最終日 支配者
時刻は深夜0時。
全ての客室の鉄格子が降り、ミッドナイトミステリーは最終日を迎えた。
「さて、0時だ。隠し部屋を見つけ出す条件の1つが揃ったわけだ。この時間は階段も封鎖されるから、これからエレベーターで地下2階へ皆で向かおう」
困惑するマジシャン、ラッキーとマーニィ。そして高齢夫婦の諸澄金弥と吟子夫妻。一切顔を見せない馬ヘッドコンビ、白毛と茶色。
この3組の情報は少なく、事前に傳峰警部と打ち合わせしていた通りに移動を開始する。
「陽善君。その条件とやらが何なのか、教えてくれないかい?」
1階エレベーターへ向かって皆で移動を開始した直後、俺の背後からラッキーが声を掛けてきた。
「今までの暗号と同じく、なぞなぞのように言葉を言い換えるだけですよ」
《深淵へと帰す 五十の魂
酌みし炎は 地獄への招待状
ここは業心殿 手の鳴る方へ》
「暗号の1行目を言い換えると『深い場所へ移動する。50の鉄格子』。これが隠し部屋解放条件の1つ――0時から5時までの間、各部屋や通路などを全て鉄格子で封鎖することで条件が満たされるんだ」
最後尾を傳峰警部と綾城巡査部長が歩く。
ホテル従業員は特設会場に残り、参加者だけで地下へ向かう。作戦は続行だ。
大きなエレベーターには俺、エリ、ガイを含め9人が搭乗し、続く探偵シオンと助手のスズ、傳峰警部と綾城巡査部長は隣接している他のエレベーターで地下へと向かった。
「……で~? なんで地下2階へ行くの?」
今度はマーニィが話し掛ける。そういえば、彼らマジシャンペアは第1の謎解きまでは攻略していたんだったな。
「暗号の2行目『酌みし炎』は『温泉を温める火』のこと。つまりこれから向かう先は――ボイラー室だ」
地下2階に13人が到着。鉄格子が降りた電気室の前を通過し、温泉も通過し、目的地の前に移動が完了した。
「ボイラー室に……隠し部屋が?」
「なんだか深淵に近づいているみたいで怖いわねぇ」
諸澄夫妻も、不安そうにしている。
「おっと、靴紐が……皆さんお先にどうぞ向かってください」
「……」
ラッキーの革靴の靴紐がほどけていた。
綾城巡査部長がアイコンタクトで「私が見張る」と言う。俺は瞬時に理解し、頷いて先へと進む。
――《地下2階 ボイラー室》
「じゃあボイラー室で何をすれば隠し部屋が開くのか。最後の条件を満たすために、今から実践して見せます」
ボイラー室の前に俺たちは立ち並び、狭い入り口から俺を先頭にして順に入って行く。
シュッシュッと音を立て、まるで蒸気機関車のようなリズムでボイラーが稼働している。
温泉スタッフが一人、中にいたので声を掛けた。
「お忙しいところすいません。ちょっとこの先に用事があるので、協力してもらえませんか」
「えっ、この先って、何もないですけど? わっ、皆さんどうされたんです?」
事情を知らない温泉スタッフに簡単に現状を説明し、このホテルに隠された部屋を暴くために暗号の答えを伝える。
「あー! はいはい、わかりました。じゃあちょっと待っていてくださいな」
「蒸し暑い所ね……ここで何をすれば秘密の部屋が見つかるんだっけ?」
狭い空間に13人もの参加者がたむろしているわけだし、暑苦しい。
そんな中、エリが俺の隣に居る。怖いのを我慢してついてきてくれたのだろう。
「皆、俺の声が聞こえるかな? 第3の暗号2行目『酌みし炎は地獄への招待状』は、実はそんな複雑な暗号ではないんだ。地獄を『459』になぞらえて、温泉の温度を調整するボイラーに『45,9度』と設定してしばらく待つとーー」
温泉スタッフはその言葉を聞いて、温度を調整した。
ガチッ!!
