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天才マサ君はただの雑学王  作者: 御実ダン
~ホテル業心殿・ミッドナイトミステリー編~

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2/14

1日目 50人の参加客

 神奈川県鎌倉市。湘南の海に割と近い位置にある、ホテル『業心殿(ごうしんでん)』に俺とエリは到着していた。今日から3泊4日、ミッドナイトミステリーのイベントに参加するためだったが――


「すっげー豪華なホテル!」


「お前はなぜ来た」


 ガイは大きめのスーツケースの取っ手を握り、空いたほうの手で短くツンツンに逆立てた金髪を撫でる。


 そもそもペアチケットの招待状は俺が当選した1枚分のみで、予定通りエリを誘っていたのだが。


「だってよーゴールデンなウィークだぜ!? 俺だって一緒に想い出づくりしたいじゃん? なぁエリちゃん」


「えー?」


「えぇっ!?」


 思わぬドン引きにガイが絶望する前に、エリは空気を読んでガイの肩にガシッと腕を回す。


「冗談よ、冗談! まぁチケットが無くても何とかなるっしょ!」


「なるわけないだろ……」


 そもそも俺たちはあらかじめホテル側の指定通り、高校生らしく制服姿で参加するつもりだ。なんでも、なるべく身分が分かりやすい恰好で過ごしてもらいたいらしい。


 ただ、ガイのスーツケースは海外旅行に行くレベルの大きさなのが妙に気になる。


「肌着や下着はともかく、ほぼ制服で過ごすのにお前は何を持ってきたんだ?」


「ちっちっち、わかってないね天才マサくんよ。ちょっと待ってろ……」


 得意気に指を振るガイだが、ガチャガチャとスーツケースの鍵を開けようと四苦八苦している。

 大体ここはもうホテルの真ん前だというのに、恥ずかしい奴め。


「『空港で預けるスーツケースには鍵をかけない』のはアメリカでは常識らしいぞ」


「え、なんで?」


 苦戦するガイを横目に、エリが興味を持ってくれた。

 茶色がかったボブカットで、眉下のラインに整えた髪を触っている。


「渡航の時に空港職員が荷物検査で鍵を壊すことがあるみたいだ。没収する物が入っていて無理やり開けられる可能性もあれば、単純に貴重品があると思われてこじ開けられることもある」


「さすが雑学王ねぇ」


「う、ここは空港じゃない……鎌倉だぜ!」


 バァン! と豪快な音と共に派手な色のパンツや靴下が弾け飛んだ。十分大きいのになぜギチギチに詰め込んだのか。


「衣服に食料に……懐中電灯にボードゲームにおやつにパンツにパンツにパンツか」


「修学旅行じゃん」


 ホテルに泊まるのになぜ食料が必要だったのかマジで理解ができん。おやつも理解できん。


「だから、ミステリーなんだろ!? 何があるか分からねぇんだから備えあれば嬉しいだろ!」


「備えあれば(うれ)いなし、だな。言わんとすることはわかるが、そんなことよりチケットが無いことを心配しろ」


 そんな雑学と茶番を終えて、俺たちはホテルの入り口へ向かった。

 これ以上続くと俺のくせっ毛がもっと跳ねてしまう。



 ――《ホテル業心殿 フロント》


陽善大(ようぜんまさる)様。矢乙女恵理(やおとめえり)様。ありがとうございます、チケットと学生証を確認致しました。……大変失礼ですが、外貝正樹(そとがいまさき)様はチケットをお持ちではないようですが」


 全然ダメだった。

 ガイは何とか必死に食い下がって説明するわけだが、そもそも人員を厳選したであろうミッドナイトミステリーだ、余剰を出すはずがない。


「うーん、お金を払ったら泊まれるんじゃないんだ」


「まぁこの期間だけ特別なんだろう、招待制だし」


 そうこうしているうちに、他校の制服――同じ高校生だろう、割と体格の良いスポーツ系男子が俺たちに近づいてきた。


「すいません、ちょっと良いですか? 皆さん学生ですよね?」


 彼もチェックインが出来なかったのかな? 少し申し訳なさそうにしている。胸ポケットからチケットがはみ出していた。

 キョトンとした目で、ガイとエリもその男子を見つめている。


「いやあ、実は僕の相方が一昨日から高熱を出してしまって……僕自身も辞退を申し入れたのですが、ホテル側から会場まで来るように言われちゃいまして」


「あ、敬語は大丈夫ですよ、俺たち高校生なので」


 何となく事情を察した俺は、このルール変更が通るのかどうか気になっていた。


「そっか、ありがとう。僕は鷺沼龍哉(さぎぬまたつや)。バスケ部なんだけど、本当は最後の夏に向けて練習したかったんだけどね。……で、もしかしてキミはチケットが無くて困ってるんじゃ?」


