表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天才マサ君はただの雑学王  作者: 御実ダン
~ホテル業心殿・ミッドナイトミステリー編~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/14

プロローグ

 ゴールデンウィーク直前の週末。

 いつものファミレスにいつものメンバーが集まっている。


「エリちゃん、今度のゴールデンウィークさ、オレとふたりで海に行かない?」


「行かない!」


 ドリンクバーのおかわりを持って席に戻ると、テーブルに顔を突っ伏しているガイの姿があった。

 会話は丸聞こえだし、こいつが(へこ)んでいるのも頷ける。


 エリが手で席をぽんぽんっと叩いて誘導するので隣に座るとしよう。


「コーラと野菜ジュースおまち」


「ありがとう! ちなみにマサは海に行きたい派? 行きたくない派?」


「その派閥は知らんが、海は塩分濃度が薄口しょうゆくらい高いから行きたくない派だ」


 頷いているエリだがきっと理解はしていないだろうな。


「ほら、角砂糖5個強の炭酸飲料だぞガイ。起きろ」


「えっ、コーラってそんな砂糖入ってんの? ホワァ~イ?」


「なぜって、炭酸水はそもそも甘味を感じづらいから、美味しくするには砂糖を多くいれる必要があるんだよ。俺たち若者は代謝(たいしゃ)が良いから、飲み過ぎなきゃ今は気にしなくても平気だろ。ついでに『Why』の疑問文はイントネーションが下げ調子だからな、語尾は上げない」


 俺の知っていることに限り、質問されたら基本的には答える主義。「マサめっちゃしゃべるじゃあああん」と嘆いて再び崩れたガイは放置だ。


「ねえねえ、マサはホテル『業心殿(ごうしんでん)』って知ってる?」


 自分用に()れてきたコーヒーを飲もうとしていたら、なぜか勝手にガイがスマホを触りながら興味なさそうに答えた。


「あー、無料で泊まれるチャンス~って広告、どっかで見たぞそれ」


「ガイも知ってるんだ? あたし最近知ったんだけど、なんかゴールデンウィーク中にホテルで宝探しのイベントやるんだってさ。ちゃんと調べてないけど、実際にあった何かの事件で隠されたっていう、財宝の在りかを皆で推理するぞーってやつ」


 エリがノリノリで話している。この流れ、先が不安で仕方ない。

 さっきまでテンションが下がっていたガイも、お宝の匂いを嗅ぎつけたのか急に顔を上げる。


「マジか、財宝発掘ツアー? 行く行く絶対行く!」


「抽選! 当たらないと参加できないよ。あんたら休みの予定無いの?」


 高校3年生になったばかりの俺たちは、連休中は部活もないし、受験シーズンでもない。ついでに言えば、親に旅行に連れて行ってと頼むような年齢でもない。ないないづくしで予定はない。つまり答えは決まっている。


「無い」


「ねえなぁー」


 それを聞いたエリは、凄いスピードでスマホ画面をタップし始めた。


 ホテルの公式サイトのURLが送られてきた通知音が鳴ると同時に、エリが身体をくっつけてくる。フワッとした花のような乙女の香りはコーヒーの香りより強いみたいだ。


「おいこらマサ。オレと場所代われ」


「ほら、いいからガイも会員登録して! 数の力で当選をもぎ取るの!」


 数と言っても、たったの3人では満足のいく結果は期待できないだろう。しぶしぶスマホを取り出してリンクを開くと、ホテル業心殿のサイトが表示される。


「エリ、わかったからちょっと離れろ。キャンペーン内容の前に利用規約を読まないと」


「うげー、会員登録しないといけないのかよ。っつーかマサはそういうの読むんだ」


 読まないと損をする可能性があることを知らないのだろう。多少面倒でも速読で、契約や課金って単語に注意すればそれほど時間は掛からない。


 陽善大(ようぜんまさる)矢乙女恵理(やおとめえり)外貝正樹(そとがいまさき)

 3人それぞれ個人情報を入力して会員登録を済ませると、さっそく応募してみた。

 

「えっとね、『ホテル業心殿・ミッドナイトミステリー』への参加は応募抽選となります。25名様限定で3泊4日無料宿泊ペアチケットをプレゼント。当選者への当選通知はメールでのご案内……だってさ」