「なんだ? 何かの音がしたぞ」
ガイが反応する。ボイラー室の何もない無機質な壁が、少し動いたように見えた。
「どうやら……この壁の向こうに例の部屋があるようだ。こうやって――」
取っ手の無い壁を押すと、そのまま扉として開かれた。麻薬の隠し部屋へと通じているのだろう。
「通路は狭いので、一人ずつ順番についてきてくれ」
「……マサ」
俺はエリの手を握った。不安が無いと言えばウソになるが、作戦通りに上手く事が運ぶことを祈ろう。
「薄暗いけど……こんなところ通って、帰りはちゃんと戻れるのかねぇ」
「吟子、私たちが代表して発見するんだ。我慢しなさい」
通路の先にも扉がある。客室のドアノブと同様に、下げて引くと、室内の光が通路に漏れ出した。
――《地下2階 隠し部屋》
「こ、これが……」
「麻薬の貯蔵庫だ」
俺とエリ、ガイが並んで周囲を見回す。壁一面に棚があり、それぞれ怪しいビンに入った液体や、粉袋のようなものが散見されている。
「これだけの量……よく集めたもんだ。とんでもない額になるぞ」
傳峰警部が唸る。
次々と参加者が部屋に入ってくる。それぞれの立ち位置を確認しておこう。
「皆揃ったか?」
薄暗い通路とは対照的に、まるで実験室のように部屋にはライトが設置されていた。天井にはちゃんと空調が完備され、中にしばらく居ても問題無いようになっている。
そうと分かれば、推理の続きだ。
「――今から俺は、ホテル業心殿ミッドナイトミステリーを開催するよう脅迫した人物を暴きます」
「……この場はキミに譲ろう!」
空気を読んだ探偵シオン。
「どういう意味だい……?」
「脅迫って?」
金弥と吟子へは説明不足だったな。そもそもここまで皆を誘導したのには大きな理由がある。
「始まりは、副支配人空橋健二へ送られた1通のメール。その内容とは『支配人を誘拐した』、『銀行の貸金庫に預けた日記を元にイベントを開催しろ』、『警察に話せば支配人を殺す』といった感じだ」
「ふむ……だから支配人の姿がなかったのか」
「誘拐されていたなんて……アタシ聞いてないわよ」
ラッキーとマーニィは複雑そうな表情をする。皆の表情もちゃんと見えるくらいには部屋は明るいな。部屋で唯一の出入口を俺の正面にして、皆に向かってはっきりと話す。
「空橋は脅された。支配人を慕っていた彼は、理不尽なこのミッドナイトミステリーを開催するしかなかった。ホテル全体を牢獄とし、参加者や従業員を監禁させ、この麻薬の隠し部屋を見つけるために仕向けていた真犯人は――」
全員が俺の言葉に注目している。
「――この中にはいません」
「「「えッ!?」」」
場が凍りつく。こうなることはわかっていたけど、話は終わりじゃないからな。
「良いですか、支配人は誘拐されてもう2ヵ月にもなる。真犯人は姿を見せないまま、計画をちゃんと副支配人空橋が実行するかどうか監視する必要があるんだ。つまり、ずっといたんですよ。監視者はね」
「せ、説明してくれ陽善君」
金弥がもの凄い剣幕で俺に問いかける。
「――初代支配人を殺した人物は、現支配人本人だ。空橋さんにメールを送り付けたのも支配人。そして、この結末を想定して参加者の中に潜り込んだ監視者とは……」
ガチッ!
