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魔神、後悔する


「ほら、ローバーの仕組みって、わからないけど何となくわかるじゃん。こう動いて……こう動いてって」


 歯車とかシリンダーとかだろうか。

 外見からすると、そうなんだが……。

 そう言うと、ミシァは首をかしげて続ける。


「昔のひとが作ったんだよ。ローバーもアーティクルも、虚体(マギア)だってそうかもね。でも、今のひとには作れない。どうにかこうにか動かしてるだけ」

 しっぽが回りながら歩いている。

「疑問に思ってたんだが、そのローバーって、どこで造ってるんだ?」

「掘ったら出てくるよ?」

「掘ったらって……遺跡かなにかか?」

 使用人らが廊下を忙しなくしている。

 こちらを見かけては丁寧に通り過ぎるのを待つのだが……。

 早足に戻り、階段をぱたぱたと行き交っている。


星体(ギア)も掘ったらでてくるのか?」

「知らない」

 ミシァの足が止まった。

 ひときわ飾られた扉の前だ。

「伝説ですから。完全にないとは言い切れませんが……。先生の魔神界では、そういったものはありませんか? 私としては、うまく例えが浮かばないのですが……」

 パーシアンナが白衣を正しながら尋ねる。

 俺も気持ちだけ背筋を伸ばした。

「なんだろう、伝説か……。それこそ、巨人もそうだし、魔法なんかもそうだな……」


 しっぽがノックを鳴らす。

 黒毛のしっぽで鳴ってはいないが、ミシァは構わずに開けた。

 メナの手を握り、ふらふらとベルーシカも続いて入る。


「ああ! フォルネウス殿! いえいえ申し訳ない、お出迎えもせず……!」

 領爵は汗を拭った。

 薄い頭は若干、乱れている。


「いえ、あー……お忙しいようで……」

「いえいえ、てっきり、例のあれ(・・)で来られるかと思っておりまして……」

「ああ、あれは、村に停めてありますので。馬車もまあ、いいものですよ」

 村というより、どこかの山中だが。

 取りに行くのに難儀しそうだ。


 領爵の執務室、らしい。

 客間と同じように、怪しげな収集品が並んでいるが……。

 メナの美少女フィギュアもある。

 そして、重厚なテーブルから立ち上がった先客が二人。

 貴族……だろうか。領爵と同じくらい身なりは良い。


「ああ、こちらは、クラウディア共和国の代史、クラウン閣下でございます」

 黒々とした髪の長身の男が会釈をする。

「そして、ボルダ・ボルデ領代史、ボルド閣下」

 こめかみに埋まる眼鏡の男が、同じように立つ。


 代史……街に駐在する外交官みたいなものだろうか。

 時系列からして、村に着いた荷馬車はすでに早馬を走らせていた。

 少なくても、昨日までの出来事は伝わっている。

 サモン・スキュラを倒したのも。

 それで俺たちが呼ばれているわけだが……。

 こっちとしては、(かくま)ってほしい思惑もある。


 両者に固く握手を求められた。

 そして領爵と話の続きだろうか。

 三人からは気負いというものを感じない。

 友人のような……かなり友好的な話しぶりをしている。


 黒髪の男……クラウディアは隣国だ。

 そして仲がわるい、とも聞いた。

 ボルダ・ボルデ領は聞いたことはないが……。


 こそりとパーシアンナに訊く。

 その前に目線を読まれたように答えを返された。

「……コートベルの貿易相手領です。最大の、という認識で良いかと。ええ、天気がよろしければ、対岸の眺めは美しいですよね」

 後半の声は、眼鏡にも聞こえるように言う。

 ボルド閣下だったか、照れくさそうに笑って返す。


 もうひとりの黒髪のほうも、にこりと笑った。

 隣国のクラウン閣下。

 仲がわるいという印象は感じない。

 国同士、王国に対してのこと、なのだろうか。


