨房に残されたのは、シェウと彼の武勇伝を知らない、城の料理人。


シェウは、不満そうに口を結んだ。

厨房の奥へ入り、辺りを見回してみる。


(俺だって、副団長に報いたいんだがなぁ)


視線を落とした瞬間、机の上にレシピを見つけた。


クッキーのページで、留められている。

周りを見る限り、あとは型抜きして焼くだけ。

型はたくさんあるし、焼き窯の火はある。


ーーそれなら。


俺にだってできるはず、と手袋をはめる。

生地を型でくり抜いて、鉄板の上に乗せる。


あとは、焼き窯に入れるだけ。


そーっと持ち上げ、焼き窯の中に置く。

弱火でゆっくり、と書かれているので見守る。

だがーー。


「このままじゃ、夕方までにできなくね?」


むしろ、だんだん形が崩れている気がする。


勝手に燃料を足せば、騎士団の備品を無駄にするなと、怒られるかもしれない。


シェウは、腰に提げた剣に目をやった。

風を送ることで、火は強まる。

ルナシアとの戦闘で、何度か痛感している。


ならここでも、少しだけ強めれば。

シェウは、剣を手に取った。


「ちょっとだけ、ちょっとだけ・・・」


剣先に淡い蒼色の輝きが、ゆっくりと宿った。


その頃、ルフィーナは城の庭園で歩いていた。

王女セティラの誘いに合わせ、あちこち移動する。


庭園には、色鮮やかな花が咲き誇る。

優しい香りが漂い、穏やかな風が流れていた。

だんだん陽も傾き始め、影が伸びていく。


けれど。


いつもより、どこか人が少ない気がする。

同じ花壇をもうすでに、2回通っている。


ルナシアは、たびたび目線を泳がせていた。

そのたびに、ルフィーナの胸には不安が募る。


騎士団のみんなを、信頼してはいる。


それでも、何か隠されている。

ルフィーナは、ふたりに問いかけようと決めた。


「姫様、ルナシアーー」


そのとき。


遠くから、窓を震わせるような爆音が響いた。


ーーボンッ!!


ルフィーナは、反射的に振り返る。

細く立ち上る黒煙の下にあるのは、騎士団本部だった。

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