撃鉄を起こす音がこの場の皆を束縛した。
「――もういいよ、ありがとう若き名探偵クン。スズ!」
出入口の扉を背に、俺に銃を向ける男……探偵シオン。
「……てめぇ!」
「おっと、お友達も皆も動かないように。名探偵クンが死んじゃうよ?」
ガイは今にも飛び出しそうな様子だったから、俺が手で制止した。
助手のスズがシオンの隣に並ぶ。
「……どうするつもりだ?」
「なぁに、簡単なことさ。スズに麻薬を運ばせ、私のスマホコントローラーで玄関のシャッターを解放してさようなら。空橋も私がこれから撃ち殺してくるけど、キミたちは全員ここで餓死でもいいんじゃないかな! ハッハッハー!!」
「皆さま動かないでくださいませ。名探偵シオンは本気でございますわ」
俺たちを部屋の角に寄せて、手際よくスズが麻薬を少しずつ部屋の外へ運び出す。そういえばボイラー室にいた温泉スタッフはどうするんだろうな。
現在時刻は0時35分。僅か10分ほどで部屋の麻薬は全て運び出されてしまった。
「くっ……若造めが」
「お願い撃たないで……撃たないで……」
金弥と吟子も、怒りと悲しみが漏れ出す。
「――さて、我々の目的も終わったことだし、キミたちはここに監禁するとしよう! 何か言い残すことは無いかね?」
俺に向かって言っている。つくづく面倒な奴だな。
「……『南部麒次郎』によろしく」
「ハッハッハ、誰だいその軍人は。では諸君、さらばだ!」
「御機嫌よう!」
こうして扉は硬く閉ざされ、俺たちは隠し部屋に監禁されてしまった。
「……ちっ。やられたな」
「大量の麻薬だからな、こういう行動を起こす参加者がいてもおかしくはないと思っていたさ」
俺とガイが会話したその時。慌てた様子で声を荒げる人物がいた。
「ち、ちょっと待ってください! 私たちはこれからどうなるんですか!?」
マジシャンのラッキーだ。
「さっきシオンが言ってただろ……俺たちみんな餓死するまで閉じ込められんだとよ」
ガイが飄々と答える。すると今度はマーニィまでもが取り乱し、両ひざをつく。
「違うのよ!! 依頼を受けた監視者はアタシたちなの!!」
「はぁ?」
頭の上で両手を組んで、棚にもたれかかるガイが適当に返事している。
「えっと、説明してくれますよね? マーニィさん、ラッキーさん」
エリはしゃがみ込む彼女に近づいた。間もなく、マーニィは大粒の涙を流す。
「私とマーニィは……大金で雇われた監視者です。麻薬のある隠し部屋を見つけて報告するまでが我々の任務……でしたが」
監視者であることを自白したマジシャンペア。事態を重く受け止めたようだな。
「何なんだ彼は……なぜ拳銃なんか持っていたんだ!」
「嫌よ……嫌!! こんなところで……死にたくないぃッ……!」
マーニィを宥めるように、エリが肩を抱いていた。
「傳峰警部、彼らは罪になりますか?」
「……いや、どうだろう。日本にはスパイ取締を目的とした法がない。大金で雇われた事実はあっても、お前ら二人が何の罪を犯したかは……まぁ取り調べだな。後で色々話してもらうぞ」
「警部って……警察……なんですか」
俺と警部の会話を聞いて、驚いた様子のラッキー。そりゃそうだ、警察に知られれば支配人が死ぬと思っていたんだろうからな。
「ラッキーとマーニィ、おまえらは依頼主と連絡は取っているのか?」
「いえ……隠し部屋を見つけたら、報告する予定でした」
12畳くらいの隠し部屋に不穏な空気が流れた。
すかさず綾城巡査部長が問い詰める。
「誰に報告するつもりなんだ!?」
「ひっ! ……空橋さんです」
「「「ッ!!」」」
黒幕確定。いや、複雑な関係か。
多数の被害者を出した金鬼と銀鬼。その金鬼を殺したのは初代支配人、銀鬼。
更にその銀鬼を殺したのは2代目の現支配人。そしてその支配人が利用した副支配人。
空橋は……最後まで支配人の指示を全うしたのだろう。
大方、麻薬取引の権利を全て奪うために銀鬼を殺したが、肝心の麻薬の隠し部屋を知る術を失ったってところだろうか。奴が徹底して味方をしてくれたら、もう少し楽に俺たちの計画も進んだんだが……仕方ない。
ここから俺たちの本気を見せてやる。
「聴こえるか! いまだ、弘道さん!!」
ゴゴゴゴゴゴゴ……
