表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/57

魔神、善良な市民を川へ蹴り落とす


「あんた! 暴漢だったのね!」

「ちがう。見りゃわかるだろうが」

 まあ、まばたきひとつに満たない出来事だったのだが。


「よくわかんないけど、助けてくれてありがとう! 怪しい旅人さん!」

 礼を言われているように聞こえないのはなぜだろうか。

「よく面倒に巻き込まれるな。連れはどうしたんだ?」


 ベルーシカは無言で歩きだす。

「また逃げられたのか?」

「はあ? バカなこと言わないで。バカなこと言わないで」

 なぜ繰り返す。

「図星か」

「……この街の支部にいるわよ。そしたら本教会に帰りたいとか、もともと赴任するはずだった王都に行きたいって泣き出して……」

「ああ、お前と一緒にいたくないってか。……そういえば、布教活動をしていたな。お前もその教会に帰ったらどうだ? みんな天使の奇跡だと思って喜ぶぞ? 泣くかもしれんが」


 ベルーシカは大きく歩く。

 こちらの話を聞いていない。

「教会からは、安全な王都配属と、僻地への派遣とを選べと言われたのよ」

 僻地……あの村か。

 すると俺が街道で会う前の話らしい。

「みんな、わたしが王都へ行くと思っていたわ。ええ、そうでしょうね。でもわたしは、厳しいほうを選んだの」

「……どっちにしても、教会を追い出されたのか」

「みんな驚いていたわ。そしてわたしを止めた。でも、わたしは負けなかった」

「あー……」


 王都とやらへ追い出すための二択に聞こえる。

「ふふ、わたしはあえて、苦行の道を選んだわ。……ところで、あんたはなんの用よ、そんなに布教のジャマをしたいわけ?」

「うん? 助けたつもりなんだがな」

「わたしは、あいつらを助けようとしたわ」

「うん?」


 ふたたび大股で歩く。

「……あいつら、聖天使様の教えをうるさいって。わたしの説法をうるさいって。でもわたしは諦めなかった」

 ……待て。

「そういうひとこそ、救わなきゃいけないじゃない? だから、ひと気のない場所に連れ出して、教会の教義を一から説いたの」


 ……こいつといると、頭が痛む。

「川なんてちょうどいいじゃない。せせらぎを聞きながら聖天使様の教えを話せば、どんな人間だろうと、きっと耳を貸すわ。そしたら、うるさいだの、時間がないだの……」

「絡んでいたのは、お前のほうか!」

 ぴしりと指が向けられる。

「もう少しで聖天使様の教えが伝わったわ! あんたがジャマしなければね!」

 ぷい、と歩く。


 そりゃ、いい加減にしやがれ、だ。


 村でもそうやって疎まれたのが目に浮かぶ。


 ベルーシカは、こそこそとメナに尋ねた。

「ねえ、あいつ何者よ」

「旦那さまは素敵でかっこいいひと……じゃなくて、素敵でかっこいい魔神さまです!」

「は? 魔神? めちゃくちゃ異端の匂いがするんだけど!」

 じろりと睨まれる。

「魔族の身なりをしてるから、わたしは最初からそうだろうと気づいていたわ!」

「いちいち指をさすな……。なんなんだ魔族って……」

 俺のことらしい。


「……あなた……誘拐されたのね、たぶらかされたの? お姉さんが助けてあげるわ」

 哀れみと使命感の目がメナに向く。

 そしてこちらへ指先を打つ。

「こんな女の子を(さら)うなんて、許せない!」

 気の抜けた風が吹く。

「なにを言ってるか知らんが、そいつは男の子だぞ」

「黙りなさい異端者! そういう(・・・・)呪いをかけたんでしょ!」


 面倒くさい。

「……あー。俺とメナになにかするなら、あの魔神さま(・・・・)を呼んでもいいんだぞ?」

「うっ……」

「すぐ近くに停めてあってな。踏み潰されると、痛いだろうなあ……。縄で縛られるよりも、馬車を顔面から落ちるよりも、ずっと、痛いだろうなあ……」

 高く空を見つめてみせる。

 W.W.(ホワイトウィッチ)の停めた方向とは逆だが。


「ま、まあ、いいわ。慈悲を与えろと教義にあるもの。見逃してあげるわ」

 ベルーシカは鼻を押さえながら言う。


「魔神にも慈悲を与えてくれるのか。寛大だな」

 遊んでいる時間はない。

 街がどんなものか知りに来たのに、なんでこいつと話してるんだ。


「ああ、買い物もあるな。……おっと、大通りに着いたぞ。メナ、はぐれるなよ」

「はい、旦那さま!」

 言うが先か、ぎゅっとしがみつく。

 少々歩きにくいが、まあ、迷子になられるよりはいいだろう。


 ベルーシカがメナの耳元にかがむ。

「ねえ、こいつ本当に何者よ……」

 メナはきょとんと首をひねる。

 言ったはずなのに、という顔だ。

「……一瞬だけ、ほんの一瞬だけ見えたのよ。こいつ、ものすごい速さで動いて、哀れな子牛を蹴りつけたの。見まちがいかもしれないけど」

「きっと、旦那さまにとっては簡単なことなんですよ!」

「むー……」

 納得のいかないようにベルーシカは口をとがらせて歩く。


 異端者だの言っておいて……。

 なんでついて来るんだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