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魔神、水浴びを覗く


 空から見る森は、なかなかの広さだ。


 塗りつけられたような一面の緑。

 大小の木々が覆い尽くして山を埋めている。

 味噌汁でもかき混ぜたような乱雑さだ。


 ところどころで地肌の崖が、地形をより入り組ませている。

 低くには白く(もや)が溜まる。

 山脈というよりは、それぞれ隆起が膨れ上がったような地形だ。


 下手をしたら、この中で遭難していたかもしれない。

 ひと一人などかき消えてしまいそうな山林だ。

 ずっと見ていると目が回る。


 モニターの光に囲まれている。

 操縦席はそう広くない。むしろ狭い。

 ゲーミングチェアなのだ。

 足を伸ばせば行き止まる。

 腕を伸ばせば天井につく。

 それでも気が落ち着くのは、天性の引きこもり素質かもしれない。


 村の場所は聞きそびれたが、近くにあるのは間違いない。

 いくらか人がいたら、そこだろう。


「まあ……W.W.(ホワイトウィッチ)があれば、村へ行くこともないんだが……」

 その巨人(・・)の中、空で考える。

 いったん目指した先だ。

 たどり着かないままというのも、どこかこそばゆい。

 この世界に、行くあてもないのだから。


 広大な山地は森で埋め尽くされている。

 溜まった(もや)のように、ため息をついた。


 よほど切り開かれていなければ、この中から住居を捜すのは難しい。

 見つけたいものがどういうものかわからないのだから、なおさらだ。

 あのまま歩いたほうが、見つけやすかったのかもしれない。


 モニターのひとつが、ようやく開けた土地を見つけた。

 (もや)のすき間。偶然ともいえる発見だ。

 拡大して映す。

「……家、だよな。草ぶきか?」

 あきらかに人工物だ。

 十棟足らずが、ぼてぼてと並んでいる。

 森の中に、ひっそりと寄せ集まっているかのようだ。


「もっとこう、ゆったりした農村みたいなイメージがあったんだけどな……」

 まあ、馬車や山賊のいる世界だ。

 ほのぼのと小さく暮らす集落があっても自然なことだろう。


「まあ、降りて……ああ、いや、直接はまずいか」

 山賊も逃げ惑うほどの、いちおう巨大兵器だ。

 村人を混乱させるつもりはない。




 川面がちらりと見えた。

 枝葉のすき間からだ。


 静かに、静かに着地する。

 できるだけ低い姿勢でしゃがむ。


 ハッチを開けて身を出すと、枝葉が顔にぶつかった。

 木の枝を伝い、リスかなにかが走って逃げる。


「……まあ、驚くよな」

 すまない、と心の中で森に謝る。

 ジャマだと言わんばかりに、川の音がごうごうと響いている。


「ここから村へは歩いて……うん?」

 子供だ。

 川辺に子供がひとりいる。


 村の子供だろうか。

 川のようにさらさらと髪がそよいでいる。

 風で飛んでいきそうなくらい華奢だ。

 どこか儚さまで感じさせる。

 まだ小さい女の子だ。

 もしかしたら、この世界だ。森の妖精なのかもしれない。


 道くらい尋ねてみるか。

 ついでに川遊びは危ないぞ、と注意するか。

 W.W.(ホワイトウィッチ)から降りようとした足を止める。

 子供は服を脱ぎだした。


 ゆったりとした服の下は、やはり華奢な体だった。

 丁寧にたたんで川辺に置いている。


 華奢、というよりも、痩せて細い。

 ちょっと触れると折れてしまいそうな体つきだ。

 この距離でもわかるくらい、瞳は宝石のように空の色を返している。

 ちらりとだけ、こちらを向いた。

 きょとんと幼い顔立ちが首をかしげる。


 気づかなかったのか、そのまま川に入っていく。

 体を洗っているのか?

 枝葉のすき間から、ゲーミングチェアに腰を戻した。


 裸を見てしまった……。

 まあ、子供なんだが、それが余計に倫理観を締め付けられる。

 このまま出ていくわけにもいかない……か。


 さっき逃げたリスが、こちらを見ている。

 大人を試すように。


 水浴びでもしているんだろう。

 田舎ではよくある光景……なのかは知らないが。

 ぼんやりと空を眺めつつ、待つことにした。



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