傳峰警部にお願いして、403号室にいる機械工学に詳しい草片弘道へトランシーバーを片方戻していたんだ。腰にセットしていた俺のトランシーバーは最初から彼と繋がっていた。作戦はまだ続くぞ。
『あー、いま全館の鉄格子を再度ロックしたよ。どうぞ』
「よし、電気室はどうです?」
『大丈夫、ちゃんとロックされたままだよ』
空橋のことだ、俺たちが隠し部屋に到達した頃合いを見計らって、鉄格子を一部解除させて隠し部屋の条件を狂わせたはずだ。
「弘道さん、電気室の鉄格子をそのままハッキングしておいてください。いま空橋に逃げられると厄介だ」
それだけ伝えると、俺は出入口の扉を開こうと力を入れる……が。
「おいマサ、開かないのか?」
「ダメだ……隠し部屋へ出入りするための条件が狂ったのかもしれないな。シオンの奴め……」
こうなったら奥の手だ。
「それ、もう取っていいぞ、タツヤ」
馬ヘッドコンビの茶色がプハァと息を吐きながらフェイスマスクを外す。中からは、汗にまみれた爽やかなイケメンが現れた。
「いやー暑かった!」
「ええぇぇええ!? タツヤ!?」
しまった、エリとガイには話すの忘れていた。
「洋風の造りだからね、通気口は通れるから、背が高くて細い僕に任せて! 外から扉を解除するよ」
「なんでタツヤ!? お、お隣さんは?」
エリの疑問の直後、白毛の馬ヘッドマスクが外されると、そこには見知った顔があった。
「暑くて死ぬかと思いました……」
「あーっ! 美人受付のお姉さん!?」
若い馬カップルのフリをしていたのはホテル従業員の女性だ。そもそも馬カップルは、最初からイベントに対してやる気がなかったから部屋で待機してもらっている。
そして事前に彼らの情報を伝え、馬のフェイスマスクを借りて、二人とも口調や服装も化けることで、行動を自由にしたって訳だ。
「申し訳ない、俺の茶番に付き合ってくれてありがとう」
俺の考えた作戦だが、指示の通り動いてくれて感謝しているよ。
タツヤは棚に足を掛け、手際よく天井の通気口の蓋を外す。さすがバスケ部、仕草がカッコイイ。
「おい、タツヤお前どうやって部屋から抜け出したんだよ!? つか無事でよかったよ!」
「ふふっ、ガイ君ごめんね。実は、僕の父さんはこのホテル業心殿を設計した一級建築士なんだ。通常、人が通れない通気口をわざわざ通れるようにしてあるミステリーホテルなのさ――」
それだけを伝えると器用に天井へと移るタツヤ。そのままガサゴソと暗闇の中へ消えて行った。
――数分後、出入口の扉が開かれる。
「お待たせ! やっぱりボイラーの温度がずれていたよ。……まぁ変えたのは温泉スタッフかもしれないけどね。シオンとスズはもうこの場から離れて居なかったよ」
「サンキュー、タツヤ! そのスーツ、真っ黒に汚れちまってるけどお前カッコいいよマジで!」
ガイとタツヤは力強くパァンと音を立てて手のひらを打ち合う。相棒って感じだな。
この場の全員がボイラー室から廊下まで出たことを確認して、再びトランシーバーに向けて言い放つ。
「弘道さん、俺たち全員脱出しました、全館ロック解除を!!」
『――了解』
ゴゴゴゴゴゴゴ……
今度は全客室や階段、玄関を塞いでいたシャッターを全て解除した。
イベント最大の功労者、MVPは弘道さんだな。
「さっそくだが、俺たちも直ぐに移動するぞ。今あいつらが全参加者とスタッフを玄関に集めに動いているはずだ。皆も先に1階へ向かってくれ」
「綾城、お前はラッキーとマーニィを絶対に見失うな。手錠を掛けても良いぞ」
「……私たちは逃げも隠れもしませんよ。金で雇われたとはいえ、多くの人を監禁する悪の手助けをしてしまったことになる」
「そうね……これは罪よ。ラッキーと一緒に、アタシも罪を償うわ」
手錠を必要としないまま、俺と警部だけを残して皆が1階へと向かった。
――《地下2階 電気室》
勢いよく扉が開かれると同時に、警部が大声を上げる。手には、かの陸軍中将『南部麒次郎』開発の拳銃『ニューナンブM60』が握られていた。
「動くな!!」
電気室で多数のモニターを眺め、警部の警告も微動だにしない空橋の姿があった。
「空橋さん。貴方は支配人を本当に最後まで信じていたんだな。なぜだ? なぜ犯罪と分かっていながら、そこまで指示通りに動けるんだ?」
「……陽善さん」
空橋は椅子に座ったまま、未だ動くこともせず声だけを響かせる。
