魔神とベルーシカ
「な、な、なに……? あんた、本当に魔族かなんかなの……?」
蹄鉄型のタラップが降りる。
胸部の枠に戻っていくとハッチが閉まった。
W.W.はしんと立ちそびえている。
助かった点が二点。
山賊を追い払えたこと。
それと乗り物ができたことだ。
巨人を見上げ、遠くの景色に目を移す。
この山を徒歩で行くのはしんどい。
ましてや目的地すら曖昧なのだから。
せっかく手に入れた……なんだろう、超先端技術とでもいうのか。
使えるものは有効に使うべきだ。
物騒な世界だ。
山賊に遭うのが日常的な世界でないことを祈る。
少女は、俺と巨人を交互に見やる。
首が忙しそうだ。
連れの女もフードをめくって空を仰ぐ。
祈っているようでもある。
尋ねたい、というより気になることはいくらでもあるのだが。
「なあ、村があるんだろ? この先でいいのか?」
「……まさか……こいつ……でもありえない……きっと……ううん……」
少女は聞いていない。
指さす先など興味もないように、ぶつぶつとこぼす。
まあ、いきなりの光景だ。
考えを整理する時間も要るだろう。
びしりと指先が走った。
「あんたが生意気だという結論に達したわ!」
「……過程を聞きたい」
さんざん考えてこれか。
待って損した。
有意義なことを聞けると思ったのが間違いだったようだ。
いらいらと頭をかいた。
やはり、こいつと一緒にいる連れが気の毒になる。
村に向かうのだろうか。
この時刻から考えるとそうだろう。
ましてや馬車で山越えは考えにくい。
こいつよりも、連れのほうに尋ねたほうがよさそうだ。
「あの……村はどちらですかね。この道だとは思いますが」
「村!」
「お前には聞いていない……」
なぜ他人と話すと割り込んでくるんだ。
「お前じゃないわ。わたしをなんだと思ってるの?」
バカ、騒音、ゲロ女……。
「聖女ベルーシカ様よ!」
大声に鳥がばさりと飛び立つ。
ベルーシカは地団駄を踏む。
「いま思い出しても腹が立つ! 本教会の令廷に対して! ねえ、聞いてよ!」
「断る」
「村へ赴いて聖天使様の教えを説いたわ。わたし自らよ? 知ってると思うけど、ありがたい話よ!」
「すでにありがたくないが。……聖天使様?」
宗教かなにかか?
こいつが神職や宣教師には見えないが。
「……でも誰ひとり耳を貸さない。それどころか、うるさいから出て行けと……!」
「村人に同感だ。ほらまた鳥が逃げていった。野鳥もかわいそうだぞ」
「でもわたしは、あきらめなかったわ。夜になって一軒一軒、扉を叩いたの」
「悪質な宗教勧誘じゃないか……」
要するに、布教活動だ。
村人に煙たがられて、帰ったところというわけか。
ならこの先に、その村がある。
「おかげで野宿よ。馬車で夜を明かすことになるなんて……」
ベルーシカは、ぎゃあぎゃあと愚痴をまくしたてる。
やれ身体が痛いだの、教会がどうだの、口が減らない。
待て。
「……夜になって?」
はっと空を見る。
飛び立った鳥が晴天を泳いでいる。
横日だった太陽が、昇っている。
街道の一本木に着いたのが、さっき、真昼ごろだ。
そこで昼寝をして、夕方になったと思っていた。
それが朝日だったのか。
およそ、二十時間……だ。
夜にすら気づかず、眠っていたということになる。
「俺はお前のゲ……粗相の跡と、ほぼ丸一日、寝ていたのか」
そっちのほうがショックだ。
ところで……。
「お前の馬車、もう行ったぞ?」
「うん? なあに?」
ベルーシカはきょろきょろと周りを見る。
連れがこそりと馬車を出したことに、ようやく気づいたようだ。
仲間からも避けられているんじゃないのか?
「待ちなさい! 待って! 待ってよお……!」
泣きながら走っていった。
遠くで鳥が飛び立つ。
見えなくなってもまだ山中に声が響いていた。




