魔神、トレーラーに轢かれる
……眠い。
果てしなく眠い。
眠気を越えて、身体中が脳に持っていかれるようだ。
原因は……。
「ゲームのせいだ……」
横断歩道の赤信号を瞳に閉じ込めた。
夜風が遠く静けさを運んでくる。
一瞬、立ったまま眠っていた。
ふたたび歩き出す。
キャラ作成に時間をかけすぎたのがいけない。
待望の新作で、これからの冒険が楽しみではあるが。
コンビニの明かりに向かって歩く。
まるで虫かなにかだ。
レーションメイドならプレイしながら食べられる。
その前に、帰ったら仮眠でもしなければ寝落ちが目に見えている。
「財布、持ってきたっけ……」
ポケットを探った。
そうそう、このモーションだ。
プレイヤー間ではさっそく、尻からアイテムを出している、と不評だ。
トレーラーが迫ってきた。
視界の隅に赤信号が映る。
青に変わって……また寝てたのか?
ゆっくりと空気が流れる。
気流すら感じるくらいに時間が遅い。
意識だけが、はっきりと仕事をしている。
生命の危機には、こういった感覚が起こるらしい。
ゆっくりとトレーラーは迫ってくる。
「でかいな……」
車体の下をすり抜ける奇跡でも起きないだろうか。
「いやいや、そんな馬鹿な」
終わりだ。
フロントガラスに映る月に吸い込まれていく。
そして、俺は轢かれた。
――墓場と呼んだ。
ただどこまでも暗く、どこまでも広い。
どれだけ時間が経ったかも思い出せない。
はるか長い時間にも、ついさっき来たばかりにも感じる。
ただ、ここにはすべてがあった。
すべての元素、宇宙のエネルギー、歴史の残骸……。
ヒトを思い浮かべたらそれが現れる。
モノを思い浮かべたらそれが作られる。
ただ、一瞬でぽろぽろと崩れていく。
理由がわかるのにしばらくかかった。
俺はそこまでヒトを知らない。
モノの組成とやらにも詳しくない。
思い出せるようで思い出せない。
知らないものを具体的なイメージに留めておけないのだ。
終わることのない死。
それが墓場だ。
残された興味はひとつ。
「この暗闇を抜けることができるか」
撥ね退ける力。
脱出できるスピード。
この足じゃムリだ。
もっと速く。
ヒトを超える力が要る。
妙にしっくりくる座り心地だった。
「これは……」
バイト代で買ったゲーミングチェアじゃないか。
なかなかにお高い値段だった。
それだけに身体全体をやさしく包み込むフィット感は抜群だ。
広告もたまには嘘をつかない。
ペダルを踏む。
そんなものあったか?
仕組みや原理なんかどうでもいい。
ただ進め。
もっと速く。
いつか見た光だ。
暗闇が終わる。
墓場から出られる――。
遥かにまぶしく、薄目に耐えた。
目の前には車体が迫ってくる。
「待て、また轢かれるのか!」
轟音がすり抜けた。
すり抜けた……?
ぽつりと取り残されたように、車の音が止まった。
「いやいや、そんな馬鹿な」
やり直せたのか?
撥ねられる前に……。