第9話 ……本当に止めていいんですか?
あれ?私は依頼でマリアナから離れた村に来てるのに、どうしてリリムちゃんと抱き合ってるのかしら?
しかも裸とか……一体何があったの?
どうにも頭に靄がかかったみたいで思考が働かない感じがする……
『それは夢だからですよ、ウルペクラさん。全て夢なのですから私が何をしたとしても気にしないで下さい……』
そう……これは夢なのね。
この村にリリムちゃんが居る訳が無いもの。
私ったら随分と厭らしい夢を見ちゃってる。
ううっ、なんか恥ずかしい……
『恥ずかしい事なんて何もありません。お互いに好き合ってる証拠だと私は思います』
私がリリムちゃんを好き?
確かに可愛らしいし好きよ。
でもそれは友人として好きな筈。
もしかしたら心の中では恋愛感情を抱いているって事かしら……
「そうなの……かしら?」
何だか思った事まで全てリリムちゃんに筒抜けとか、これは絶対に夢としか思えないわ。
『その通りです。だから……こんな事だってしちゃいますからね』
頬を摺り寄せながら耳元で囁くリリムちゃん。
「ち、ちょっと!そんな所は触ったら駄目!」
リリムちゃんの手が私の大事な所に伸びて行くのに気付いた私は慌てて太ももを閉じて侵入を阻止する。
「リリムちゃん、止めて!」
恥ずかしさと怖さに必死になって懇願する私。
あれ?止めてくれた?
私の願いを聞き入れてくれたのか急にリリムちゃんの手が止まり私からゆっくりと離れて行く。
そして私へと普段は絶対に見せないような隠微な笑みを浮かべて見せた。
『……本当に止めていいんですか?』
舌舐めずりまでしてる……思わずリリスさんを思い浮かべる私。
『こんな時に母を思い出さないで下さい!』
一瞬だけリリムちゃんが怖い顔をした気がする。
『それなら……もう何も考えられなくしてあげます』
再び私に躙り寄るリリムちゃん。
その瞳が妖しく紅く光を放つ。
か、身体が言う事を聞かないわ。
今度は全く動けない……
もう駄目だと諦めた瞬間……
「おはようございます、冒険者様。既に朝食の用意が出来ていますけど起きていらっしゃいますか?」
何処からか昨日の夕方お風呂を案内してくれた女性の声が聞こえて来た。
そして徐々に覚醒する私の意識。
「あれ?此処は……間違いなく昨日泊まった村よね」
辺りを見渡すと朝日が差し込む部屋に居る。
そしてベッドに横たわっているのは私一人。
やっぱり夢だったみたい。
それにしても衝撃的な夢だったわ。
もしかしたら欲求不満なのかしら?
はぁ、気を引き締めなきゃ!
「は〜い、ありがとう。今すぐ行きますね!」
勢い良く起き上がってみたけど先程とは違い身体の自由が効く。
「ではお待ちしています」
そう言い残し去って行く彼女の足音がゆっくりと遠ざかって行くのを聞きながら私も慌てて服を整えてると部屋を出る。
バタンとドアが閉まった瞬間……何処からともなく(お酒が抜けて漸く意識が戻ったのに……)とか言う言葉と共に残念そうな溜め息が微かに聞こえた事に私は気付かなかった。
「おはようございます!わぁ、良い匂い」
テーブルの上に並ぶ焼き立てで芳ばしいパンの匂いに食欲を唆られる。
「どうぞ、沢山召し上がって下さい」
昨日は酔い潰れたのもあるけど私は朝からそんなに沢山は食べられないわよ。
うっ、獲れたてとは言え焼いた牙猪の肉も並んでいるわ。
中々にヘビーなメニューね。
でも折角用意してくれた私の朝食!
「喜んで頂きます!」
そして完食……私は頑張った。
ええ、頑張りましたとも!
きっとお昼ご飯は食べられないと思うわ。
お礼を言って充てがわれた部屋に戻るとベッドに転がり、出産直前の妊婦さんみたいに荒い呼吸を繰り返す。
「ヒッ、ヒッ、フー……ヒッヒッ……って!これ違う……出ちゃう奴よ!」
馬鹿な事をしながら暫く村から出発出来ない私だったり。
もう出ないと夜までにはマリアナには着かないと言う時間になって漸く村を後にした私を村人総出で見送ってくれました。
かなり心配されてもう一泊したらどうかとか言われたけど丁重にお断りしておいたわ。
村長さんがとっておきのワインがあるとか言ってるし危険過ぎる。
きっと明日も同じ姿になっている気がするもの。
楽しんで貰えたら嬉しいです。