「まさかチケットをくれるのか!?」


 ガイが喜んで反応したが、どうやらちょっと違うようだ。


「えっとね、チケットの名義は僕になっていて、僕自身が招待を破棄しないことも参加の条件になっているんだ。ただ……大きな声じゃ言えないけど、財宝がもらえるかもしれないツアーなんでしょ? 普通断る人はいないんだろうけど」


 招待チケットの譲渡不可。後でもう一度エリとルールを確認しよう。

 そして彼の大きな手はあっさりとガイの手を包み込んだ。きっとバスケットボールを片手でも持てるんだろうな。


「キミさえ良ければ、4日間だけ僕の相方になってくれないかな?」


「うおおタケシ、ありがとう!!」


「タツヤって言ってたじゃん、ばか」


 エリに後ろから蹴りを入れられるガイ。割と短いスカートが揺れるから、そのツッコミはどうなんだろうか。

 フロントのボーイに事情を伝えると、一旦どこかに電話を掛けていたようだが、数分後にはガイ&タツヤのペアが誕生した。


「もうすぐ開会式の時間だけどさ、もの凄い人数だよねこれ。うわ変な人もいる……」


 周囲を高い身長で見回すタツヤ。190センチはあるんじゃないか? 俺とは15センチくらい差がありそうだ。エリは更に10センチくらい小さいが、女子の中では大きいほうだろう。ついでにガイは俺よりも数センチでかい。


「事前説明の通りなら、今この会場には50人の参加客がいるはずだ」


「ちょっと多くね? つかお前とエリちゃんが相部屋(あいべや)って許せなくね?」


「おほほほ、何をいまさら言ってるのかしらね~」


 わざとらしくも若干積極的なエリだが、昔からの付き合いだし俺はあまり気にしていない。気にしていないが……風呂上りとかは流石によろしくないな。


『レディース&ジェントルメン!! ようこそホテル業心殿へ、お集まりいただき感謝申し上げます!!』


 時刻は午前9時。マイクを通した若々しい声が、ホテル1階の中央に用意された特設会場に響く。


 会場には、朝からグラスを片手に飲んでいる若いカップルや金持ち風の装飾品を着飾った高齢夫婦、あるいはマジシャン風に正装している者から果ては馬ヘッドを被っている者までいた。


 いや馬ヘッドて。顔を隠したいならサングラスで良いだろうに。


「この掛け声もジェンダーニュートラル(性的中立性)な時代で廃止になってきているらしいな」


「マジかよ、こんなところにまで……」


『――それではさっそくミッドナイトミステリーについて説明をさせていただきます。司会進行役は私、副支配人の空橋(そらはし)が務めさせていただきます。どうぞ皆さま、金鬼財宝伝説への挑戦、(ふる)ってご参加ください!』


「なんか楽しそう、あたしワクワクしてきたっ」


 エリの気持ちとは裏腹に、不安と期待が入り混じったような思いが込み上がってきた。この身震いは杞憂(きゆう)だろうか。


『――悲しいことに、超が付くほどミステリー好きだった前支配人が他界してから、今日で丁度1年となります。前支配人は、金鬼の財宝を生涯追っていました。有力な情報が薄い事件を経て、わずかな手掛かりを辿ったとされる彼の日記、最後のページに書かれたメッセージの謎を皆さんに解いていただきたいと思います! 公平な推理の時間を設けるため、私共の設定したルールに従っていただきます――』


 要約すると、ルールは次の通りだ。


 ①毎日深夜0時から5時までの間は各客室はロックされ、出入り不可能となる。その間は内線電話も通信不可となるが、客室に取り付けられた緊急用の非常ボタンを押すと、あらゆる権利を放棄してフロントへ連絡が可能。

 ②毎日午前9時、前支配人の残した日記のメッセージを1つずつ公開する。

 ③初日・2日目・3日目・最終日のメッセージの謎が解けなかった場合はあらゆる権利を失う。


 疑問も多いが、詳しいルールについては後でまとめるとしよう。


 そんな副支配人の話はおよそ10分は続いた。事前説明と重複する部分も多く、金鬼伝説についても俺が知っている情報以上のものは今のところは出て来ていない。


 薄暗い会場で唯一スポットを浴びている副支配人は、天井より吊るした大きな額に書かれた文字を意気揚々と読み上げる。



穴倉(あなぐら)()き (たから)(もと)むる(もの)

 音無(おとな)(ほん)(ひら)き 左右(さゆう)(みみ)()

 ここは(あそ)() ()()(ほう)へ》



 さっそく暗号のお出ましだ。




読んでいただき感謝しています。

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