 律儀なことにエリが説明してくれたが、聞いているのかいないのか分からない男が口を開く。


「……これさぁ。ペアチケットってことは1人余るんじゃね?」


「当たる前提で話すのか」


「えー、ふたりのどっちかが当たったら、私とマサがイベントに参加します。以上!」


 ガイは目を見開いて、手を前に出して突っ込む。


「オレが当たってもエリちゃんとマサ!?」


「マサがいないのにあたしとガイの頭で何を推理しようってのよ」


 さっきからエリがガイに冷たいようだが、いつものことか。コーヒーが(から)になったので俺も口を開くとしよう。


「財宝の推定総価格は50億を超えるとサイトに載ってるが、仮に発見できたとしても『遺失物(いしつぶつ)』扱いだからな。全額貰えるわけじゃないぞ」


「えっ、じゃあいくら貰えるの?」


「簡単に言うと、道に落ちてるサイフを拾った時と同じで、遺失者から『報労金(ほうろうきん)』として5から20パーセントが受け取れるんだ。お礼の一割ってのが相場だし、まあ5億円くらいじゃないか?」


 充分多いわけだが、なぜか浮かれて夢見るふたりに、サイトで把握した事件と俺の記憶している事件が一致したので説明しておくことにする。


「さて、ふたりに質問だ。1985年。神奈川県鎌倉市で起こった連続強盗殺人事件を知ってるか?」


 舞い上がっていたふたりがピタリと動きを止めた。


「強盗殺人24件、被害者数49人の大事件だ。富豪ばかりを狙った犯行で、犯人が盗んだ金銀財宝は警察が長年捜査してもなぜか発見できなかったらしい。俺たちが生まれるずっと前の話だけどな」


「えっとマサくんや、いきなりホラー展開ですぅ?」


 気づけばエリもガイも大人しくちょこんと座っている。

 今回のミッドナイトミステリーの主題となる事件を話さないわけにはいかないだろう。俺は話を続けた。


「その殺人鬼だが、深夜帯に限定された犯行で事件の目撃者はゼロ。当時の警察の捜査では結局逮捕には至らなかった。そして2016年。今からおよそ5年前だ、湘南の海である遺体が発見された」


 グラスの氷はもう溶けている。二人はまるで怯える猫のように縮こまり、それでも目線は俺に向けられている。


「みすぼらしい恰好の男の遺体は、事件の犯人だったんだ。噂の出どころはわからないが、盗んだものをすべて金のインゴットに変えて、どこかに隠したらしい。だからその殺人鬼は通称――」


 『金鬼(きんおに)』と呼ばれていた。


「怖い怖い怖い! わけわかんないくっそ怖い!!」


「なにそれめっちゃ怖い! でもその財宝だけが見つかってないってことは――あっ」


 エリが察したようだ。ガイも察しろ!


「そう、つまり『金鬼の財宝伝説』だ。ホテルの推理イベントで、財宝の手掛かりでも明かされるんじゃないか?」


「あたしやります」


「エリちゃん謎の即答!? なにをやるんだよ」


 説明は終わりだが、当選しないことには何も始まらないわけで。


 全員がため息を何回かついた頃、エリが俺の服の袖をつかんだ。


「ねぇマサ、ごめんちょっと気になることがあるんだけど聴いてもいい?」


「ん? いいよ」


「マサのお爺ちゃんってさ、確か……」


 ふたりとも俺の幼馴染だから、小さい頃に話したことがあったような気がする。

 もちろん、ガイもこういう時は真面目な顔で俺を見ていた。


「あぁ、金鬼事件の()()()だ。爺ちゃんは会社の経営者だった」


 力の入った拳がゴンッと音を立ててテーブルに打ちつけられる。それをやったのはガイだけど。


「許せねぇよ、くそ野郎が。マサの爺ちゃん何も悪くねぇだろうが」


 幼馴染の祖父で、しかも36年前に他界していて会ったことがないという、限りなく無関係な人間のために怒るガイは正義感が強いバカだ。


 ……バカだけど良い奴で、いつも俺はこいつに救われる。


「まぁ許すも何も犯人は他界してるけどな」


「マサ……」


 その時、俺のスマホから通知音が鳴った。

 黙って画面を確認して、俺はその内容に、妙に納得した。何の因果かは知らないが、今度の連休は忙しくなりそうだ。


 スマホの画面をふたりに見せる。


「ホテル業心殿――いや、金鬼からの招待状だ」




※告知の予定通りに投稿できず、大変申し訳ありません。

第一章は全14話で構成しています。最後まで投稿しますので応援よろしくお願いします。


☆評価・感想・ブックマーク・レビューで皆さんの声をぜひお聞かせください。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