「教会側からはなにか?」

「まあ、沈黙でしょう」

「こちらから尋ねるわけにもいきませんからな」

 三人で笑いだす。

 そして俺たちもテーブルに促された。


「……あのな、メナ。椅子があるときはな。俺の膝に座らなくてもいいんだ」

「えっ……!」

 メナがちょこんとソファーに座り直す。

 運ばれてきたお茶は、やはり緑茶に近かった。


「ええと、聖女閣下……お体の具合でも……?」

「領爵殿、お気遣いなく。……ほら、流行りのお茶でも飲んで黙ってろ」

「……苦いよおおお!」

「ベルーシカさん、はちみつをどうぞ」

 しっぽがけらけらと笑っている。


 目の前の大人ふたりにも笑われている。

 保護者にでもなった気分だ……。


 間を置いて、眼鏡が咳払いをした。

 こめかみにめり込んだ眼鏡をかけ直す。

「ええ、フォルネウス殿、旅のお方と聞きましたが、相当なやり手のようで。ええ、王国の機兵連隊を破ったというお話は伺っております」

 お茶をすすって聞くが……。

「……はい?」


 今度は黒髪だ。なぜか歌うような声だ。

「そして! はい、それの追う虚体(マギア)も討伐なされたと。はい、魔神様とお呼ばれだとか。それについては……お伺いしないほうがよろしいですか?」

 品よく耳を傾けてくる。

 言うなれば聞きたいのだろうか。

「あのですね、サモン・スキュラは……まあそうなんですが。王国軍を襲撃したのは、なんというか、成り行きで。破ってもいませんし、あえて敵対するつもりもないんですよ」

 おお、と沸く。

「いえいえ、成り行きで打ち破るとはなおさらです。そういうことになっております」

「いや、だから……」


 こちらは無罪を獲得できたら、それでいいのだ。

 虚体(マギア)を倒したのも、そのためなのだから。

 ましてや、王国へは救世主との報告が行くらしい。


 できれば領爵に仲立ちしてもらいたかったが、それももう必要ないだろう。

 領爵にとっても、俺にそこまでする義理はない。

 ……まあ、義理、というか、メリットはあるのか。

 ということは……。


 ことりとお茶を置いた。

 おそるおそる聞いてみる。

「……そういうことに、したいと?」

 領爵は黙って微笑んでいる。

 眼鏡も、黒髪も、不自然なほどに表情を変えない。

 ただにこやかに微笑んでいる。


「ええ、虚体(マギア)というと、ローバー十台にも匹敵すると。ものによってはそれ以上ですが。ええ、機兵大連隊並みの戦力ということですね」

 眼鏡が指を数えるように言う。

 ミシァまで混じりだした。

「ローバーを奪おうとしたんだよ」


 そう、山賊と間違えて。

 黒髪がうなずく。

「なるほど、はい。王国のローバーを奪い、戦力を削ぐ。その、魔神様……の力と合わせると、かなりの規模になりそうですな……」

「規模って、俺はただ……」

「もちろん、反乱でしょ?」

「は?」

 ミシァのしっぽが楽しそうに揺れている。


「こらこら、ミシァ。反乱などと」

「ええ、反乱などと」

「はい、反乱などと」

 三人が笑う。

 目は笑っていない。


「いや、ローバーって、土木工事とか運搬とか……。まずは村で畑を耕すのに使ってみようと、ちょっと借りるくらいのつもりで……」

 ……貴族の反乱。

 国家転覆で捕まるくらいなら、その王国への反発を味方にできないかとは考えた。

 しかし隣の領地はまだしも、隣国までも巻き込む話なのか?


「ははは、いえいえ、ローバーは立派な戦力になりますけど。反乱などと」

「ねえ魔神! 畑を耕すだけって、もったいないよね!」

 親子が笑う。


 ……話が大きくなっていく。


 俺はただ、村の畑を耕したかっただけなのに……。




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