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魔神、異世界へ行く


 車、というより車輪のついた椅子台だ。

 二頭の馬が、それを引く。


 ……つまり、馬車だ。


 生成り色の(ほろ)が日陰を作っている。

 その中から機嫌の悪そうな声が上がる。


 足が飛び出してきた。

 勢いよく座席を踏みつける。

「あんた()かれたいのかしら!」


 少女は頭をぶつけたようだ。

 (ほろ)の木組みが揺れ、座席に沈んでいった。


 頭を押さえながら、ふたたび現れる。

「いきなり飛び出してきて! ここをどこだと思ってるの。街道のど真ん中よ!」


 ……街道?

「俺は国道にいたんだが」

「コクドウ?」

 少女は頭をさすりながら言葉を返した。

「聞いたことないわね。ここは……えとね、ここは……」

 同乗している、女性……だろうか。

 フードが耳打ちをする。

「コートベル第四街道の中ほどでございます」

「そう、第四街道よ!」

 ぴしりと指を放って怒鳴った。

 座席の背へ踏みつけた足がすべり、顔面から地面へと落ちる。


 わけがわからないが、ひとつだけ確信した。

 こいつはバカだ。


「カイドウ」

 街道と言ったのか。


 足元には草が立っている。

 (くるぶし)が埋もれるほどだ。

 それが遥かな緑に広がっている。

 街道というよりは、だだっ広い草原だ。


 周りを見渡してみた。

 しばらくの視線の向こうで、ようやく土色に変わる。

 その先に地平線が、山々が連なっている。

 知っていそうで見たことのない景色だ。

 

 空は変わりなく、朝日だろうか、雲の行く先を照らしている。

 少なくても近所ではない。

 外国かどこかだろうか。


 ぎゃあぎゃあと騒ぐ少女の声が、馬車から草原に放たれている。

 フードの連れが困ったようになだめている。

 もうひとりいた連れが声を投げてきた。

「旅の方、あちらが街でございます。あちらに行かれるとよろしいでしょう」

 馬車のやって来たほうを指さす。


 従者かなにかなのか、少女に対して腰を低くしているように感じた。

 それとも単に子供扱いか、両方かもしれない。

 見た目はそこまで幼くはないと思うが。

「そうよ、あっちに行きなさい! うっ……旅人だか魔族だか、知らない、けど。わたし、は、大切な用事があるんだから! 面倒に巻き込まないでよね! うう……」


 具合でも悪いのか?

 少女はうずくまる。

 フードの連れが背中をさすった。

 御者に、できるだけ揺らさずに進むよう言っている。


 乗り物酔いか……。


 馬車は、ゆっくりと小さくなっていく。

 もう一度、周りを眺めた。

 ただ静かに風がそよぐ。


「魔族……?」



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