「私は……私たちのホテル業心殿は……多くの罪の上に建てられたと……」
スッと立ち上がり、ようやく俺たちを見た。その目には涙が溜まっている。
拳銃の銃口は空橋に向けられたままだ。
「支配人……山芝さんは……これまでの罪を償いたいと、常々私に言っていました」
「償うだと?」
傳峰警部は決して油断しない。
「……てっきり、財宝を見つけたら被害者家族に返すものだと思っていました。ですが……陽善さんの話を聞いて、私は不安になりました。……まさか財宝とは麻薬のことで、その根源を絶つつもりで支配人は人生を掛けたのだと……」
「どういう意味です?」
言っていることがまだ俺には理解できない。山芝という名の現支配人は銀鬼を殺したと推理したが、実際はどうなのだろうか。
「――ある日、初代支配人の悲惨な罪を、山芝さんは知ってしまいました。転落事故なのか、故意に突き落としたのか、私にはわかりませんが……結果、初代支配人は亡くなりました。……銀行の貸金庫の名義は山芝さんのものです。日記はそこで手に入れました」
よく見ると、空橋は大切そうに、金鬼の厚い日記を抱きかかえている。その瞳からは、涙が流れ出す。
「誰も解けなかった麻薬の隠し部屋……金鬼事件の被害者家族である山芝さんは、4つ目のメッセージを書き足していたのです」
《罪は罪 罰は罰
開かれし時を信じ わが手は赤く染まり続ける
ここは死刑台 手の鳴る方へ》
「……」
「つまり、自らの行いを罪と理解していながら、何としてでも、金鬼の財宝を明るみに出したかったのですね。支配人も……貴方も」
何ともやりきれない話だ。同情は出来ない。
警部の持つ、拳銃の照準は下を向く。
「……手錠はまだいらねぇな。空橋さんよ、自分の脚で歩けるだろ?」
「はい……」
――こうして、『ホテル業心殿ミッドナイトミステリー巨大監禁事件』は終わりを迎えた。
――《1階 特設会場》
時刻は深夜1時を越えていた。
極度の空腹と脱水で苦しんだ参加者と各従業員が特設会場に集まり、急ピッチで食事の用意がされ、具合が優れない人のために救急車も即座に手配された。
そして――会場の中心には、彼がいた。
「やあミスター陽善! 客室を回って全員を呼び出した私を褒めたまえ! どうだったかな、先ほどの私の演技は!」
「……ちゃんと綾城さんに拳銃返したのか? あんた相当ヤバかったよ。マジで麻薬の持ち逃げしたのかと思ったくらいだ」
「ん~楽しませてもらったよ、ハッハッハー!」
「ナイス推理、アンド、ビューティーよミスター陽善!」
参加者の中から監視者を炙り出し、空橋から自白を得るために練った作戦だったが、狂人役は完全に人選ミスだ。どうやらボイラー室にいた温泉スタッフにも、麻薬を運ぶのを手伝わせたらしい。
「てめぇら……今回のことを世間にしゃべったら、拳銃横領の罪でしょっぴくからな?」
ビクッと固まる探偵シオン。こいつ本当に探偵か?
「マサ、本当におつかれさま。その、ありがとう……ね」
「エリ……」
傍にはいつもエリがいる。俺の疲労感は、この一言で救われた気がした。
「ほんと、マサがいなかったら俺ら全員死んでたぜ!」
食器プレートに大量の食事を乗せたガイ。お前元気だなぁ。
「……謎が解けなくても、結局は解放されていたのかもな」
「えっ、そうなの?」
わからない。わからないが、目の前で見た空橋の涙だけは信じることが出来そうだ。
「陽善君、そろそろパトカーが到着する。私はこの後、空橋・ラッキー・マーニィを護送する。残念だがここでお別れだ」
「綾城巡査部長」
握手を求められたので応じるが、握るその手はとても力強い。
「私は感動しているよ、勇敢にも謎解きをする君の姿は忘れない。また何かあったらいつでも頼ってくれたまえ」
「こんな一般人のことを信じて協力してくれて、ありがとうございました」
「いや、本当に凄い推理だったよ。……最後のアレ、よく我々の拳銃の由来まで知っていたね。あれには驚いた」
すると、エリとガイが口を揃えて、またあの台詞を言う。恥ずかしい。
「「マサは『雑学王』だからね!!」」
次話のエピローグで第一章を完結します。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。




