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魔神、吐かれる


 攻撃するべきか。

 威嚇くらいに留めるべきだろうが……。


 加減ができるだろうか。


 ローバー相手なら、手のひらでせき止めることもできる。

 少し蹴れば飛んでいくだろう体躯の差だ。

 しかしある意味では、人間相手には不向きといえる。


 すでに強盗ではあるが、これ以上やるべきか。

 山賊とはいえ、踏み潰すわけにはいかないだろう。

 そもそも、もっとスマートな作戦じゃなかったか?


 教義とやらによれば、盗品を盗んでも罪には問われないらしい。

 もとの世界と違って自力救済が認められている。

 うん? 傷害の場合はどうなるんだ?


「あの……旦那さま。もうお休みの時間ですか? 今日はもうちょっと一緒にいられると思ったんですけど……」

 メナが瞳を潤ませていた。

 薄く悲しそうに声を震わせる。

「いや、考えているだけだ。……村まで追いかけられても困るしな……」


「……もげ」

 なんだ?


 耳元でベルーシカが顔を青くしている。

 忘れてた。

 こいつは極度の乗り物酔いだ。

「うぷっ……」

「待て、耐えろ、まだ出すな!」

「……がんばる……」

 涙目でこらえている。


 考えを元に戻す。

 まずこいつを外に投げ出して、それから……。


 ちがう、追っ手のことだ。


 W.W.(ホワイトウィッチ)の右腕を構える。

 追っ手の方向へ、ぴんと伸ばした。

 照準をローバーから逸らし……これで退いてくれたらいいが。


 前腕の小盾から光弾が放たれた。

 光のつぶてが地面を潰していく。

 斜面がえぐられ、土砂が崖へと崩れていく。

 わずかにあった山道が埋もれていく。


 倒木や落石を境にして、追っ手の足は止まった。

 これでローバーでも簡単には越えられないだろう。


「おお! 撃っちゃった!」

 ミシァがうれしそうに騒ぐ。

 長いしっぽがぺちぺちと頬(ほお)を叩いてくる。

 手の甲でのけながら失敗に気づいた。

「しまった、警告が先だったか」

 まあ、口で言って従うとは思えないが。

「また撃てばいいじゃん」

「ちょっと黙ってろ」


 追っ手へと拡声照準を合わせた。

 全身が汗だくの男たちから、恐怖や困惑の表情が見て取れる。


 どう警告すべきか。

 今さら穏便に、とは言いづらい。

 形としては、これ以上の危害を加えるつもりはない、だろうか。

 ここであきらめてくれるのが、お互いに最も都合がいいはずなんだが。

 ……そのために穏便に、か。


 ミシァが前へと湧き出る。

『おーい、撃っちゃうよー』

「こら!」

 追っ手に混乱が走った。

 ローバーの陰に隠れ、我先にと逃げ惑う。

 操縦者も身をこわばらせて怯えている。


 ミシァのしっぽが楽しそうに回る。

「魔神、今だ撃っちゃえ!」

「撃たねえよ! もっと後先を考えて……」

 いや……後先を考えていなかったのは俺のほうだ。


 山賊と聞いて、もっとこじんまりとした集団を思い描いていた。

 ほら穴にでも隠れてアジトにする、野性的なならず者の集団だ。

 それがどうだ。

 なかなかの規模であり、武器を揃え、統率された組織だ。


 もう早く帰りたい。


 追ってこないのなら、作戦は成功といえる。

 地面を踏み、空へ跳ねる。

 上がるにつれて追っ手のいる場所は靄(もや)に隠れていく。


 白の村……すぐそこだが、W.W.(ホワイトウィッチ)の高度を上げた。


「う……」

 また忘れてた。

 髪の毛を掴んでいる力が抜けていく。

「おい、まさか……」

 すでに顔面が真っ青だ。

「もげ……」

 崩れるようにもたれ、口が開いていく。

「やめろ、やめろよ、またここで……」

「もう……限界……」

「ここで魔聖水(デスポーション)を――」

「もげえええ……」


 最悪だ……。



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